プロスポーツチームや選手の活動には、スポンサーの存在が欠かせない。自社の製品・サービス提供から資金支援などさまざまな形があるが、その支えがあればこそ選手たちは競技に打ち込めるというものだ。多くのチームが、常にスポンサーを探していると言っても過言ではないだろう。

では、チームとスポンサーとは、実際のところどのようにして繋がりを持っているのか。また、スポンサーは何を得たいと考えて、チームや選手と契約するのか。今回、以下3つのチーム及びリーグのスポンサーである菱洋エレクトロ株式会社の広報部部長、田中葉子さんにお話を伺った。

<菱洋エレクトロ株式会社 スポンサー先>

  • 名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(男子プロバスケットボールリーグ)
  • 東京羽田ヴィッキーズ(バスケットボール女子日本リーグ)
  • Tリーグ(卓球リーグ)

※取材時点での情報です

なお、菱洋エレクトロ株式会社(以下、菱洋エレクトロ)は半導体の販売を主とする会社として1961年に設立。現在はICT製品やソリューションなどを取り扱い、ソフトウェア開発なども手掛けている。

目次

すべてのキッカケは人との縁

スポーツ競技を観戦していると、会場内に企業等の広告が掲載されている。例えばプロ野球やサッカーなど、テレビ観戦でも見たことのある方は多いだろう。広告以外にも形式はあるが、まさにこの掲載企業がスポンサーだ。では、どのようにして企業はスポンサーになるのか。菱洋エレクトロの事業内容を見る限り、スポーツとの関連性はあまり感じられない。そのキッカケを作り出したのは、現在の代表取締役社長である中村守孝氏なのだという。

「2018年、現在の社長である中村が就任しました。百貨店を運営する三越伊勢丹からの転職だったのですが、当時の弊社社外取締役のご縁でした。半導体は製造に時間がかかりますし、余ったり不足したり需給バランスが崩れることが多い業界。余れば値段が下がって業績低下、景気が悪くなり需要自体が冷え込むということも起こります。そうした業界において、当社は2017年に最悪な状態に陥ってしまい、競合他社にも負けていました。このタイミングで、中村が顧問として入社し、半年かけて課題分析を進め、実際の改革も執行するということで社長に就任した形になります。」

就任後、電機業界においてさまざまな人物と知り合いになった中村氏。そこで出会ったのが、家電量販店を展開する株式会社ノジマ社長の野島廣司氏だった。

「たまたま野島様を紹介してもらい、お付き合いするようになりました。ノジマ社は、Tリーグのタイトルパートナーです。立ち上げ当初のTリーグではスポンサーを探しており、当社にもスポンサーにならないかとご紹介を受けました。正直に言って半導体部品販売など事業は地味ですし、業績も芳しくない状態です。スポンサーという発想がないだけでなく、そういうことのできる環境ではありませんでした。しかし、周囲から『ちゃんと検討しよう』いう意見もあり、広告効果はどうとも言えませんが、何かしら意義はあるのではと。やったことがないからこそ、やってみるのも良いのではないかと考え、2019年3月にTリーグのスポンサーとなりました。」

スポンサーとなる1つのメリットとして考えられるのが、やはり広告等によるリターンだろう。しかし、Tリーグとの繋がりはまさに縁からであり、そうしたリターンを重視したものではなかった。それでも同社は、さらに2つのチームとスポンサー契約を交わすことになる。

「2022年1月にスポンサーとなった東京羽田ヴィッキーズは、ヘッドコーチの萩原美樹子さんが早稲田大学の監督時代からの知り合いから紹介してもらい、中村が個人的にお付き合いをしていました。そして、弊社社内の女性向け講演会に萩原さんが来てくれたんです。その後、会社として繋がりができたこともあり、東京羽田ヴィッキーズのスポンサーとして参画させていただきました。名古屋ダイヤモンドドルフィンズは2022年9月にスポンサー就任しましたが、トップスポンサーである三菱電機様は、弊社にとっても大切なお客様であり仕入先様です。何度かスポンサーのご提案を受けており、東京羽田ヴィッキーズのスポンサーが決まったタイミングで、名古屋の担当者から再度打診があって契約させていただくことになった流れです。」

東京羽田ヴィッキーズは、女性の活躍を推進する姿勢が自社の考えと重なった面もあったのだとか。また、名古屋ダイヤモンドドルフィンズは社会貢献活動に力を入れており、一緒にプロギング(ゴミ拾いしながらランニング)の取り組みも行ったという。例えば売上拡大など事業的なメリットではなく、人と人との縁、そして方向性の一致などが決め手になったようだ。

スポンサーとしてスポーツの社会貢献に関わる

菱洋エレクトロはスポンサーとして資金提供を行い、これに対してロゴを出してもらう。Tリーグであれば試合会場に広告が掲載されるし、チームならウェア等にロゴがつくというイメージだ。そのほか、チームならホームゲーム、Tリーグなら全国各地の試合チケット提供や特別価格での購入権などがある。実際、田中さんも試合を見に行ったことがあるそうだ。では、こうしたリターンがスポンサー先を決めるポイントなのかと言えば、そうではない。先ほども少し触れたが、同社ではもっと他の視点を持っている。

「これまでのスポンサー契約は、あくまでご縁の範囲です。何かリターンを期待するというより、社会貢献活動としてやらせていただいています。地域密着型イベントや、学校等の支援を応援したいという気持ちもありますね。例えばTリーグは男女一緒のリーグで、これは数多くあるスポーツ競技の中でも珍しいんですよ。歴史が浅い分、むしろ女子が強いくらいの形でスタートしました。老若男女が関係なく活躍でき、楽しめる卓球という競技を応援したいなと。スポーツの社会貢献に関われていること、それ自体が良いなって思うんです。」

チームが強くなるためには選手に報酬を払い、競技に集中してもらうのが最良だろう。また、良い施設やパートナーの存在も必要になる。しかし、それは経営的な視点に過ぎない。菱洋エレクトロが大切に考えているのは、それを社会に還元するマインドを持っているかどうか。結果的に、そういう人やチームと出会えたからスポンサーになった。

「Tリーグは世界でメダルも取っているので、メダルを取った選手がリーグで試合しているときの情報がメディア等に出ると、ロゴが映ってお客様などから連絡が入ることはあります。また、社員はロゴが映っているのを見て喜んでくれるし、チケットもらって試合を見に行ける。名刺にもロゴ入れているため、取引先との話題になることもありますね。でも正直に言えば、スポンサーになったことでビジネスへの直接の影響はありませんし、そもそも測れるものではないと思います。ただ、以前は少し経費を使うだけでも色々と言われていたし、広告を出すことも容易ではないカルチャーがありました。それと比べると、会社自体が変わったことを感じています。」

経営改革のさなかに起きた、新しいスポーツスポンサーという取り組み。だからこそ社員の方々も、“変わっていく”ということを感じ取ってくれたのではないかと田中さんは話す。スポンサーという一手が、まさに経営改革の一部となったのだ。

今後もスポンサー先を増やす計画はあるのか伺うと、「ご縁次第」との答えが返ってきた。提案を受けることはあるそうだが、やはり取り組みや姿勢などに対する共感がもっとも重要になるのだろう。事業に対する何らかのリターンを期待するのであれば、強さや規模なども重要になる。しかし、チームとスポンサーとで強い絆を持ち続けるには、それ以外の基準が必要なのかもしれない。多くの選手たちが活躍し、競技を問わずスポーツ業界そのものが盛り上がるうえで、今後もチームとスポンサーの関係性は変化していくのだろう。

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。