まもなく「ラグビーワールドカップ(RWC)」が始まる。10回目となる男子15人制のラグビーの祭典は、2023年9月8日(金)から10月28日(土)の期間にフランスで開催。ヨーロッパ勢のチームのレベルが上がったことにより、かつてないほどエキサイティングな大会になると言われているだけに、ぜひ注目したいところだ。世界中で有名なオールブラックス(ニュージーランド代表)などの強豪国をはじめ、前大会2019年に自国開催で初のベスト8進出した日本代表も参加する、「RWC2023」をご紹介しよう。

目次

ラグビーワールドカップの歴史

記念すべきラグビーワールドカップの第1回は、1987年にニュージーランドとオーストラリアとの共同開催。29-9でフランスを破ったニュージーランドが初代王者となり、それ以降は4年おきに開催されることとなった。これまでの優勝国はニュージーランドと南アフリカが3回、オーストラリア2回と、9大会中8大会を南半球のチームが制している。北半球のチームの優勝は2003年のイングランドのみで、圧倒的に南半球が強さを見せている。また、連覇したのは2011年と2015年に優勝したニュージーランドのみであることから、連覇することの難しさがうかがえるだろう。なお、過去に決勝まで勝ち上がったチームは以下の5チームのみだ。

  • ニュージーランド:4回
  • オーストラリア:4回
  • イングランド:4回
  • 南アフリカ:3回
  • フランス:3回

南アフリカは決勝に進出した3回、すべてで優勝している。また、フランスは3回決勝に進んでいるものの優勝はなく、開幕前の世界ランキング1位のアイルランドは意外にも準決勝に1度も進出していない。

RWC2023出場国20チームとプール組分け

前回の2019年大会の各プール(4プール)で上位3位となった以下12チームは、自動的にRWC2023の出場権を獲得。残りの8チームは、地域トーナメントや敗者復活戦によって決定された。

  • ニュージーランド
  • 南アフリカ
  • イタリア
  • 日本
  • アイルランド
  • スコットランド
  • イングランド
  • フランス
  • アルゼンチン
  • ウエールズ
  • オーストラリア
  • フィジー

今回、USAとカナダが出場権を逃したことにより、初めて北アメリカのチームからの出場国がない。一方で初出場のチリをはじめ、南アメリカから3チーム出場することになった。

プールA

プールB

プールC

プールD

ニュージーランド (4)

南アフリカ (2)

ウエールズ (10)

イングランド (8)

フランス (3)

アイルランド (1)

オーストラリア (9)

日本 (14)

イタリア (13)

スコットランド (5)

フィジー (7)

アルゼンチン (6)

ウルグアイ (17)

トンガ (15)

ジョージア (11)

サモア (12)

ナミビア (21)

ルーマニア (19)

ポルトガル (16)

チリ (22)

※( )内は開幕前の8月28日に更新された世界ランキング
※参照:WORLD RUGBY ワールドランキングhttps://www.world.rugby/tournaments/rankings/mru

準々決勝に駒を進めるのは、各プール上位2チームの合計8チーム。そして、この8チームによりトーナメント方式で優勝を争う。

RWC2023の優勝候補

ここ数年でめっきり力をつけ、安定感も出てきたアイルランドとフランスが頭一つ抜けていると言えるだろう。その2チームを追うのがニュージーランドと南アフリカで、この4チームでの優勝争いが予想される。しかし、今大会の組み合わせによりフランスとニュージーランドが同じプールA、アイルランドと南アフリカが同じプールBに入った。さらに、準々決勝の組み合わせはプールAの1位とプールBの2位、プールBの1位とプールAの2位が対戦することになっており、優勝争いが予想される4チームのうち2チームが早々と準々決勝で姿を消してしまうの。これを踏まえ、ここからは、各プールの展望を見ていこう。

プールA

自国開催で悲願の初優勝を狙うフランス、そして2大会ぶりの優勝を目指すニュージーランドの準々決勝進出は固いだろう。ここ数年で力を付けてきているイタリアが、この2チームにどれだけ対抗できるかも注目したいところだ。

プールB

もっとも混戦になることが予想されるが、前回大会のチャンピオンの南アフリカ、優勝候補のアイルランドが準々決勝に駒を進めることになりそうだ。しかし、近年力をつけてきているスコットランドはBK(バックス)の展開でもトライを取れるようになり、確実にレベルアップしている。このことから、スコットランドが2強に割って入れるか注目したい。その他、トンガ代表は代表資格のルール変更(※)を受けて、元ニュージーランド代表の選手数人が代表に加わった。全体のレベルが上がったことで、ダークホース的存在になりそうだ。

