2023年5月27日から6月6日まで、米国フロリダ州レイク・ブエナビスタのウォルト・ディズニーワールドゴルフを中心に『フットゴルフワールドカップ2023』が開催される。この大会に自身2度目となる出場を決めたのが、日本代表の峯尾和延選手だ。

一度はサッカーの世界から離れたが、38歳でフットゴルフを始めた峯尾さん。気づけばこの競技の面白さに魅了され、シニアカテゴリーの日本代表にまで上り詰めた。サッカーをプレーしていた人であれば、誰もが「日の丸を背負う」に憧れるだろう。これを、フットゴルフプレーヤーとして叶えたのだ。

2016年に初めてワールドカップに出場したときには、世界との差を見せつけられる結果となった。日本代表として出場することだけでは満足できず、やるからには頂点を目指したいという思いが身体から湧き上がってきたという。迎える自身2度目の今大会では、“結果”を残すことにこだわっていきたいと話す峯尾さん。目前に迫ったワールドカップを前に、現在の心境や日本フットゴルフ界のこと、これまでのキャリアや今後の目標について伺った。

目次

38歳で訪れたフットゴルフとの出会い

フットゴルフ日本代表の峯尾さんが目指しているのは、ワールドカップでの優勝だ。サッカーを始めたのは、陶鎔サッカー少年団だった。周りにいるサッカー少年たちと同じようにボールを蹴り、サッカーに明け暮れる毎日を過ごしていた。中学、高校とサッカーを続け、高校卒業後はJリーグ入りを目指して活動する八王子FCでプレーすることに。35歳のときには選手兼監督としてチームを率い、そのシーズン終了後に第一線から退くことを決めた。

サッカー選手としてプロになる、そして日本代表になるという夢は叶わなかった峯尾さんだが、38歳で転機が訪れた。

「家で朝のニュース番組を見ていたとき、フットゴルフの特集をやっていました。ゴルフはもともとやったことがあったのですが、そのゴルフを足でプレーできることを知り、面白そうだなと思ったんです。」

趣味でゴルフをプレーしていたことから、漠然と将来はゴルフに関わる仕事がしたいと考えていた峯尾さん。そんなとき、自分が好きなゴルフを、これまで長くプレーしてきたサッカーと融合してできることを知り、すぐに始めることにした。

「ゴルフの場合、なかなか思った通りに打てず、ストレスが溜まるなということがあったんです。でも、ゴルフ場でサッカーボールを使い、ドローやスライス、バックスピンをかけるなど、色んな蹴り方ができるのがすごく魅力的でした。」

これが峯尾さんにとって、フットゴルフ選手としての挑戦の始まりである。

ジャパンツアー出場をキッカケに日本代表を目指す

ゴルフを始める場合はクラブ選びから始まり、握り方やフォームなどの基礎を学んで練習を重ねていかなければ、ラウンドで良いスコアを出すことは難しい。しかし、フットゴルフはサッカー経験のある人なら、ボールの蹴り方や飛ばし方など基礎的な部分はできている。そのため、あとは微調整のところを向上させていけば良い。

「フットゴルフを初めて、いきなりジャパンツアーに出場しました。すると、初ラウンドで6アンダーという、ゴルフではあり得ないようなスコアが出たんです。最初にしては上手くできたし、これは面白いとなりました。優勝した選手は、当時のフットゴルフ日本代表。もちろん上手いと感じましたが、決して手の届かない場所ではないという印象でしたね。」

初めて出場した大会にも関わらず、6位という好成績を残すことができた。実際にジャパンツアーへ出場することでフットゴルフの楽しさに触れた峯尾さんに、フットゴルフ協会の会長から声がかかる。

「ジャパンツアー後、2016年に行われる『フットゴルフワールドカップアルゼンチン大会』の予選が始まるので、やってみないかというお話を受けました。今思うと、そのようなお声がけを頂けたのも、フットゴルフを続けてみようかと思ったきっかけの一つですね。ワールドカップに出られるかもしれない、日本代表として日の丸をつけられるというのもモチベーションになりました。」

フットゴルフの日本代表になってワールドカップに出るためには、ジャパンツアーに参加して結果に応じたポイントを獲得し、年間ランキングで上位16名に入る必要がある。年間で行われるすべての大会に参加しなくても良いが、出場した大会で結果を残し、ポイントを獲得していかなければならない。当時は限られた3コース程度でしかジャパンツアーが行われていなかったため攻略しやすかったが、今はコースも増えてきており、難易度が高くなっているようだ。

フットゴルフの難しさと奥深さ

現在、フットゴルフができるゴルフ場は増えてきた。しかし、ゴルフのように打ちっぱなしができる場所があるわけではなく、練習環境は整っていないのが現状だ。ゴルフ場に行ってコースを回りながら練習したり、ときには周りのお客さんに気を遣いながら公園で練習したりすることもある。どのスポーツでも当たり前のことだが、日々トレーニングをしなければ、一人の選手として競技力を向上させることはできない。たとえサッカー経験者だったとしても、フットゴルフが簡単にできるわけではないと峯尾さんは話す。

「すごく困ったことがありました。フリーキックのように狙った場所へ蹴るというのは、サッカー経験者なら何度も練習してきたと思います。しかし、その狙った先というのはゴールの枠か、味方選手に合わせるかのどちらか。蹴っているとき、ボールが最終的にどこに止まるかを考えてはいません。サッカーの試合中であれば、シュートはゴールに入るかGKに止められるか。また、パスならボールが止まる前に、味方か相手選手が触りますからね。」

