映画『ハリー・ポッターシリーズ』を観たことのある人は多いだろう。では、その中で登場する“クィディッチ”という競技を覚えているだろうか。このクィディッチが、実は映画だけでなく現実でも競技として存在している。今回、大阪府を拠点として活動するチーム『OSAKA OOKINIES』を訪れ、キャプテンを務める小林勇一さんにお話を伺った。

目次

クィディッチってどんな競技?

もともとクィディッチは、映画『ハリー・ポッターシリーズ』に登場する架空のスポーツだ。しかし、これが現実世界でもプレイできると聞いて、興味を持つ方は多いことだろう。正式にはクアッドボールと呼ばれ、2005年に米国で創設されたチームスポーツ。シリーズで言えば『ハリーポッターと炎のゴブレット』が日本で公開された時期に当たる。

1チーム7名で競技され、「シーカー」「チェイサー」「ビーター」「キーパー」というポジションに分かれる。このうち、チェイサーは3名、ビーターは2名で、他ポジションは各1名だ。日本クィディッチ協会のホームページを参照すると、各ポジションの役割は以下の通りとなっている。

  • シーカー:スニッチを追いかけて尻尾を捕まえる(試合後半から出場)
  • チェイサー:クワッフルをフープに入れて得点を稼ぐ
  • ビーター:ブラッジャーを使って敵チームを妨害する
  • キーパー:敵のチェイサーからゴールを守る

なお、クワッフルとブラッジャーは、それぞれ大きさの異なるボール。スニッチは映画だと金色の玉だが、現実では黄色い服にマジックテープで尻尾をつけた人間が担う。さらに、プレイ中は魔法使いのホウキのように、ずっと棒にまたがった状態でいなくてはいけない。より詳しいルール等は、日本クィディッチ協会のホームページを参照していただきたい。

※参照:日本クィディッチ協会ホームページより

転勤がきっかけでチームを立ち上げ

OSAKA OOKINIES(以下、オーキニーズ)は当時、2019年、関西初のクアッドボールチームとして立ち上げられた。しかし、小林さんがクアッドボールに出会ったのも、なんと同じ2019年のことだったという。

「私もハリー・ポッターが好きで、小説も読んだし映画も観ました。そのため、クィディッチ自体は知っていたのですが、2019年に友人から、『クィディッチができるから一緒に行かないか?』と東京で行われる体験会に誘われたんです。当時は東京で働いており、クィディッチは初心者ながら活躍できるようなスポーツでした。ただ楽しかったので続けていたのですが、3カ月後にアジア大会へ誘われたのが大きな転機に。開催国が韓国だったので旅行もかねて楽しもうと行ったものの、見事にハマりました。海外選手を相手に戦う高揚感、そしてチームの一員として活躍できたことが、とにかく楽しかったんです。」

その頃、小林さんは会社から大阪への転勤を言い渡されていた。そして転勤と共に、大阪でオーキニーズを立ち上げることになるのだが、そこには偶然の出会いがあったようだ。

「体験会で、金子照生さんに出会いました。金子さんは当時こそ初心者だったのですが、それから日本最初の代表監督も務めている方です。ちょうど転勤が決まっていたタイミングで、関西でチームを作って二人でやっていかないかと声を掛けられ、オーキニーズを立ち上げることになりました。」

チームの立ち上げは2019年10月。そして、声を掛けた寄せ集めのチームで11月に初めて大会へ出場した。しかし、メンバーは現地で初めて顔を合わせるような状態で、1勝もできず100点差がつくほどの惨敗。しかし時間を経て、2023年の全日本クアッドボール選手権では優勝するほどに成長している。

東京でチームが少しずつ増えており、主に活動しているのが4チーム。2023年の全日本には、全体で6チームが出場した。どのチームが優勝しても分からないくらい、実力は拮抗している状況のようだ。

未経験からでも日本代表を目指せる

クアッドボールが日本に入ってきたのは2017年頃のため、まだ国内において新しい競技だ。しかし、アメリカを中心に海外では多くの競技人口がおり、世界40か国ほどにチームがあるのだとか。アメリカには、取材時点で67ものチームがあると教えてくれた。日本では知名度が高いとは言えない競技だが、なぜ小林さんはハマッたのか。その魅力について、詳しく教えてもらった。

「クアッドボールは男女混合スポーツです。ジェンダールールがあり、7人1チームで同じ性別が4人以下にならなければいけません。ジェンダーフリーの思想に基づいて行われている競技なんです。日本ではまだ新しく、競技人口は約300人。ですから、今から始めても十分に日本代表を狙えます。実際、チームメンバーの清水真玲さんも、競技開始から約1年で日本代表になりました。世界大会に出場できる可能性が高い点は、マイナースポーツならではでしょう。」

競技者の年代は20~30代が中心、30歳以下がほとんど。コンタクトスポーツとしての要素もあるため、運動強度もある程度高い競技だ。一方、色んなタイプの人にとって始めやすく、たとえ競技経験がなくても勝てる可能性があるのだという。

