ランニングが膝に悪いというイメージは根強いだろう。現実に、ランナー膝(腸脛靭帯炎)の悩みを抱えるランナーは多い。ところが、そうした関節炎の発症リスクはランナーであれ、あるいは走る習慣を持たない一般人であれ、さほど大きな違いはないとする研究がある。これについては、以下記事で過去にご紹介した。

参考:【研究結果】ランニングは膝の健康に悪くない

つまり、走っても走らなくても、膝が痛くなる人もいれば、痛くならない人もいるということだ。膝の故障に関しては、走る路面の種類との関連についても、感覚的なイメージと学術研究結果との間に誤差が生じている。

目次

膝に優しい路面はない

一般的に、芝生や土などの「柔らかい」路面は、コンクリートやアスファルトのような「固い」路面よりランナーの膝に優しいと考えられているだろう。そのことを、トレイルランニングのメリットにあげるランニング指導者もいる。

確かに、固い路面に着地するとき、膝にかかる衝撃は柔らかい路面より大きいかもしれない。しかし、そのことは必ずしも、ランナーの故障率には影響しないと結論づけた研究(*1)がある。

*1. Acute and overuse injuries correlated to hours of training in master running athletes.

研究の対象になった291人のランナーのうち、56.6%がアキレス腱に問題が生じたことがあり、46.4%が膝の痛みを経験したことがあると答えた。しかし、主にアスファルトで走るランナーは、砂地を走るランナーよりかえって故障率が低かったという。ランナーの故障頻度についてさまざまな要素(年齢、性別、ランニング歴、故障歴、BMI、シューズの古さ、等)から解析した別の研究(*2)でも、路面の種類とランナーの故障率には関連性が認められなかった。どうやら、特に膝に悪い路面もない代わり、膝に優しい路面もないようである。

*2. A prospective study of running injuries: the Vancouver Sun Run “In Training” clinics.

もちろん、ランナーの故障は関節炎や蓄積疲労だけではない。アスファルトやコンクリートを走って転倒すれば、きっとダメージは芝生や砂浜より大きいだろう。筆者も子どもがアスファルトで転倒し頭を強打し、肝を冷やしたことがある。

あくまで大人がジョギングをするようなケースに話を限ると、路面の違いをさほど気にする必要はないように思える。アスファルトで走ることを躊躇しなくてもよいが、逆に土の上を走るから安全だというわけでもない。

テニスにも存在する「膝に優しいコート」の思い込み

同じようなことがテニスでも言える。4大メジャー大会を見ると分かるように、テニスにはハードコート(全米オープン、全豪オープン)、クレーコート(全仏オープン)、芝生コート(ウィンブルドン)といった異なるコート表面がある。日本では人工芝に砂を混ぜた「オムニコート」が人気だ。そうしたコート表面と故障率の関連について調べた研究(*3)があるが、ここでもランニングに関する研究と似た結果が出ている。

3. Injury rates in recreational tennis players do not differ between different playing surfaces.

20,000人のテニス愛好家(平均年齢49歳)への聞き取り調査では、1,957人から4,047件の故障が報告された。故障の80%が蓄積疲労、20%が突発的な怪我だった。しかし、ハードコート、クレーコート、そしてオムニコートの間で、故障率に大きな違いはなかった。

ランニングと同じように、テニスでも足を滑らすか転んだときの直接的な怪我のダメージは、ハードコートがもっとも大きそうだ。しかし、娯楽でテニスを楽しむ人たちがプレイ中に転ぶケースは非常に稀である。もし「膝に優しい」という思い込みでオムニコートを選ばれているとすれば、あるいはメリットよりデメリットの方が大きいかもしれない。オムニコートは芝生やクレーに比べるとメンテナンスは容易だし、コストも低い。しかし、ハードコートにはかなわないだろう。

アメリカではテニスコートのほとんどがハードコートで、誰でも無料で使える公共のコートも多い。そのことが、競技人口の拡大に繋がっていることは容易に想像できるだろう。オムニコートを設置するための手間とコストが日本でのテニス普及を妨げているとすれば、一考に値する問題ではないだろうか。

ハイレベルな競技選手にとっても、日本でオムニコートが主流になっていることはデメリットを生じさせているように思える。なぜなら、上述したメジャー4大会以外をはじめ、海外の主な競技大会でオムニコートが使用されることはないからだ。コートの表面によって、ボールのスピードやバウンドは異なる。当然、それに適応したテクニックや試合運びを習得しなくてはならない。日本にしかないオムニコートに特化しても、海外ではその能力を発揮するチャンスが限られてしまっているのだ。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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