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◆クラブの期待と「見合わない」

イングランド・プレミアリーグのチェルシーは、フランク・ランパード監督を解任した。クラブは公式サイトで「非常に難しい決断となりました。フランクが監督として成し遂げたものには感謝していますが、最近の結果やパフォーマンスは、クラブが期待と見合っていません。何も変えなければ現状は打破できません」と理由を説明した。

 

ランパードは現役時代、ウェストハム、チェルシー、マンチェスター・シティの3クラブで、プレミアリーグ609試合に出場。攻撃に長けたMFで、通算177得点、102アシストを記録している。特に2001―02年シーズンから16年間プレーしたチェルシーでは絶対的な存在として、チームを3度のリーグ優勝に導いた。2004-05年シーズンはリーグの最優秀選手に選出。クラブの象徴だった。

 

そして引退から2年が経った2019年、ランパードはチェルシーの監督に就任した。1年目はリーグ4位。しかし、今シーズンは、ここまで8勝6敗5分けの勝ち点29で、20チーム中9位と低迷している。優勝に向けて、オフにはイングランド代表でレスターDFベン・チルウェルや、ドイツ代表でレバークーゼンMFカイ・ハフェルツら大物選手を獲得。補強に過去最大規模の約2億ポンド(282億円)を使っていた。

 

オーナーのアブラモビッチ氏は「クラブにとって非常に難しい決断でした。私はフランクと個人的に素晴らしい関係を築いているからだけでなく、この上なく彼を尊敬しているからです。彼は律儀で意識が高い人間。しかし、現状では監督を代えることが最善だと信じている」とコメントしている。

 

◆名選手は名監督になれず?

チェルシーでも、イングランド代表でも功績を残したランパード。しかし、わずか1年半で監督を解任された。名選手は名監督になれないのか。プレミアリーグの優勝監督は、選手としては大成せずに指導者になったケースが多い。

【ユルゲン・クロップ】

昨シーズン、リバプールを30年ぶりのリーグ優勝に導いたユルゲン・クロップ監督はFWとしてキャリアをスタートしたが、DFに転向した。自身の現役時代を「平凡な選手」と評している。出身国のドイツ代表に入ったこともない。しかし、監督としての能力、実績は誰もが認めている。2001年に就任したドイツ2部リーグ・マインツでは、財政的に決して恵まれていないクラブを3年後に1部へ昇格させた。

 

◆香川真司の「恩師」

2008年には低迷していたドルトムントの監督に就任。その3年目、若い選手や香川真司ら新しく加入した選手の特徴を生かして、9シーズンぶりの優勝をもたらした。翌年も優勝を果たし、連覇を成し遂げている。

 

【ジョゼップ・グアルディオラ】

プレミアリーグでは、おととし、マンチェスター・シティがリーグ連覇している。そのチームを率いているのが、スペイン人のジョゼップ・グアルディオラ。現役時代、バルセロナの下部組織で育ち、「ドリームチーム」と呼ばれたトップチームでも中盤を支え、主力としてリーグ4連覇やチャンピオンズリーグ制覇など、数々の栄光を手にした。

 

◆選手でも監督でもバルサで栄光

2006年に引退すると、バルセロナB(当時4部)の監督を務めた。そして、2008年にトップチームの監督に昇格すると、その年に「国内リーグ」、「国内カップ」、「チャンピオンズリーグ」の三冠を達成。就任1年目での三冠はスペイン史上初めての快挙だった。その後、ドイツのバイエルン・ミュンヘンでも監督としてリーグ優勝を果たしている。

【ジョゼ・モウリーニョ】

2004年にチェルシーの監督となり、1年目でリーグ優勝に導いたのは、ポルトガル人のジョゼ・モウリーニョ。シーズン記録となる勝ち点95を積み上げ、圧倒的な強さでクラブ50年ぶりの快挙を成し遂げた。翌シーズンも優勝し、連覇を達成している。2013年に再びチェルシーの監督に就くと、2年目のシーズンで優勝している。

 

◆選手では無名 通訳経て監督で大成

父が元ポルトガル代表のGKだったモウリーニョは現役時代、代表とは無縁だった。ポルトガル2部リーグでプレーした無名の選手。引退後は体育教師を経て通訳に。その後、バルセロナでアシスタントコーチを経験した。

 

チャンスをつかんだのは、2000年。ポルトガルの古豪・ベンフィカで初めて監督に就くと、翌年に中堅クラブだったレイリアを指揮し、リーグ4位の好成績を残した。その手腕が買われて、名門・ポルトの監督に就任すると、2002-03年シーズンで「国内リーグ」と「国内カップ戦」、「UEFAカップ」の三冠を達成した。続く2003-04年シーズンは独走でリーグ連覇。さらに、チャンピオンズリーグを制して2つのタイトルを手にした。

 

【アレックス・ファーガソン】

監督の入れ替わりが激しいサッカー界で異例ともいえる長期政権を築いたのが、名将アレックス・ファーガソンだ。スコットランドの国内クラブの監督を歴任し、1986年から当時低迷していたマンチェスター・ユナイテッドを27年間率いた。

 

◆前人未到27年の長期政権 リーグ優勝13回

その間、リーグ優勝13回、チャンピオンズリーグ優勝2回など、数々のタイトルを獲得した。1998-99年シーズンは「国内リーグ」、「FAカップ」、「チャンピオンズリーグ」の三冠をイングランド史上初めて達成した。ポール・スコールズやライアン・ギグス、デービッド・ベッカムら数々の名選手を育てた。

 

監督としては前人未到の領域に達したファーガソンは現役時代、生まれ育ったスコットランドのリーグでプレーした。しかし、選手としては際立った成績を残せず、32歳で引退。すぐに指導者の道を歩み始めた。

 

他にも、J1名古屋を率いたこともあるアーセン・ベンゲルは、アーセナルを3度、優勝に導いているが、現役時代には名声を得ていない。ただ、プレミアリーグでは名選手が名将になれないとは限らない。グアルディオラのような例もある。

 

ランパードの監督としての能力を判断するには、1年半では短すぎる。

By New Road 編集部

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