2023年8月、日本初のプロフットゴルフクラブ「鹿島Acendia」が茨城県鹿嶋市に誕生した。所属選手は、サッカー元日本代表で鹿島アントラーズ(J1リーグ)や南葛SC(現・関東サッカーリーグ)などでプレーした青木剛選手と、フットサルでの豊富な経験を持つ小村紗貴子選手。今回は鹿島Acendia代表の吉澤颯真氏と青木選手から、フットゴルフとの出会いやプロクラブを設立した理由などを伺った。

目次

フットゴルフとサッカーの違い

フットゴルフはサッカーで使用される5号球を蹴ってカップを狙い、ゴルフ同様に18ホールでの打数の少なさを競うスポーツだ。青木はJリーガーとしてJ1通算400試合に出場した経験を持つが、フットゴルフにはサッカーとは異なる難しさを感じているという。

青木「まず、飛距離が出やすいようなキックの種類が必要で、グリーン周りのアプローチでは繊細なタッチが求められます。キックの力加減に加えて、傾斜、いわゆるアンジュレーションを読むという作業が入ってきます。風が吹いたり起伏があったりと、フットゴルフは自然が相手です。また、サッカーではパスの先に味方がいるので、多少ずれても味方が動ける範囲であればミスにはなりません。でも、フットゴルフは穴が固定されているので、ピンポイントで合わないとカップインできないんです。」

青木剛のフットゴルフとの出会いと2022-23シーズン

青木は2001年に鹿島アントラーズに入団し、2016年までおもにボランチとしてプレー。2008年と2009年には日の丸を背負い、2試合の出場経験も持つ名選手だ。サガン鳥栖(J1リーグ)とロアッソ熊本(J2リーグ)を経て2019年からは南葛SCへと移籍し、2021シーズン終了後に引退。フットゴルフと出会ったのは、現役引退を決めた直後のことだった。

青木「2021年限りでの引退を決め親友に報告したところ、後日『今度フットゴルフというスポーツをするんだけどどう?』とお誘いを受けました。それが、最初にフットゴルフを知ったきっかけであり出会いでした。僕はゴルフの世界観が好きで、アントラーズにいた頃から趣味としてオフに楽しんでいたので、フットゴルフのことを知った瞬間に『サッカーボールを使ってゴルフができるのは間違いなく面白いな』と感じましたね。」

実際にプレーして感じたのは、予想を裏切らない楽しさ。フットゴルフについて詳しく調べるなど、すぐにのめり込んでいく。

青木「実際にしてみても面白く、すぐに調べてジャパンツアーという大きな大会やW杯が開催されていると知り、フットゴルフで高みを目指したいという思いが一気に強くなっていきました。」

古巣・南葛SCが青木の思いを汲みフットゴルフ部を立ち上げて、2022年4月にプロフットゴルフ選手として契約。青木は本格的に「フットゴルフ選手」として活動をスタートした。

青木「僕の活動で恩返しをして、南葛SCの更なる発展に貢献したい。そして、フットゴルフで利益を生み出していけるような存在になりたいと思っていました。メリットを生み出さなければいけないと、ずっと考えながら活動していましたね。」

南葛SC所属選手として日本最大の大会である『ジャパンツアー2022-23』に参戦すると、惜しくもシーズンチャンピオンこそ逃したものの通算3位。ジャパンツアーでの活躍によって日本代表の1人に選出され、5月にはW杯に参加した。準優勝に輝いたアルゼンチンに敗れたものの、ベスト8進出に貢献。W杯ならではの雰囲気を体感できたのは、貴重な経験となっている。

青木「開催地のアメリカには、世界40か国から計1,000人弱の選手が集まりました。ゴルフは紳士のスポーツで、フットゴルフも物静かにやるというイメージが強かったのですが、W杯の団体戦ではカップインしたときに雄叫びをあげたり、あからさまに相手に向かってガッツポーズしたり。普段日本では感じられない、国対国ならではの熱気がありました。」

2022-23シーズンは本格参戦初年度ながらジャパンツアーで3位、W杯でベスト8進出という成績を残した。しかし、青木が感じていたのは大きな悔しさ。それとともに、南葛SCへの恩返しができていないという思いだった。

青木「シーズンを振り返ると、自分の中では悔しい思いが強かったですね。初年度でも結果を残したかったのが正直なところです。僕の力不足もあって、なかなか南葛SCに還元できていないと感じながら活動していました。」

吉澤が鹿島Ascendiaを立ち上げたワケ

一方、鹿島Ascendiaの代表を務める吉澤颯真は鹿嶋市で合同会社「Day Produce」を立ち上げ、4年ほどが経過していた。おもな業務内容は、都内の大学生を対象にした野球やフットサルの宿泊型大会の運営。事業がある程度安定するなか、新たな思いが芽生えていた。鹿嶋のためになる、新たな事業がしたい。そんなときに出会ったのが、青木だった。

吉澤「知り合いの方に『フットゴルフを本気でやっている青木さんという方がいるよ』と紹介してもらい、2022年11月に初めてお会いしました。その時点では具体的なプロクラブの構想はなく、フットゴルフのイベントを鹿嶋市内で開く際のアドバイスや助言を、青木さんに頂くという形でした。」

