「SAMURAI BLUE(サムライブルー)」の愛称で親しまれているサッカー日本代表チーム。彼らが着ているユニフォームもまた、「サムライブルー」と呼ばれる青色です。公益財団法人日本サッカー協会(略称:JFA)のホームページには、歴代のサッカー日本代表チームが着ていたユニフォームが掲載されています。2018年開催のFIFAワールドカップでサッカー日本代表が着ていたユニフォームを紹介しているページに目が止まりました。当時のユニフォームについて、次のように書かれています。

ロシア・ワールドカップでの好成績を期する日本代表の思いを表現したコンセプトは「勝色(かちいろ)」。かつて戦国時代に武将たちが戦(いくさ)に臨む際にまとった鎧下と呼ばれる着物に使われた藍染めの生地において、最も濃い色で勝つための験を担いだ。

日本サッカー協会 ホームページより

2018年にサッカー日本代表が着ていたユニフォームのコンセプトは、「勝色(かちいろ)」だったそうです。私は、恥ずかしながらサッカー事情には詳しくありません。しかし、「勝色」には非常に興味を持っています。私の興味をサッカーへ引き寄せてくれた「勝色」には感謝です。

今回のコラムは、この「勝色」がテーマ。「勝色」とは一体どのような色なのでしょう。そして、「勝色」は剣道とも深い関わりがある色です。そんな「勝色」を探りながら、剣道の魅力に迫ります。

目次

「勝色」とは

「勝色」は、本来「褐色(かちいろ)」と書きます。「褐色」とは、日本の伝統的な染色工法である藍染めにおいて、紺よりもさらに濃く、黒く見えるほどに染め上げた色のこと。厳密に言えば、糸や生地を藍で染色するたびに叩く工程を加え、光沢を持たせた濃い紺色のことを言います。この「褐色(かちいろ)」の音が「勝色(かちいろ)」と共通することから縁起の良い色とされ、鎌倉時代には武士たちが好んで身にまとうようになったそうです。

※現代では「褐色(かっしょく)」と読み「赤褐色」「黄褐色」を示す言葉ですが、近世以前は濃い藍色を表しました

いざ出陣すれば、無事に戻ってこられる保証はどこにもない。当時の武士が、縁起を担いででも勝利を掴みたいと思うのも自然なことと言えるでしょう。「勝色」がコンセプトのユニフォームを着た当時のサッカー日本代表は、まさに戦に挑む武士と同じ覚悟だったことが想像できます。なんだか胸熱です。

褐色の糸や生地は、験担ぎ以外の意味合いでも、当時の武士たちに愛用されていたようです。藍染めは染め重ねることで、糸や生地が丈夫になると言われています。褐色の糸や生地は、何度も染め重ねられていることで丈夫なため、鎧をつなぐ糸などにも使われていました。

また、藍染めは古くから解熱や解毒、抗炎症薬などにも用いられていたのだとか。ひとたび戦に出れば負傷することは必然のため、藍で染め重ねた糸や生地を身につけて戦に挑むのは理にかなっていたと言えるでしょう。

剣道と勝色

現代の剣道家も、当時の武士と同様に「勝色」を好んで身につけています。剣道で着用する剣道着や袴は、藍染めで染色されているものが一般的です。剣道の防具に用いられる生地や革にも、藍染めが多用されています。新品の剣道着や袴、防具は、ほとんどの場合「褐色」です。現代の剣道着や袴、防具には、当時の武士が着用していた鎧や鎧下のDNAが受け継がれていると言って良いでしょう。

藍で染められた生地や革は、染色によって丈夫になる一方、洗濯や摩擦による色落ちが避けられません。剣道着や袴、防具も、使っているうちに段々と色が薄くなってきます。新調した当初は「褐色」だった剣道着や袴の色が、稽古や洗濯によって少しずつ色が薄くなってくるわけです。色が薄くなり「褐色」ではなくなった剣道着を見ると、私は「それだけたくさん稽古したのだな」と自信が湧いてくる気がします。藍染めの「褐色」は、色が薄くなってしまった後でも、剣道家に勇気を与えてくれる色なのかもしれません。

ちなみに、藍染めの剣道着や袴は染め直すことが可能です。稽古や洗濯によって色が薄くなり、「褐色」から遠のいてしまっても、染め直すことで「勝色」に復元できます。剣道着や袴は、厚手で丈夫な生地で作られているので、簡単に破れることはありません。色さえ染め直してしまえば、かなり長期間使用することができます。実際、私が普段の稽古で使用している剣道着や袴は10年近く使用しているものです。それぞれ1度ずつ染め直しました。今後もまだまだ使うことができそうです。大量消費社会と言われる現代において、藍染めの剣道着や袴はとってもエコなのかもしれませんね。

変わらず継承されていく「勝色」への思い

剣道用具はいま、大きく様変わりしてきています。剣道用具の製造業者や販売店などが製造工程や使用する材料を工夫することで、剣道用具が比較的安価で買い求められるようになりました。剣道着や袴の素材はもともと綿100%のものが主流でしたが、最近はポリエステルなどを使ったジャージ剣道着、ジャージ袴が登場しています。化繊を用いることで安価になり、かつ速乾性が高く、全般的に高機能です。日々の稽古がより快適になったと考えている剣道家も多いでしょう。

剣道着・袴の素材は変わりつつありますが、頑なに守られているものもあります。基本的に、剣道着や袴は濃い紺色のままです。素材が代わり、生地の染色方法が変化しているのですから、赤や緑の剣道着や袴が登場しても良さそうなもの。それでも濃い紺色のままなのですね。武士の「勝色」への思いは、今後も変わらず、継承されていくでしょう。

皆さんも勝負に挑む際には「勝色」を身につけてみませんか。

By 三森 定行 (みもり さだゆき)

剣道LABO®︎代表・剣道ファシリテーター。自身の剣道経験と映像編集技術を駆使し、社会人剣道家の上達をマンツーマンでサポートしている。東京・神奈川・千葉・埼玉にクライアント多数。全日本剣道連盟 錬士七段。1976年生まれ。

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