ランニング・エコノミーは、ランナーがある速度や距離を走る際に必要な酸素消費量で測られる。つまり、走るためのエネルギー効率と考えて良い。燃費が良い車と悪い車があるように、ランニング・エコノミーにも個人差がある。

特に長距離を走るランナーにとって、ランニング・エコノミーは大きな意味を持つ。消費エネルギーを節約できるということは、それだけ疲れが少ないということだからだ。仮に同じスピードを持つランナーが2人いれば、ランニング・エコノミーに優れたランナーの方がより長く走り続けることができる。

それでは、どうすればランニング・エコノミーを高められるのだろうか。もちろん、走るための筋力と心肺能力は大きな要素だ。それに加えて、ランニング・フォームも大切だと一般的には考えられている。主観的に「美しい」ランニング・フォームがあるように、客観的に「効率的」なランニング・フォームは存在すると思われがちだ。しかし、そのことを否定する研究もあるので、今回はそれらをご紹介したい。

目次

指導者の目で判断したランニング・フォームのパターンとランニング・エコノミー

2017年に発表された研究(*1)では、「Volodalen Method」と呼ばれる手法を用いて、58人のランナーをそのフォームから2つのパターンに分けた。その根拠は、2人のランニング指導者の視覚による判断である。

*1. Similar Running Economy With Different Running Patterns Along the Aerial-Terrestrial Continuum.

  • 地上パターン
    踵から着地し、膝と足首の曲がる角度が大きく、前方方向への推進力が大きい。接地時間は長い。
  • 空中パターン
    足底の中央、あるいは前部分で着地し、膝と足首の曲がる角度が小さく、上空方向への推進力が大きい、接地時間は短い。

現在のランニング理論では後者の空中パターンが主流だろう。ミッド・フット・ストライク(足の中足部から着地)かフォア・フット・ストライク(足の前足部から着地)で上体を垂直に伸ばし、腰高の姿勢を保つようにと教えられたランナーは多いはずだ。ところが、この研究ではどちらのパターンでも、ランニング・エコノミーには有意な差異が発生しないという結論が出た。

科学的データによるランニング・フォームの分析とランニング・エコノミー

2022年に発表された新研究(*2)では、先の研究と似たパターン分けをより数量的な手法を用いて行った。

*2. There Is No Global Running Pattern More Economic Than Another at Endurance Running Speeds.

この研究では、ランニング・フォームを2つの方法で定量化した。一つは、ストライド・ サイクルのうち足が地面に接地している時間の割合。もう一つは3D 動作分析ツールを使用して、ランナーがどの程度「空中」または「地上」のパターンにいるかを数値化したものだ。

被験者は52人のかなり経験のあるランナーたちだった。ハーフマラソンの平均タイムが1時間31分、平均ランニング歴も8年以上である。彼らにトレッドミルを時速10、12、14キロのスピードで走ってもらい、それぞれのランニング・フォームとランニング・エコノミーとの関連を分析した結果、結果は2017年の研究と同じだった。

この研究結果は、他のランニング・フォームよりランニング・エコノミーを高めるランニング・フォームは存在しないことを示唆している。従って、「指導者はランナーの自発的なランニング・パターンを修正するべきではない」と、論文著者らは結論で述べている。

ペースを気にしないで自然に走るとランニング・エコノミーが最適される

生物学的な視点から人間と動物のランニング・エコノミーを調べた研究(*3)では、人類の身体は走るスピードを自然に調節して、体内に貯蔵したエネルギーを効率よく使用するように進化していったと述べている。

*3. Running in the wild: Energetics explain ecological running speeds.

それを証明するために、研究者らはレース志向ではないジョグ愛好者たち数百人が自由に走った際のデータを、フィットネス・トラッカーを介して取得した。すると、ランニングの経験や走力レベルにかかわらず、どのような距離を走るときも、ランナーたちがペースを気にせず自由に走るときが、もっともランニング・エコノミーが高くなるということだ。

筆者の考察

ランニング・フォームにも、ランニング・ペースと同じことが言えるのではないかと筆者は考える。長年走り続けるランナーなら、ランニング・フォームは「自然に」最適化されていく。そして、最適なフォームは個人によって異なり、万人に共通したパターンはない。それが上記でご紹介した研究結果を読んでみたうえでの推測である。

唐突ではあるが、ブルース・リーの有名な言葉に以下「水になれ」というものがある。

水のように、非定型、無形であれ。水はコップに入れたらコップになり、ビンに入れたらビンになり、茶瓶に入れたら茶瓶になる。

また、宮本武蔵も似たようなことを、『五輪の書』の「水の巻」で述べている。

水は方円のうつわものに随ひ、一てきとなり、さうかい(滄海)となる。

ブルース・リーは大変な読書家でもあったらしいので、あるいは『五輪の書』から影響を受けていたのかもしれない。

武道とランニングは無関係なのかと言えば、筆者はそうは考えない。より効率的に自分の身体を動かすという目的において、共通する部分は多いはずである。

Be Water, My Friend.

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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