左:南側貴志さん、右:豊田健次さん

ポートボールというスポーツをご存じだろうか。恐らく、子どもの頃に小学校などでプレイしたことのある方は多いだろう。実はこのポートボール、大阪府堺市が発祥なのだ。ポートボールは、なぜ生まれたのか。また、その魅力はどのような点にあるのか。堺市における現在の競技環境などと共に、堺市ポートボール連盟の豊田健次さん、南側貴志さんにお話を伺った。

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子どもの成長を考えて生まれたポートボール

ポートボールは2チームが同じコートに入って1個のボールを争い、パスやドリブルでボールを進め、ゴールマンに投げ渡すことで得点を競うスポーツ。“ポート”はゴールを示し、漢字を当てるなら“港”を意味する。船(選手)で港から港まで、海(コート)で荷物(ボール)を運ぶイメージで作られたと言われているそうだ。そんなポートボールは、なぜ堺市で始まったのだろうか。

「2023年で堺市こども会中央スポーツ大会は63回を迎えました。第1回大会は1961年(昭和36年)です。当時の堺市では、こども会の正式種目として小学生が男子はソフトボール、女子はドッジボール競技に取り組んでいました。しかし、第一段階の成長期において、女子が胸で受球するドッジボールは良くないのではないかという声が小中学校の先生から上がったんです。その後、小学校体育の授業で一部に取り入れられていたポートボールを、こども会活動の女子スポーツ種目とし、ドッジボールから少しずつ切り替わっていきました。そして、ポートボールは子どもたちの心と身体の健全な発達に寄与することを目的とし、活動が発展していったのです。」

やがて、こども会の会員数増加に伴ってチーム数も増え、指導者や審判員が小学生の保護者の中からも育成されるようになったのだとか。学校の先生だけでは大会運営等が困難になるほど、堺市ではポートボールが盛んになったのである。しかし、それが昨今は苦境に立たされているという。

「ポートボールは学校というより、こども会の取り組みとして行われています。しかし、加入者数やチーム数は減少傾向にあり、新型コロナウイルスの影響では活動そのものに制限が。これで、とどめを刺された感すらありました。なんとか最近は、各地域のメンバーの努力で人数が増えてきており、土日を中心に練習・試合ができるようになっています。活動制限も落ち着いた、ここ1~2年が勝負の年になるでしょう。」

授業でもポートボールではなくバスケットボールを行う学校が増える傾向にあり、ポートボールに触れる機会は減っている。しかし、それでも未だ多くの子どもたちがポートボールに取り組んでおり、その姿はまさに“競技”と呼ぶにふさわしいものだ。堺市には92の小学校があるが、そのうち64校でポートボール活動が行われている。

誰でも自分の居場所を得られる競技

ポートボールには、レクリエーションの一つといった印象を持つ方が多いだろう。しかし、取材で訪れた鳳南小学校では、練習・試合とも物凄い熱気に包まれていた。選手たちの真剣な眼差しや姿勢は、“勝ち”にこだわるスポーツ競技のものである。では、何が彼女たちを惹きつけているのだろうか。

「試合はスピード感に溢れ、手に汗握るゲームが繰り広げられます。ひと時も目を離せない緊張感は、ポートボールの魅力ではないでしょうか。一方、教育の一環であることも忘れてはいけません。ポートボールには、運動の苦手な子でも活躍できるポジションがあります。例えばバスケットボールやバレーボール、テニス、サッカーなどは、ボールを基準に得点が入る競技と言えるでしょう。しかし、ポートボールは人から人へボールを渡すことが得点に繋がります。他者との繋がりを感じられる、子どもの情操教育のために考えられた競技なのです。例えばゴールマンは“攻め”に参加しませんが、ゴールマンが取ってくれなければ点数が入りません。逆に、ゴールマンがしっかりしていればこそ、自信を持って攻められます。また、ゴールマンへボールが渡らないよう阻止するガードマンも、重要なポジションです。たとえ運動が苦手でも、身体が大きければゴール前でカットできる可能性は高く、その存在そのものがプレッシャーになるでしょう。運動の得手不得手などに応じ、それぞれ活躍できるポジションが存在します。」

身体が大きいものの、走るのが苦手。あるいは小柄でパワーはないものの走るのは速いなど、子どもにはそれぞれ運動において得手不得手がある。競技によっては、それが弱点となって活躍の場を得られないケースもあるだろう。しかし、ポートボールならば全員に試合で参加できる居場所がある。教育という面で見ても、これは素晴らしい点ではないだろうか。

「練習や試合を通じて“叱られる”ことも、一つ教育の機会となっています。自分の親だけでなく指導者に叱られる経験は、社会勉強にもなるものです。最近は叱られる機会が少なく、子どもたちもそれに慣れていません。その結果、社会人になってから凹んでしまうというケースが良く見られます。チームには親御さんがポートボールをやっていたという方が多いのですが、親としても、ポートボールを通じて叱られたことが勉強になったと感じてくれているようです。」

確かに、家庭外で叱られる機会はそう多くないだろう。特に昨今は学校においても、細かな言動に対して少し神経質になっている部分がある。これはスポーツ競技全般に言えることだが、競技を通じて叱られた経験は、選手を人間として成長させてくれるものなのかもしれない。

今回は取材に合わせ、堺市立鳳南小学校を訪れた。こちらの小学校には2つのチームがあり、試合や練習を通じて選手たちが切磋琢磨している。以前は1つの小学校に10チームなんていうことも珍しくなかったが、現在は1つチームという学校が大半。鳳南小学校は、堺市内でも選手数が多いようだ。

どの選手たちも表情が明るく楽しそう。しかし、ひとたび練習や試合となれば、その表情は真剣そのものとなる。これはきっと、ポートボールを心から楽しんでいる証拠だろう。指導や応援も親世代が担っており、地域全体で取り組んでいることが分かる。私も小学生の頃に何度かポートボールをプレイした経験があるが、楽しかった思い出が蘇ってきた。ぜひ学校体育や地域行事など、ポートボールを取り入れてみてはいかがだろうか。運動の得手不得手にかかわらず、真剣に楽しんでプレイする子どもたちの姿が見られることだろう。

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

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