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強くて優しい人になる。チアリーダー・高橋沙季さんの信念と思い

自分を信じ、行動し続けること。聞こえの良い言葉だが、これを実践できる人はそう多くないだろう。謙虚な日本人は、特にそうなのかもしれない。

「大きな心で大きく受け止められる環境を作りたいし、自分はそうでありたい。」

そう話すのは、福井商業高校チアリーダー部『JETS』の元キャプテン・高橋沙季さんだ。今は上京して東京都内の大学に通っており、現役チアリーダーとして活躍。さらに、20219月に立ち上げた『ココロおどる♪ダンススクール』のチアダンスクラス・FLOWERSのコーチを務め、地域の子供たちにチアを通して“強く優しい人”になるための心の在り方を伝えている。

やりたいことを実現している高橋さんだが、たくさん悩んで葛藤した過去があった。また、今でも自信をなくすときはあるようだ。しかし、そのたびに自分と向き合い、自分を認めて“自分の心に噓をつかず行動する”という軸を貫いている。

なぜ自分を信じ続けて突き進み、自分らしくあり続けられるのか。強く優しく、自分らしく生きるために自分や周りとどう向き合うべきかについて、詳しくお話を伺った。

コロナ禍でゼロからのリスタート

20201月、新型コロナウイルスが世界中を混乱の渦に巻き込み、多くの人たちの日常が奪われていった。高橋さんも大学2年生になる年だったが、コロナの影響で授業は休止。所属するチアダンスチームの練習もなくなり、『学校とチア』という日常が半ば強制的になくなってしまった。

「そのうちオンライン授業が始まったけど、1人だし友達に会うわけじゃない。学校に行っているときは楽しかったけど、なんだか合わないと思うときがあったり、嫌だと思う場面があったり。それがズルズル続いていたんです。コロナで強制的にすべてがストップしたことで、いつもの出来事がいったんゼロになりました。」

やはり最初は戸惑いがあったようだが、一方でプラスになったこともあったという。

「コロナですべてがストップしたことで、自分の本音に反していたことや義務的になっていたことが強制的に捨て去れました。もともと嫌なことをバサバサ切れないタイプなので、そうという意味では良かったのだと捉えています。」

自分にとって違和感となっていたものを含めてすべてがゼロに。しかし、それが心の奥にあった“本当にやりたいことに気付くきっかけになった。

やりたいこと、好きなことだけに目を向けた

コロナの状況が変わらぬまま夏休みに入った高橋さんは、日誌を毎日書き始めた。誰にも見せないと決めていたからこそ、本当の本音で書けたという。

「せっかく夏休みなのに、このままでは何もせずに終わり。でも、それは悔し過ぎると思いました。きっと、もうすぐ20歳になるという焦りもあったのだと思います。それで、日誌を書き始めました。『今日はこれを頑張った』とか、『次はこれがやりたい』とか。とにかく思いついたことをすべて書き出しました。高校のときに部活で日誌を書いていたお陰もあり、書き出すと頭がスッキリしてやりたいことが明確になってくるんです。それが、すごく楽しかったのを覚えています。」

当時の気持ちを思い出しながら語る高橋さんの表情からは、ワクワクした過去の感情が伝わってきた。そして、やりたいことが明確になった後は、とにかく行動に移していったという。20207月に計画を立て、81日からやっていこうと決心。8月になった瞬間から一気にスタートを切ると、そのうち自分を取り巻く環境や集まる人が、自然と良いものに変わっていった。

自分の感情を見つめ直し、自信へと繋げていく

いつも自信に満ちて明るくポジティブな高橋さんにも、自信をなくして気分が落ちるときはあるのだろうか。本人に問いかけてみると、意外な答えが返ってきた。

10代の頃は無茶振りされても、勢いでできていました。でも、今は無理なときがあります。それはきっと、自信がないからですね。そんなとき、先生とはどうあるべきかを教えてくれた私の師匠から『感情のボキャブラリーが少ない』って言われました。師匠は私に、『生徒を行動や能力で評価するのではなく、それぞれの気持ちを尊重する。個性を大事に育てていくのが先生である』という考え方を手渡してくださった方です。そのおかげで、自分も相手も良い気持ちになれる『人との接し方』や、どんな感情の自分も受け入れる考え方ができるようになっていきました。」

