2022年に開催された日本代表×オールブラックスのテストマッチ(国の代表同士の戦い)は、国立競技場をフルハウスにして6万5,188人の観衆を集めたほど、日本でもオールブラックスは大人気だ。 そのオールブラックスの予備軍である「オールブラックス・フィフティーン(オールブラックスXV)」が来日し、2023年7月8日(土)にジャパンXV、7月15日(土)に日本代表と対戦する。7月8日の秩父宮で開催のチケットは、一般販売後まもなく完売となったことは注目されている証拠だ。

2023年は、4年に一度の世界チャンピオンを決めるワールドカップが9月からフランスで開催(以下、RWC2023)される。このことから、各国でラグビーの注目度がますます上がってきている。オールブラックスXVと対戦する日本代表は、前回2019年に日本で開催された大会でアイルランド、スコットランドなどの強豪に競り勝ち、予選プールを全勝で初のベスト8進出の快進撃だった。今回それ以上の成績を目指している日本代表は、ワールドカップ前にチームを強化するにあたって絶好のチャンスを得たと言えるだろう。日本代表と白熱した試合を見せてくれるであろう、オールブラックスXVについてご紹介する。

目次

オールブラックスXVとは?

オールブラックスXVは、2020年3月にニュージーランドラグビーの最新の黒衣のチームとして立ち上がる予定だった。しかし、コロナウイルスの影響もあって2年遅れの2022年に活動を開始。同年の末にヨーロッパ遠征で2試合行っている。

オールブラックスXVはジュニア・オールブラックス、ニュージーランドAなどのニュージーランド ラグビーの歴史を通じて結成された同様のチームであり、オールブラックスに次ぐシニア代表チームの位置付けだ。将来のオールブラックスの最有力候補の優秀な選手が集まり、国際舞台で選手たちの力を試す機会を与えると共に、コーチ陣やスタッフ関係者にも国際経験を積んでもらうことが目的としてある。

コーチ陣は、世界最高峰リーグと呼ばれるスーパーラグビーのヘッドコーチやアシスタントコーチから選出。オールブラックスの次期アシスタントコーチとなるレオン・マクドナルド、スコットハンセンの他に、クレイトンマクミランが昨年に引き続きチームを率いる。選手だけでなく、コーチ陣も優秀な人材を選んでいるのだ。

オールブラックス経験者を含む強力なメンバー

30人のメンバーがオールブラックスのセレクター陣によって選ばれ、若手とベテランのバランスの取れた非常にレベルの高いメンバーが来日する事になった。オールブラックスXVのメンバーについては、以下公式サイトに掲載されている。

・参考:オールブラックスXV日本ツアーのメンバー

メンバーの中にはオールブラックスでテストマッチ経験のあるPRエイダン・ロス、HOアサフォ・アウムア、FL/No8アキラ・イオアネ、FL/No8ピタ・ガス・ソワクラ、SHブラッド・ウェバー、SHフォラウ・ファカタバ、SO/FBスティーブン・ペロフェタ、SOブレット・キャメロン、CTBジャック・グッドヒューの9人が含まれる。

上記の中でFWから見ていくと、アウムア、イオアネ、ソワクラの3人は、観客が驚くほどのパワフルな突進を見せてくれるに違いない。また、 BKを見ていくと、ウエバーは今回オールブラックスから落選したことが信じられないくらいの選手だ。テンポの良い球出しや状況判断に優れており、観客を唸らせるプレーをしてくれるだろう。さらに、グッドヒューはここ数年ケガに悩まされていたが、完全復活の兆しがある。身体の強さを活かした突進やタックル、さらにはスキルの高いオフロードパスを魅せてくれそうだ。この5人は、本来ならオールブラックスに選ばれてもおかしくない能力の高い選手になる。

その他のオールブラックス経験者を見ていくと、ファカタヴァはフィジカルに強いSHで、ディフェンスも強く頼もしい選手だ。ゲームをコントロールする術を得れば、代表復帰も見えてくる。SOとFBの二つのポジションで能力の高さを見せるペロフェタは、昨年の日本代表と対戦していている選手。ペロフェタと同じポジションを争うキャメロンは、釜石シーウェイブスでもプレーしたことがある日本でもお馴染みの選手だ。今季ハリケーンズの背番号10を付け、抜群のセンスとゲームメイクを披露してオールブラックスXV入りを果たした。