サッカーの試合中に、ボールが止まるまでみんなが待つという状況はない。そのため、自分の蹴ったボールがどこまで飛んで、どこで止まるかという感覚を、最初から持っている人はほとんどいない。しかし、フットゴルフでは、ボールを蹴ってそのボールが止まるまで待つ。そこからまた蹴って、止まるまで待つことの繰り返し。そして、最後はカップに入れなければならないのだ。

「最後のパターも、強く蹴り過ぎたらカップオーバーしてしまいます。ですから、蹴る強さの加減や距離感を掴むのは、すごく難しいのだと感じました。それと同時に、やればやるほどフットゴルフの奥深さを感じたんです。」

こうして峯尾さんは、フットゴルフに魅了されていったようだ。

フットゴルフの魅力と今後の課題

フットゴルフの魅力について、峯尾さんは次のように語る。

「フットゴルフは緑の芝生が綺麗なゴルフ場で、誰にも邪魔されずに止まっているボールを思いきり蹴れます。これは気持ちいいですし、開放感がありますね。」

年齢を重ねることで、激しいスポーツであるサッカーから離れていく人は多い。しかし、フットゴルフは、そうした人たちが、もう一度ボールを蹴られる場所になることも魅力の一つだ。

「家族でやったり、あるいはデートの一環でやったりしても良いのではないでしょうか。フットゴルフは年齢性別を問わず、誰でも一緒に楽しくできるスポーツとして、皆さんにプレーしてみてほしいなという思いがあります。」

とはいえ、フットゴルフの歴史はまだ浅く、世間に広く認知されているわけではない。だからこそ、現在プレーしている選手たちを中心に、フットゴルフの普及活動を積極的に行なっていくことが大事になってくる。

「学校の授業やお祭りのイベントとして取り入れたり、簡易的なカップを作って子どもたちに取り組んでもらったり。ライセンスプレーヤー以外で一般の方々を募集してコンペを行うというような活動は、選手やチーム、協会が中心になって行なっています。」

また、フットゴルフができる環境を増やしていくことも課題である。全国にゴルフ場はたくさんあるが、フットゴルフができるゴルフ場はそこまで多いわけではない。そのため、プレー環境を整えていくことも大事になってくるのだ。

「環境面で言うと、2023年4月29日に神戸フットゴルフクラブというフットゴルフ専用コースがオープンしました。そのほかにも、徐々にプレーできる環境も増えてきています。金額もゴルフに比べたら高くありませんし、例えば旅行でのアクティビティにもなると思うので、多くの人に体験してもらいたいですね。」

環境面だけでなく、ゴルフや他のプロスポーツと同じようにフットゴルファーも魅力あるプレーをして、見ている人々に感動を与えられるようになれば、また違う世界が開けてくるのではという思いがあるそうだ。

ワールドカップ優勝を目指して

決して、プロという恵まれた環境ではない。それでも38歳から始めたフットゴルフという競技を、46歳となった今でも続けている。魅力的な競技だからこそ続けているという面もあるが、それだけではないようだ。

「一度サッカーを始めた少年少女であれば、誰もが夢として、日の丸を背負ってワールドカップに出たいという想いを持っていると思います。スポーツは少し違いますが、再び夢を追うことができて、叶えることがきました。」

2016年にアルゼンチンで行われた『フットゴルフワールドカップ』に出場し、日の丸を背負ってワールドカップに出るという夢は叶えることができた。しかし、実際に出てみて分かったのは、“出るだけ”で満足できないということ。選手として、やるからには勝ちたいし、タイトルを獲得したい。一人のスポーツ選手として当然の思いだった。ワールドカップで世界との差を肌で感じ、これをキッカケにリベンジしてやろうという気持ちが芽生えた。

「ワールドカップで優勝したいです。まだ自分の描いているところに到達できているわけではありませんし、見えていない世界なので。そこにたどり着いたときに、どんな景色が見えるのかを知りたいですね。世界のマスターズに名を残したいというのが目標です。」

まずは、目前に迫った自身2度目の出場となるワールドカップで結果を残すこと。今回の決戦の地はアメリカであり、現在は最終調整の真っ最中だ。日の丸をつけてワールドカップに出る以上は、“頂点”を目指して戦う。簡単な道のりではないが、だからこそやり甲斐がある。女子サッカーのなでしこジャパンが世界一になったときも、戦前にこの結果を予想していた人は多くなかっただろう。スポーツというのは、どんな強敵が相手だったとしても、試合をやってみないと分からないから面白い。

最後に、自身の引退について伺うと、峯尾さんは「ないです」ときっぱり言い切った。ゴルフと同じく、フットゴルフも生涯スポーツとして楽しむことができる。そんな魅力的なスポーツだ。峯尾さんの飽くなき挑戦は、これからも続く。

峯尾 和延(みねお かずのぶ)

フットゴルフ日本代表選手としてワールドカップへの出場経験を持つ。小学校から始めたサッカーの世界から一度は身を引いたが、フットゴルフ選手として競技に復帰。2016年にアルゼンチンで行われたワールドカップに日本代表として初出場。2019年には、「kingroy tokyo footgolf」というフットゴルフチームを立ち上げて活動している。2023年にアメリカで行われるワールドカップの日本代表にも選出されている。

By 渡邉 知晃 (わたなべ ともあき)

1986年4月29日生まれ。福島県郡山市出身。元プロフットサル選手、元フットサル日本代表。Fリーグ2017-2018得点王(33試合45得点)。プロフットサル選手として12年間プレーし、日本とアジアのすべてのタイトルを獲得。中国やインドネシアなど海外でのプレー経験もある。現役引退後は子供へのフットサル指導やサッカー指導、ABEMA Fリーグ生中継の解説を務め、サッカーやフットサルを中心にライターとしても活動している。

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