感情のボキャブラリーを20個挙げるように言われたものの、最初はまったく思い浮かばなかったという高橋さん。しかし、それからたびたび師匠に「今どんな気持ちか」を聞かれるようになり、自分自身の気持ちを確認できるようになったという。自分の感情を見つめ直すことで、まず自分の内側にあるものに気付く。ただ単に「嫌だな、無理だな」と思って終わりではなく、自分を第三者の目線から見ることで自分自身を理解する。さらに自分のマイナス面もプラス面も認め、次のアクションに繋げることで自信をつけていったのだ。

一人ひとりの個性が光る環境を大切にしたい

自分自身のすべてを認め、受け入れることで自信を持てた高橋さん。「一人ひとりそれぞれが素敵だから、そういう個性を大切にしたい」と、同じように皆の個性が光る環境が増えていくことを願っている。

現在コーチを務めているチアダンスクラス・FLOWERSの意味は『花束』。個性を大切に育て、それぞれが持つ夢を思いきり目指せる環境を作りたい。そして自分も他人も応援できる、“強く優しい人になって欲しいという願いが込められているという。

「一方的にやらせるのではなく、本人がどうしたいのか決めることが重要だと思っています。例えば高校進学を決めるとき『あなたは学力がこれくらいだからここでしょ』と言われ、言われるがまま受け入れるような子になってしまうのは違う。自分の思いや意思をしっかり伝えて、自分自身の選んだ道に進める子になってほしいんです。」

純粋にチアを楽しむだけでなく、チアを通じて将来なりたい大人になるための考え方までを生徒に手渡している高橋さん。その考えが生徒たちに広がり、最初は自己主張できなかった子も、少しずつ自分の意思を示せるようになってきたようだ。

自分を許して認めれば、気持ちが楽になる

「自信が持てなくて『どうしても自分が好きになれない』という子がいても、それはそれで良いじゃないですか。決して、自分を好きになれなければダメということはないので。反省しないのとは違うけど、私も疲れてやる気がなかったり1日ずぼらだったりしたとき、『まあいいや』って深く考えず過ごせるようになってから気持ちが楽になりました。」

現代はストレス社会と言われるほど、息が詰まる場面も多い。しかしその時々で自分の感情を俯瞰して見たとき、どんな自分でも許せるようになれば、もっと自分を取り巻く環境も明るくなるのだろう。高橋さんの言葉が、そう感じさせてくれた。

さまざまな情報や価値観が溢れる今の世の中では、不本意に振り回され惑わされる人たちが少なくない。やりたくないこと、好きじゃないことばかりに囲まれ、暗闇から抜け出せず苦しむ人もいるだろう。ではそこで、本当の自分を見失わないためにはどう生きていけば良いのか。高橋さんが望むように、それぞれがお互いを認め合い、応援し合うこと。それによって、自信を持って生きていける人が溢れる『チアな世の中』になることを願いたい。

高橋 沙季(たかはし さき)

2000年99日生まれ。5歳から地元福井でチアダンスを始め、中学卒業後は福井商業高校に入学。幼い頃からの憧れであり、映画『チアダン』のモデルになったチアリーダー部・JETSに入部。全国大会・全米大会では優勝を果たし、3年次には部長に抜擢。チームでのNYカーネギーホールの公演も成功させた。現在は東京都内の大学に通いながらチアダンスチームに所属し、自身のスキルを磨き続ける。これまでの経験を活かし、ラグビースクールでリズムトレーニングを担当するなどマルチに活躍。20219月から『ココロおどるダンススクール』のチアダンスクラス・FLOWERSをスタートし、子どもたちにチアダンスの楽しさとチアスピリットの素晴らしさを伝えている。日本チアダンス協会指導者ライセンス取得。

FLOWERS公式ホームページ】

[著者プロフィール]

舘 明奈(たて あきな)

年長から地元の福井でバトントワリングを始め、高校では映画『チアダン』のモデルである福井商業高校のチアリーダー部・JETSに所属。全国大会・全米大会優勝を果たし、3年次にはカーネギーホール公演にも出演。動物看護師として働いた後、20222月に退職して独立。現在はダンサー、Webライターとして活動中。『ココロおどるダンススクール』のコーチも務める。