現在は日本に帰国していますが、5/8~14にかけてアルゼンチンのブエノスアイレスで開催された、「A1PADEL」のBUENOS AIRES MASTERの予選に出場しました。パデル界にはプロツアーが、以下の3つあります。

  1. WORLD PADEL TOUR(以下、WPT)
  2. Premier PADEL
  3. A1P PADEL(以下、A1P)

そのうちの一つ、A1PADELの予選に出場しました。ツアーとしてはWPTに次ぐ歴史を持ち、何度か名称は変わっていますが、2018年からツアーが始まっています。WPTに続いて日本人初出場がオジサンの私でいいのか…とちょっと恐縮気味ですが、多少は頑張ってきた気もするので、出場する権利はあるのかなとも思います。パデルのプロツアーについて詳しく知りたい方は、以下記事もご覧ください。

世界ではすでに戦国時代突入!パデルを取り巻く世界の最新情報

こう書くと、出ることに満足していたのではと思われるかもしれません。しかし、今回アルゼンチンに行き、現地の公式戦(以下AJPP)に3大会出場して3回とも一回戦で負けました。アルゼンチン国内の公式戦よりA1Pの方がレベルは上がるので、厳しい戦いになるのは百も承知でした。また、滞在中徐々に良い感覚もつかみ始めてきていたので、自分でも楽しみにしていましたが、結果は1-6 0-6という厳しい結果となりました。

目次

「コーチ兼選手」を続けてきたことで得た感覚

渡亜したきっかけの一つに、「世界一のパデルプレーヤーを輩出したい!今度は指導者として世界に挑戦!」というクラウドファンディングがあります(※現在は終了)。今回の試合、選手として勝利を目指していたのは言うまでもありませんが、それだと指導者としてのインプットになるのか疑問に感じる方もいるでしょう。テニスコーチ時代も含めると、私のコーチ歴は30年近くになります。正直なところ、ここまで長くコーチ業をしていると「選手目線」「コーチ目線」と意識的に切り替えなくても、経験したり見たり聞いたりした“大事なこと”は頭の中の大きなフォルダに一旦入れられ、そのあと個別の「選手フォルダ」や「コーチフォルダ」に自動で分けられている感覚があります。

アルゼンチンを訪れた理由の一つに、「世界のパデルの共通点と相違点を見つけたい」というのがありました。今回、A1Pに出場したりアルゼンチンに滞在したりしたことで、以前出場したWPTやスペインパデルとの共通点、あるいは相違点が何なのかが朧げながら見えてきたような気がしています。これは私自身が興味あるというのが一番のモチベーションですが、今後選手を指導し、進んでいく方向を指し示す際にもとても有用だと考えています。

また、これは今回アルゼンチンを訪れて強く感じたことですが、日本に入ってくるパデルの情報はほとんどがスペイン(を中心としたヨーロッパ)のものです。現地に来ないと見れないし、聞けないものがたくさんあることを知りました。そういったものを、今後パデルで世界を目指す選手たちに伝えていくのも、私の使命なのではないかと勝手に背負っています。

環境にこだわれ

このコラムを通じて、皆さんにお伝えしたいことがあります。パデルでもスポーツでなくても、何でも構いません。それは、「環境にこだわってほしい」ということです。これは私ではなくプロサッカー選手の本田圭佑氏の言葉で、これまでスペインに行ったときも感じたことですが、今回アルゼンチンを訪れて改めて強く感じました。

自分では普通にやっていることなのに、人には「そんな風にできてすごいですね」と言われることが、誰しも一つか二つはあることでしょう。 もちろん、努力の末に獲得したものもあるはずです。、一方、知らないうちに身についていたということもあると思います。後者は、確実に環境のおかげです。周り(の人たち)も同じようなことを当たり前のようにやっているので、自分でも気づかないうちにそれを覚え、それができることに(周りの人たちもできるため)自分では気づかない。私は、よく「強くなるためには、ただひたすら努力をすればいいわけではなく、“正しい”努力をする必要がある」と伝えています。しかし、ベストなのは「良い環境に身を置き、そこで正しい努力する」です。

パデルの場合、なかなかアルゼンチンやスペインのような良い環境はないので、「努力の仕方」を間違えないことが大切になります。若い選手にはぜひ一度、アルゼンチンやスペインに足を運んで欲しいと思っています。

あのオジサンにできるなら、私にもできると思ってもらうことが大事

陸上競技の一つに、1マイルレース(1,600m競争)というものがあります。 1920年代にヌルミという選手が4分10秒という記録を出し、当時「この記録が人間が出せる限界の記録」と言われていたそうです。この言葉が陸上界で“常識”となり、その後、31年間この記録は破られることはありませんでした。しかし、イギリス人のバニスターという選手が、31年振りにこの記録を破ったのです。

そして、面白いのはここから。31年間も破られていなかったこの記録をバニスター選手が塗り替えた、その42日後のこと。なんと別の選手が、さらに記録を塗り替えたのです。さらに驚くべきことに、このバニスター選手が記録を破った同じ年に、23人もの選手たちがさらにバニスター選手の記録を破りました。

外国人の話だとピンと来ない人もいるかもしれませんので、国内の例を挙げてみましょう。100m走では、よく「(日本人にとっての)10秒の壁」という言葉は聞かれます。 実際、記録が残っている1968年から49年間、10秒の壁は破られることがありませんでした。しかし2017年、桐生選手が9秒98という記録を残して10秒の壁を突破。すると、2年後の2019年にサニブラウン選手が9秒97、その2年後の2021年には山縣選手が9秒95という記録を残しています。

統計的に見るとおかしいですが、これは何を意味しているか。それは、人間というのは「人ができていることは自分にもできる」と考える性質があるということでしょう。もう少し付け加えると、「自分が属している(と考えている)グループの人ができることは、自分にもできる」と考える性質があるのです。ですから最初に、外国人の例だけではなく日本人の例も挙げました。

もう、お分かりかもしれません。「日本人」「40代」「元テニスプレーヤー(コーチ)」「オジサン」というグループに属している私が、WPTやA1Pといった国際大会に日本人として初めて出場しているのです。同様のグループに入っている人はもちろん、もっと良いグループに入っている人にできないはずがありません。最後にもう一度、本田選手の言葉をご紹介して終わりたいと思います。

「どうせ(最後は)死ぬんでやりたいようにやってください」

By 庄山 大輔 (しょうやま だいすけ)

2019年にアジア人初となるWORLD PADEL TOUR出場を果たし、2021年現在、45歳にして再度世界に挑戦中。全日本パデル選手権二連覇、アジアカップ初代チャンピオン。国内ではコーチ活動も行なっている。モットーは「温故知新」。

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