「例えばバスケットボールやハンドボールの経験者なら、得点に繋がるプレイが得意かもしれません。しかし、クアッドボールでは戦略も重要。球技経験がなくても、戦略を立てて勝てる要素があります。また、シーカーなら“走れる”ことが強みになりますし、必ずしもフィジカルだけ強ければ良いというものでもありません。ビーターはボールを投げて妨害するポジションですが、当てられさえすれば身体が強くなくても勝てるんです。多くの人にとって、自分の強みを生かしやすい競技だと思います。」

いくつもルールはあるものの、複雑な動作はない。目的もポジションによって決まっているため、どんな人でも取り組みやすい競技のようだ。年齢性別を問わず、幅広い層にとって楽しめるのではないだろうか。

「以前、幼稚園や小学校で体験会を行ったこともあります。クアッドボールは全員に役割があるため、自分の居場所を見つけられる点も魅力ですね。アメリカでは大学生サークルがボランティアで教える機会を多く持っているのですが、日本でもそういう機会が増えたら良いなと思っています。」

小林さんのポジションはビーター。一通り全てのポジションを経験し、以前はチェイサーも担っていたそうだ。その中でビーターを選んでいるのにも、ポジションならではと言える魅力がある。

「チェイサーは得点を狙うポジションです。もちろん楽しいし、ゴール決めた瞬間はテンションが上がります。でも、クアッドボールの試合を経験する中で、もっとも重要なポジションはビーターだと感じているんです。チェイサーとして戦った試合でも、後から『ビーターに守ってもらえていたから得点を取れていた』と気付くことが少なくありません。最終防衛線にもなり得るし、攻撃のアシストもできる。チームへの貢献が、そのままビーターの面白さだと感じています。」

どのポジションがもっとも楽しいと感じられ、自分の強みを生かせるのか。ポジション選びも、クアッドボールの面白さの一つと言えそうだ。

お互いを尊重し合えるチーム

取材時点で、オーキニーズのメンバーは20名ほど。主に土日を中心として練習している。ラグビー経験者などが多く、フィジカルを強みとしているチームだ。他チームからは女性層が強いと評価されることが多く、大会前は本気で勝ちに行く雰囲気でありながら、オフでも仲がよく交流している。お互いに配慮はありつつも、意見を言い合いやすい環境のようだ。

「私自身は、あまり周囲を引っ張っていくタイプではありません。リーダーシップを発揮できるよう頑張ってはいますが、逆に引っ張ってくれるメンバーが増えてくれたらと思っています。ですから、敢えて任せてみたり、メンバーの主体的な動きが起きるまで待ってみたり。そのうえで、私はマネジメントを心掛けるよう重点を置いています。」

同席してくれた清水さんによれば、メンバーのやりたいことを尊重してくれて、優しく包んでくれる存在だという。クアッドボールが好きであって欲しいからこそ、みんなのやりたいことを尊重したい。そんな、小林さんの気持ちがチーム全体の風土にも反映されているように感じた。

世界を舞台に戦いたい

最後に、今後の目標について伺った。

「2023年の全日本を優勝できたので、来年、再来年と連覇したいですね。そのうえで、クィディッチの楽しさを、もっと広めていきたいと思っています。体験会を開催してSNSで告知したり、新規メンバーの獲得を目指したり。また、練習するうえで欠かせない、マネージャーも欲しいです。競技するのはちょっと…という方でも、きっとクアッドボールの楽しさを感じ取って頂けるのではないでしょうか。また、現在はKYOTO LILAC FOXESというチームと一緒に練習することが多いのですが、いずれはこの2チームで決勝を争いたいですね。KYOTO LILAC FOXESのメンバーのうち、半分は元オーキニーズの選手なんですよ。また、個人的には2020年に日本代表になったものの、その年は世界大会が中止になってしまいました。その後、2023年には選んでもらうことができず悔しい思いをしたので、2025年こそは日本代表になりたいです。世界大会で、ぜひビーターとして活躍したいですね。」

アジアの中で見れば日本は強い。アジア大会ではベトナム、韓国、香港と戦った中、日本は優勝を果たしている。しかし、その際はオーキニーズではなく、国内選手で組んだ合同チームだった。次はオーキニーズとして出場し、優勝したいという思いも強く持っているようだ。そして、さらに厚い世界という壁に、小林さん自身も挑みたいと意気込みを見せてくれた。

“世界で戦ってみたい”という方にとって、クアッドボールは可能性の高い競技と言えるだろう。まだ国内ではチームも少ないが、小林さんのように自らチームを立ち上げるのも方法の一つ。まずは体験会を探したり、近くのチームで練習に参加させてもらったりするなどして、クアッドボールを経験してみると良いかもしれない。もちろん大阪近隣であれば、一度オーキニーズに問い合わせてみてはいかがだろうか。

OSAKA OOKINIES公式サイト

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

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