2023年11月30日〜12月3日にかけて開催された『第7回ダンロップ全日本パデル選手権』の女子ダブルスにおいて、アカデミー所属の徳本 佳恵選手・塚本 早紀選手が優勝しました。これまで準優勝を2度経験しており、今回が念願の初優勝です。

目次

コーチとして意識していたこと

ツアー参戦とトレーニングのため、彼女たちがスペインに行ったのが夏頃のこと。2週間という短い期間ながら、そのプレーには変化がありました。少しですが、以下の過去記事でもこれについて書かせて頂いています。

「誰から」「誰と」一緒に「どこ」で習うかが大事

そこから優勝までの5か月間、彼女たちとのレッスンは、今思えば陶芸しているような感覚だったと思います。

彼女たちと会うのは毎週木曜日の夜。私の木曜のスケジュールは、午前午後とも全国ベテランパデル大会に出場する方々のレッスンを行い、そこから移動して夜に二人のレッスンという流れでした。木曜日にレッスンしている方々は、カテゴリは違えど皆さん「優勝」を目標に練習を重ねている方々。他曜日にレッスン受けてくださってる方がそうではないということではありませんが、多少なりとも重責がのしかかってきます。

最初は気づかなかったのですが、夏明け頃からこの“木曜日”の存在が、私の中で大きくなっていました。なぜなら、彼女たちから「今後は世界を目指す」ということを聞いていたからです。その言葉に加え、もう二つ理由があります。一つは、スペインに行って彼女たちのプレーが良い方向に変わった(だからこそその流れを止めない)こと。そしてもう一つは、素直(ときどき頑固)なうえに上達意欲がとても高かったことです。ここ数ヶ月間、私が意識していたのは以下の3つでした。

  • スペインで得た学びや気づきを継続してもらう
  • 「国内で勝つためのプレー」と「海外で対等にプレーするためのプレー」のバランスを取る
  • 現時点では得意(かつポイントも取れているものの将来的に手詰まりになる可能性が高そう)なプレーやフォームを、今後のためにどれくらい改善する必要があるかをどれくらい伝えるか

2種類のアドバイス

コーチなどから指導を受けている人なら経験があるかもしれませんが、そのアドバイスには大きく分けて、「即効性のあるもの」と「じわじわ効いてくるもの」の2種類があります。そして、多くの人が誤解しているのが、コーチからのアドバイスがすべて即効性のあるものだと思っていることです。

コーチは魔法使いではありません。もちろん、そういったアドバイスはありますし、人によっては(伝えるタイミングにより)効果てき面ということもあり、それは嬉しいものです。もちろん、伝えてみなければわからないものもありますが、自分が伝えようとしているアドバイスに即効性があるのかどうか、そのアドバイスが選手の中に入り込むまでに時間を要するか否かは、経験豊富な指導者であればだいたい理解しています。逆に、コーチも選手も「自分がアドバイスすればすぐ良くなる」「コーチのアドバイス通りやればすぐ良くなる」と本当に思っているなら、それは危険過ぎるでしょう。結果、お互い苦しむことになります。

先日、私はメンタルトレーニングの実技と講習を受けてきました。その際、講師の方が次のように仰っていたのを覚えています。

「メンタルトレーナーをしていると、『明日の試合どうしても勝ちたいんですが、どうしたらいいですか?』というような質問をよく受けます。これは恐らく、その人の中でメンタルトレーニングを何か“魔法”のようなものだと勘違いしているのでしょう。メンタルトレーニングはトレーニングなのだから、毎日やる必要があります。今日だけ筋トレして、明日急に試合に勝てるようになるとは思いませんよね。そういうことです。続けることが大事なんです。」

これは、スポーツに関わるすべてのことに当てはまると思います。もちろん、あるアドバイスをしたことによって、良くなるキッカケを掴むことは多々あるでしょう。しかし、それを自分の中に定着させるには、どうしても反復する必要があります。 また、じわじわ効果が出てくるものは時間がかかることを伝え、納得してもらわなくてはいけません。。 テニス時代からを含めると、この点を伝えるのがもっとも難しいと感じます。