オールブラックス経験者以外のメンバーも有力選手が勢ぞろい

上記で取り上げたオールブラックス経験者以外の選手も能力が高く、今季スーパーラグビーで活躍した選手が選ばれている。その中でも、筆者が注目している選手を数名挙げてみよう。

FW陣から見ていくと、HOタイロン・トンプソンのBK並みの機動力が魅力。今季は体も大きくなり、パワーも増したことから将来が楽しみな選手になっている。また、Loose Forwards(FW第3列)は注目すべき選手がたくさんいるので、選ぶのが大変だ。その中でも、今季ブレイクダウン(タックル後のボールの争奪戦)で圧巻のプレーを連発したFLビリー・ハーモン、デュプレッシ―・キリフィの二人に注目して頂きたい。両者はディフェンス面でも素晴らしく、特にキリフィの必殺タックルは観客をざわつかせることだろう。

BKに目を向けると、ミッドフィルダー(CTB)にはハリケーンズのビリー・プロクター、バイリン・サリバンのハリケーンズのコンビに注目したい。両者の特徴として、ダイナミックなボールキャリーでディフェンスを突破する能力があり、近い将来オールブラックスになれる選手ではないだろうか。そしてOutside Backs(WTB/FB)を見ていくと、WTBエテネ・ナナイ・セトゥーロやジョナ・ナレキのスピードとキレのあるステップは、日本代表にとって厄介になるだろう。

今季スーパーラグビーではケガにより試合出場がわずかだったFBルーベン・ラブが選ばれていることは、オールブラックスのセレクター陣の期待の高さがうかがえる。圧巻のスピードとステップを活かしたカウンターアタックはラブの最大の魅力であり、ぜひ注目して欲しい。

上記に挙げていない選手も能力が高く、全選手に注目する価値はある。それくらい、ニュージーランドラグビー選手の層は厚い。

試合の見所

冒頭で述べたように、2023年はラグビーワールドカップイヤーだ。オールブラックスXVの選手に、わずかながらもRWC2023のメンバー入りの扉が開いている。そして、将来のオールブラックス入りをかけた重要なアピールの場となることから、選手たちは真剣に挑んでくるだろう。

一方の日本代表は、ワールドカップのメンバー入りをかけて一人ひとりが相当な気合が入っていると思われる。また、スポットコーチとして海外から呼び寄せた格闘家による「コンバットトレーニング」において、フィジカル面の特にタックルでの成果を、オールブラックスXV相手に初めて試すことになることにも注目したい。オールブラックスの近年の弱点でもあるフィジカルバトルにおいて、アグレッシブさが課題となっている。その点を意識したボールキャリー、タックル、ブレイクダウンなどのコリジョン(衝突)エリアでの激しいバトルが、試合の最大の見所になるだろう。

そして、オールブラックスXVの高いスキルに対して、日本代表のディフェンスが対応できるかも注目したい。両チームのモチベーションが高く、最高に盛り上がる2試合になることは間違いなさそうだ。この2試合は日本でも放送されるので、レベルの高い試合をぜひ楽しんでいただきたい。

  • 7月8日(土)Japan XV vs All Blacks XV、秩父宮ラグビー場(東京)KO: 5PM.
    放送: J SPORTS 、Tokyo MX 2(どちらも生中継)
  • 7月15日(土)日本代表 vs All Blacks XV @熊本 えがお健康スタジアム KO: 6:05PM 
    放送:BS日テレ、J SPORTS(どちらも生中継)

※写真はスーパーラグビーにて筆者撮影

By 松尾 智規 (まつお とものり)

ニュージーランド(NZ)在住。野球少年がレギュラーの座を捨てて高2でラグビー部に転向。無名校ながら花園が狙える位置まで押し上げるなど活躍が認められて企業チームへ。挫折を経験するもオーストラリア遠征を機に海外ラグビーに挑戦したいと思い立ち、全く英語が出来ないのにNZの現地のチームに飛び入りで挑戦。3シーズン繰り返すほどNZラグビーの虜に。その後、NZに永住してプレイを続けるが度重なる脳震盪の影響と最後は首の怪我で一線を退く。 後遺症と向き合い、地道にリハビリの日々を重ねながらライターとして活動中。スポーツだけでなく、投資、料理、お菓子作りなど幅広く興味を持っており、オジサンながらNZの地でラグビー復帰を狙う。

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