そこから、なぜプロクラブという発想に至ったのか。吉澤自身もフットゴルフをプレーして面白さを理解し、本気で発展させるために熟考した末の決断だった。

吉澤「1番大きな理由は、競技として持続可能なものであり、かつ普及・発展させていくには認知と競技人口が欠かせないためです。どんなに面白い競技でも、知ってもらわないと、やってもらわないと持続可能なものにはなりません。認知と競技人口の拡大には『プロフットゴルフ選手』という肩書きや、伴った実力があってこそ。プロ野球やJリーグのように、見ていてかっこいいから、夢があるから、お金が稼げるからという理由で子供たちが目指し、周りも否定しないという循環になります。仮に熱量ではプロと同等でも、大して給料がもらえない、プロではないとなると、また話が変わってきます。普及・発展のためにはプロクラブを旗揚げし、半ば強引にでもサイクルを作った方がいいと考えました。そこで、今年2月に初めて、青木さんにプロクラブの構想を提案させていただきました。」

吉澤からプロクラブの構想を聞いた青木は、率直に魅力的だと感じたそうだ。

青木「夢のある話で、もし実現できたらとすごく魅力的に感じました。南葛SCに対して、恩と申し訳なさを感じていた中で吉澤さんからプロクラブのお話をいただき、気持ちが揺らいだというのが本音です。」

その後、青木は移籍を決断し、鹿島Ascendiaが誕生した。現在の所属選手は青木のほか、女子選手の小村紗貴子。小村はフットゴルフの経験は浅いものの、フットサルに真剣に取り組んでいた過去を持ち、Day Produceの従業員でもある。

吉澤「小村はまだ競技に対しての熱がくすぶっていたところに、青木さんやフットゴルフと出会いました。初めはイベントの勉強でしたが、女子は競技人口が多くなく、しっかりと蹴れるだけである程度の優位性を持てる状況ということもあり、参入を決めました。競技を本気でやる人ほど、普及と発展を願っています。ただ、ジレンマだと思うのですが、本気で競技をやっているので、普及と発展に全てのエネルギーを注ぐことはできません。簡単ではないけれど、小村には女子の1位や2位を目指しながら、クラブやフットゴルフの発信など、両方の面で期待しています。」

日本初のプロフットゴルフクラブが抱える課題と目標

鹿島Ascendiaは創設1年目ながら、一定数のスポンサーが付きバックアップしている。ただし、現在は青木の存在があってこそというのが現実だ。

吉澤「青木さんが鹿嶋でフットゴルフをしていることは認知されており、青木さんを知るほとんどの方がフットゴルフを知っている状態でした。今は青木さんを入り口として応援していただいている企業が非常に多いので、クラブとして地域に根付くよう、愛されるようにならなければいけないと考えています。」

地域から愛されるために、大きな課題は2つ。露出の増加もしくはそれに代わる化学反応、そして競技として認知されることである。

吉澤「露出量やテレビ放送・配信サービスがあるのか、試合の回数は多いのかなど、広告費として見られると少ないのが現状です。クラブとしても露出を誘発して、フットゴルフが目指す『オリンピックでの正式種目化』などを契機に変えていかないといけない。現在は代わりになるような、化学反応で還元しなければなりません。もう1つは、年齢・性別問わずにとにかくフットゴルフに1度触れてほしい。鹿嶋市主催のイベントやアントラーズさんなどとのコラボで、認知を広げることを目指しています。1度やってもらえれば、ハマるか、少なくとも楽しいと感じてもらえる競技だと思っているので、いかに触れてもらえるかが課題です。」

2つの課題解決のために、そしてフットゴルフの普及・発展のために。吉澤は3つの軸を同時に進めていく覚悟だ。

吉澤「1点目としては、プロクラブである以上、所属選手の活躍です。活躍は競技人口を増やすことに繋がりますし、選手個人が影響力を付けるに越したことはありません。青木さんは元々素晴らしい肩書と実績があるので、そこに肉付けをしていく。小村はまず影響力を作り出していく。プロクラブとして個人の結果に繋がるよう、練習環境や身体のメンテナンス、メンタルのケアに尽力しなければいけません。2点目は、イベントの回数をより多くして、1人でも多くを巻き込んでいく。その1人が発信して広がることもあるので、直接的な収入にはならなくても、ビギナー大会や子供のためのイベントを魅力的なものにする必要があります。3点目は鹿島Ascendiaとして、トップレベルの人たちが参加する大会の開催を進めています。日本で1番格式の高い、ジャパンツアーの次になるような。すでに準公式戦みたいな位置付けの大会が各地域に存在するので、それらとは色が違うものを目指しています。」

そして、本格参戦2年目。鹿島Ascendiaでの最初のシーズンとなる青木が目指すのは、2022-23シーズンで惜しくも逃した頂である。

青木「今季は8月からシーズンが始まったので、まずはジャパンツアーで日本の頂点を目指すことが明確な目標です。あとは国際大会があれば、そちらの方でも頂点を目指したいです。」

日本初のプロクラブであるが故に、鹿島Ascendiaにはあらゆる課題が降りかかってくるだろう。だからこそ、乗り越えた際には唯一無二の影響力を持つに違いない。プロクラブ、プロ選手だからこその活躍・活動に期待したい。

By 椎葉 洋平 (しいば ようへい)

福岡県那珂川市在住のサッカー大好きフリーライター。地元・アビスパ福岡を中心に熱く応援している。趣味で書いていたものが仕事につながり独立。サッカー、スポーツ、インタビュー記事を中心に執筆中。

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