プロスポーツチームでありながら株式市場に上場し、数多くの事業に取り組まれている企業がある。それが、今回お話を伺った琉球アスティーダクラブ株式会社(以下、琉球アスティーダ)だ。同チームは卓球リーグ「Tリーグ」に所属し、2022-2023シーズンでは見事に王者へと輝いた。一方、飲食店や経営者コミュニティの運営などの事業も展開。2023年12月23日(土)~24日(日)には、約1万人を集めたイベント『アスティーダフェスティバル』も開催。なぜ琉球アスティーダは、スポーツ以外にも多様な事業に取り組むのか。チーム設立以来の軌跡を辿りながら、同社で執行役員を務める大海 龍祈(おおがい りゅうき)さんが教えてくれた。

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スポンサーから役員としてジョイン

大海さんが琉球アスティーダに関わった経緯は、あまり他では見ないものだ。もともと、同チームに対してはスポンサーという立ち位置にあり、チームを支援する側にいた。では、なぜ執行役員として事業を運営する側になったのだろうか。

「私は創業者ではなく、チームが誕生した後に関わり始めました。もともと2018年から会社を経営していて、琉球アスティーダのスポンサーだったんです。スポンサーしていた理由は、私自身もボクシングやサッカー、水泳の経験があり、スポーツの大会やリーグをできるだけ多く作りたいという気持ちがあったから。仲間づくり支援を行う会社だったので、メディアプラットフォーム『note』の運用代行などに携わっていました。そんな中で2022年9月頃、現会長からチームの次期代表を任せられる人を探していると相談を受けたんです。琉球アスティーダは飲食店を経営していましたが、コロナ禍の影響で経営状態は厳しいものでした。」

次期代表としてどんな人が望ましいのか聞いたところ、アスティーダのミッションやビジョンを引き継げる人が良いという回答を受けたのだとか。そして、その相談は誘いとなり、役員としてチームに関わることとなった。

「面白そうだと思いましたし、共感できたので誘いを受けることにしました。最初は役員として入り、やがて社長に就任。ただ、私が病気を患ってしまい、2023年3月末頃から4カ月ほど休むことになったんです。9月には仕事へ復帰ましたが、半年~1年程度は様子見ということで、現在は代表ではなく執行役員になっています。」

設立の背景

琉球アスティーダは、プロスポーツチームとして唯一の上場企業(東京証券取引所プロマーケット)だ。多くの方は、なぜ上場したのか疑問を抱かれるのではないだろうか。しかし、この上場という選択は、チームが目指す姿を実現するために必要なものだった。

「現在も含めて、スポーツチームで上場しているところはありません。だからこそガバナンスが効いていないし、情報も開示されていない状態です。夢と感動のあるスポーツにお金が循環する仕組みを作りたい。しかし、マイナースポーツでお金を集めるのは大変です。」

琉球アスティーダは2018年2月に設立され、3年後の2021年に上場。自分たちで資金を生み出し、チームとして自走するために選んだ方法だったようだ。そして、琉球アスティーダは現在実にさまざまな事業を展開している。

「チケットグッズを販売したり、スポンサーに頼ったりするモデルではありません。現在は飲食店経営とスポーツ事業、アスティーダサロンという経営者コミュニティを運営。また、スポンサー等と一緒に、レンタカーや整骨院などの事業を行っています。こうした事業展開は、今後さらに増やしていく予定です。色んな事業に取り組まないと、回っていかないんですよ。例えばチケットは、すべて売れてもアッパーが決まっています。スポーツ単体の事業で売上利益をあげるのは、とても難しいものです。だから、スポーツと何かを掛け合わせてマーケティング支援、そして企業課題を解決していく。それなら、お金の循環を生み出せます。」

スポーツチームを活用しながら、周りの企業や地域の人に喜んでもらう。スポーツがプラットフォームとなり、地域を盛り上げていこうというモデルだ。

「スポーツチームの未来の姿は、地域課題解決プラットフォームだと考えています。アスティーダが成長するほど、地元の人たちに経済循環が作り出せる。弱い地域、あるいは弱い者に光を当てるからこそ、小さな地域やマイナースポーツでも『やればできる』という希望になるじゃないですか。チーム名にあるアスティーダは『明日の太陽』を意味します。その名の通り、関わる人々を元気に明るく前向きにしたいんです。」

目指すのは、世界一の太陽カンパニー。スポーツを軸として事業を広げ、企業の課題を解決すると共に、地域を元気にしていく。大海さん自身も、太陽のような人を目指しているのだという。

経営課題を解決することでスポンサーになる価値を生み出す

実際にスポンサーからスポーツチームの運営側に立つようになり、チーム運営上の課題も感じているという大海さん。それこそ、アスティーダが打破しようとしているものと言えそうだ。

