古い打ち方・新しい打ち方の論争は、テニスコーチ時代もありました。しかし、残念ながらパデルにも、この不毛な論争が出てきています。 正確に言うと、これは以前(と言っても4~5年前)からありました。普段の生活では、可能な限り新しい分野やテクノロジーに触れておきたい(最近、若者にAirDropのやり方とメンションの簡単な飛ばし方を教えてもらいました)と思っていますが、スポーツに関しては別です。 「古いか新しいか」より「理に適っているかどうか」の方が私にとっては大事で、これに加え、その打ち方や戦術や考え方が「どれぐらい(の期間)生き残ってきたか」ということも重視しています。これに関しては、過去記事で少し触れていますので、良かったら合わせてご覧ください。

パデルが「すぐ」上手になっちゃう人は何が違うのか|パデル・庄山大輔選手コラム

「新しいけど理に適っていない」なんていうことはざらにありますし、「今は流行っているけど数年後には見る影もない」なんてことも珍しくないことは、恐らく皆さんも経験済みでしょう。 一方、ブームからスタンダードに昇格したようなものもたくさんありますので、そこは注意が必要です。 パデルでいうとオフェンス時に打つショットに「Vibora(ビボラ)」というものがありますが、このショットはパデルが誕生した当初は存在しておらず、10年ほど前に生まれて今では比較的ポピュラーなショットとなっています。

目次

新しいものは選手のときに試す

私は現在、選手とコーチの二足の草鞋を履いています。根本の部分で考え方は同じものの、一選手としては指導をしているときより、比較的新しいものを取り入れるようにしています。なぜかというと、その取り入れたものが「新しかっただけで何の効果もなかった」という可能性があるからです。

この場合、「庄山選手が新しいものを試してみたけれど上手くいかなかった」というだけで済みます。 しかし、これを指導の現場でやるわけにはいきません。あくまで個人の意見ですが、「(上手くいくかわからない)新しい打ち方教えてみたけれどダメだった」は、プロコーチとして成立していないのです。

本戦と予選の違い

なぜ、プロコーチとして成立しないのか。スクールなどに来る方は、コーチや選手と同じ練習量を確保できません。これは少し見方を変えると、「新しいことにトライできる回数」がどうしても少なくなるということ。 別の言い方をすれば、ミスできる回数に限りがありますし。 練習量が多い人ほど新しい事にトライできるしミスもできるということです。

これについては2021年にVIGO OPENの予予選に出場した際、帰りの車に同乗したCÁNDIDO JORGE ALFARO選手(世界ランキング現在83位)と似たような話をしたのを覚えています。そのとき、彼は次のように話していました。

「私は予選に出場しながら、コーチとしても働いている。働いている時間は練習できない。でも、彼ら(WPTの本戦に出場している選手)は私が仕事をしている間も練習ができる。トレーニングもできるし、身体のメンテナンスもできる。これは大きな差だ。」

コーチの使命

先ほど、選手としては新しいものを試すけれど、コーチのときはそれはしないと言いました。 その理由は、スクールに来る方は(練習量に限りがあるので)ミスできる量に限りがあり、指導者が安易に新しいことにトライしてそれがまったく見当違いのものだった場合、リカバリーするのにかなりの時間を要するからです。仮に、その新しいことピッタリハマったとしても、ハイリスクなことを(怖くて)私はお伝えできません。

  1. ローリスク・ハイリターン
  2. ローリスク・ローリターン
  3. ハイリスク・ハイリターン
  4. ハイリスク・ローリターン

私は個人的に、指導のプロならこの順番を目指すべきと思っています。

コーチに習う意味

独学ではなく、コーチに習う意味は何なのか。それは、ケガを治す時間を減らせるということです。独学で行ったりハイリスクな(可能性がある)ことにトライさせるコーチがいたりして、そのせいで大ケガしたとしましょう。もちろん、「結果的に失敗したけどナイストライじゃないか」と捉えることもできるかもしれません。しかし、そのケガによって失うものが2つあります。それは、「ケガしていなければ練習できた時間」と「その新しいことを試したことで身についたクセを治すための時間」です。

ケガさせない、リスクを低くしてあげる、時間を無駄にさせない。 まだまだ発展途上のパデルですが、コーチはこのあたりを意識して現場で指導にあたると良いのではないでしょうか。

By 庄山 大輔 (しょうやま だいすけ)

2019年にアジア人初となるWORLD PADEL TOUR出場を果たし、2021年現在、45歳にして再度世界に挑戦中。全日本パデル選手権二連覇、アジアカップ初代チャンピオン。国内ではコーチ活動も行なっている。モットーは「温故知新」。

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