スポーツでも難しい「緊急ではないけど重要」なこと

タイムマネジメントやタスクマネジメントの際によく使われる「緊急度と重要度のマトリクス」というのがありますが、これはスポーツ指導の現場でも使われます。残されている時間が比較的あるジュニア選手であれば、「緊急ではないけれど重要なこと」に時間を割くことは、そこまで難しいことではありません。しかし、ジュニアとに比べると残り時間が少ない成人プレーヤーの場合、どうしても“緊急なこと”に時間を割きたくなってしまいます。その意味では、結果の出ているジュニアも似ているかもしれません。

私が他の成人プレーヤーと違うのは職業がコーチという点で、今のところ死ぬまで辞めるつもりはありません。ですから、私は50代(もしくは60代)に理想のプレーができればいいな…くらいの感覚があります。自分の中ではかなり時間があると感じているので、先ほどの「緊急ではないけれど重要なこと」に着手し続けることができており、これは一般の方と大きくかけ離れている部分かなと思っています。

少し話が逸れましたが、現在日本がパデル界のトップ集団にいるのであれば「日本で通じること」は世界と繋がっていますので、そのまま取り組んでいけば構いません。しかし、現状はアジア圏内でもダントツ上位にいるというわけではないため、日本にいながら世界と(対等に)戦うのであれば、この「緊急ではないけれど重要なこと」に取り組む必要があります。ここでいう「緊急」は、「結果」と置き換えても良いかもしれません。日本で結果を出しつつ、世界で戦うために重要なことに取り組む。これが簡単なことではないのは、恐らく伝わったことでしょう。 徳本 佳恵選手と塚本 早紀選手、二人の真価が問われるのは来年以降ですが、まずは優勝本当におめでとうございます。

スポーツは芸術

冒頭で、「陶芸しているような感覚」と表現しました。それは、陶芸に例えると日本の賞は取れるくらいある程度の形まで出来上がりつつある器を、作ってる途中に「やっぱり海外の賞獲りたい」と一からやり直すわけにはいかないものの、四からやり直すくらいのことはしなければいけなくなった感じがあったからです(伝わりにくかったら申し訳ありません…)。以前に以下のコラムも書いていますが、やはりスポーツコーチングは、芸術作品を作るのと同じだなと改めて感じました。

選手と芸術作品は同じ、と考える理由

微力ながらも二人の優勝に関われたのはとても嬉しいのと同時に、少しだけほっとした気持ちもあります。これから二人はアジア、そして世界へと挑戦するわけですから、これからの活動がますます楽しみです。

45歳以上の部優勝

ここからは私自身のことになりますが、『第2回全国ベテランパデル大会』45歳以上の部で優勝することができました。この大会に優勝するとベテラン日本代表として、2024年に開催予定のベテランアジアカップ、ベテラン世界大会に出場することができます。2024年以降は、このベテラン日本代表とA1 PADELがスタートさせる45歳以上の選手を対象としたプロツアー、そしてアジア圏を中心に新たにスタートするプロツアー『Asia Pacific Padel Tour』を中心に選手活動していきたいと考えています。なお、ベテラン大会の詳細は、以下個人のブログで取り上げておりますのでご覧ください。

日本パデルアカデミー|第2回全国ベテランパデル大会を終えて

私自身の全日本はというと、先日中東で開催されたPADEL CUP『ASIA MASTERS2023』において見事に優勝を果たした日下部俊吾・平レオンペアに、一回戦で当たり負けました。負けはしましたが、現在のアジアチャンピオンと全日本という舞台で真剣勝負できたことは良かったですし、今後に活かしたいと思います。まもなく2023年も終わりますが、来年以降が楽しみです。

By 庄山 大輔 (しょうやま だいすけ)

2019年にアジア人初となるWORLD PADEL TOUR出場を果たし、2021年現在、45歳にして再度世界に挑戦中。全日本パデル選手権二連覇、アジアカップ初代チャンピオン。国内ではコーチ活動も行なっている。モットーは「温故知新」。

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