プールC

本来ならオーストラリア、ウエールズが優勢と言いたいところ。しかし、両チームともワールドカップ開幕の1年以内にヘッドコーチの交代などがあり、その後の成績も振るわず良い調整ができているとは言えない状況だ。この2チームに割って入る可能性が高いのはフィジーだろう。代表選手が多く所属するフィジアン・ドゥルアが2022年にスーパーラグビー・パシフィックに新規参加してから、選手の経験値が上がり代表のレベルの底上げに成功している。その結果、RWC大会前のウォームアップマッチ最終戦では、イングランドを初めて破る歴史的勝利(30-22)を果たした。このことから、フィジーがプールCの本命と言っても過言ではないだろう。その他、FWの強いジョージアのパフォーマンス次第では、プールCも大混戦になるかもしれない。

プールD

プールBと同様に混戦が予想される。力的に見ればイングランド、アルゼンチンが準々決勝行きの2枠に入ると思われるが、フィジーに初勝利を献上したイングランドの調子が良いとは言えず予想が難しい。この2チームに食い込める可能性があるのが、日本とサモアだろう。サモアも代表資格のルール変更により、元ニュージーランド代表と元オーストラリア代表の選手の多くが代表入り。確実にレベルアップしている。RWC大会前のウォームアップマッチ最終戦では、メンバーを落としたアイルランド相手とはいえ13-17と大健闘しており、要注目のチームと言えるだろう。

日本代表は大会前の試合で良い結果を出てないこともあり(1勝5敗)、不安視する声も挙がっている。強敵が多いプールに入ったため厳しい試合になると思われるが、日本が2大会連続でベスト8入りするには9月10日(日)に行われる初戦(チリ戦)を良い形で勝利し、勢いをつけたいところだろう。

※国際統括団体ワールドラグビーが2022年から適用した代表資格のルール変更により、以前の代表チームの最後の代表戦出場から36カ月以上が経過した選手が、本人の出生国または父母のルーツのある国の代表に一度だけ変更できる。

これまでよりレフリングが試合に影響する可能性

北半球のレフリーは厳密に反則を取り、南半球のレフリーは厳密というよりテンポを大事にするイメージがある。このことから、南半球のスーパーラグビーに加入しているニュージーランドとオーストラリアの選手は、北半球のレフリーの試合では戸惑いがあるかもしれない。その結果、反則が増えることも考えられるだろう。そして、レフリーにより解釈の違いが、主にブレイクダウン(タックル後のボールの争奪戦)で多少なりともある。それが試合に影響することから、レフリングに対する選手の適応力もカギになってくるだろう。

そして近年、選手の安全を考慮して頭部周辺のコンタクトプレーに対するタックラーへの反則が厳しくなっていることから、イエロー(10分間の退場)もしくはレッドカード(退場で戻ってこれない)が出るケースが多発している点も重要だ。TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)によって厳密に精査されるケースが多く、故意ではないアクシデントでも容赦なくカードが出ることになる。イエローカードでも一時的に数的不利となるが、レッドカードが出ればその試合はもちろん、後に何試合かの出場停止処分が下されることもある。いかにしてカードが出ないように規律をしっかり守れるかも、ワールドカップで勝ち上がっていくには重要だ。白熱した試合が見られる一方、レフリーによる判定が今まで以上に試合へ影響を与える可能性があることも、頭に入れたうえで観戦すると良いだろう。

今年復活の兆しが見えてきたオールブラックスが、昨年までの不振から完全復活して優勝できるか。あるいは南アフリカの連覇や、近年好調なフランスとアイルランドのどちらかで新しいチャンピオンチームが出るのか。少なくとも「RWC2023」は、見どころ満載の大会になることは間違いなさそうだ。

開幕戦はフランス対ニュージーランドと、いきなりのビッグカードで幕を開ける。全試合の日程は下記の公式サイトで確認できるので、ぜひ事前にチェックしておこう。また、日本ではJ Sportsが全試合を、その他では全試合ではないものの日テレとNHKで放送があるようだ。パワー、スピード、スキルを持ち合わせた、ラグビーの魅力を存分に味わってほしい。

By 松尾 智規 (まつお とものり)

ニュージーランド(NZ)在住。野球少年がレギュラーの座を捨てて高2でラグビー部に転向。無名校ながら花園が狙える位置まで押し上げるなど活躍が認められて企業チームへ。挫折を経験するもオーストラリア遠征を機に海外ラグビーに挑戦したいと思い立ち、全く英語が出来ないのにNZの現地のチームに飛び入りで挑戦。3シーズン繰り返すほどNZラグビーの虜に。その後、NZに永住してプレイを続けるが度重なる脳震盪の影響と最後は首の怪我で一線を退く。 後遺症と向き合い、地道にリハビリの日々を重ねながらライターとして活動中。スポーツだけでなく、投資、料理、お菓子作りなど幅広く興味を持っており、オジサンながらNZの地でラグビー復帰を狙う。

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