「日本ではスポーツチームに対してお金を払う、スポンサーするという文化がなさ過ぎると思います。3チームをスポンサーしていましたが、周囲にスポンサーしている経営者なんてほとんどいません。お金を払って応援する、応援マインドとも言うべきものが全体的に不足しています。これは経営者だけでなく、スポーツチーム側にも課題があります。例えばロゴを出すからと言って、経営者にとってはあまり価値がないんですよ。これは事業視点、マーケティング視点、そして経営課題を解決しようというマインドがないからではないでしょうか。その点が、琉球アスティーダは違っています。」

多くの企業と関わりながら、その課題解決を支援している琉球アスティーダ。具体的な事例について伺うと、実に多様な取り組みを聞かせてくれた。

「例えばNASDAQに上場している株式会社メディロム様は、新しいプロダクトとして充電不要のウェアラブルデバイスを開発しています。これを今後広めていきたいということで、私たちは何をすれば喜ばれるのか考えました。まず、販売代理店を増やすために、アスティーダモデルを作って沖縄で広める。BtoB戦略として、例えば介護施設で高齢者に利用してもらえば、身体の状態がすぐ分かります。また、実際にこの事業を展開している株式会社メディロムマザーラボを上場させるため、ヘルスケアに興味ありそうな経営者もご紹介しています。私自身、病気を通じて健康の大切さを重要視しているので、一緒に沖縄や九州のヘルスケア事業に取り組んでいこうという気持ちです。」

琉球アスティーダが拠点とする沖縄という地域。そして、サロン等を通じて広がる経営者ネットワークを使い、メディロム社の経営課題を解決しようという取り組みだ。また、プロスポーツチームであるという点を活かした事例もある。

「JT関連会社のBREATHER株式会社様は、『ston s』という製品を展開しています。これは、たばこのようにニコチンを含まず、カフェインやGABAなどの成分を吸引できるもの。『リラックス&深呼吸』というイメージからスポーツ選手が集中して勝って行くストーリーを作り、沖縄の海辺でリラックスしながら吸っている、ブランディングプロモーションをこれから展開していきます。」

このほかにも、企業の経営課題を聞き、いかに自社のリソースを使って解決できるのか、沖縄・九州の地域課題を解決できるのかを常に考えている。この循環から、琉球アスティーダはスポーツを通じたマーケティング会社、社会課題・地域課題の解決会社として活動しているのだ。

「課題解決など何かしらメリットがあったり、良いことが起きたり。これが実現できるから、また他の企業を紹介してもらえます。そうじゃないと、企業として長続きしません。最初からスポンサーとしてお金を出して欲しいというより、実際にメリットがあると実感してもらえた後に、スポンサーして欲しいと相談する方が気持ちいいじゃないですか。」

恐らく多くのスポーツチームは、資金提供を中心としたスポンサー獲得に躍起となっているだろう。それは一つの形ではあるものの、琉球アスティーダはまったく異なる形を見せている。これはスポーツが事業として自走し、そして発展していくためのロールモデルとなるのかもしれない。

今後のビジョンや目標

執行役員である大海さんは、これからの未来にどのようなビジョンや目標を掲げているのか。具体的に、2つ挙げて教えてくれた。

「まずは、アジアで一番大きいスポーツチームになることですね。現状のトップはソフトバンクホークスで、売上は320億円に及びます。スポーツ単体では難しいですが、事業会社として目指すことは可能なはずです。現時点で目標に置いているのは、2030年までに事業全体で100億の規模感。これは、プロ野球を除けば日本のスポーツチームでTOPの数字です。今後は教育事業もやっていきたいし、保険事業や葬儀事業も考えています。小さい頃から最期まで、何かしら琉球アスティーダの事業に触れているような状態を作りたいですね。」

億単位での売上目標に驚いてしまうが、しっかり道筋は描かれている。現実的な数字としてとらえられており、実際に琉球アスティーダはこれまでの着実な成長を遂げてきた。2030年にどうなっているのか、お話を伺っているとこちらまでワクワクしてくる。

「また、沖縄にアジアで一番のメディカル施設を作りたいという目標もあります。今は病院によって、言うことや出す薬が違うじゃないですか。適切な診断を受ければ良くなるのに、この状態は良くありません。スポーツ選手で考えても、リハビリに困っている人は少なくありません。病気になったりリハビリが必要になったりしたら沖縄を訪れる、沖縄でのメディカル構想を描いているんです。近くに熱気の溢れるようなスタジアムを作り、それを軸に展開する。沖縄はアジアに近いので、そういう強みも生かしたいですね。ツーリズムでアジアから富裕層にも訪れてもらい、お金を地域に循環させられたら、さらに地域課題も解決できると思います。」

この目標は、実際に病気を経験した大海さんの原体験からくるものだ。実現すれば地域のみならず、医療全体の課題解決にも繋がっていくのではないだろうか。あくまで沖縄を起点とした話ではあるが、琉球アスティーダの取り組みは、いずれも全国を巻き込むポテンシャルがあるように感じられる。ぜひ、今後も注目したい。

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

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