プロテイン・パウダーを大袋で購入すると、大抵は15~20gほどの計量スプーンがついてくる。プロテイン・バーのパッケージに記載されている1本に含まれるたんぱく質の量も同じ程度のことが多い。

その背景には「たんぱく質を一度にたくさん摂ってもすべてが筋肉になるわけではない。必要量より多く摂取すると脂肪になってしまう」という通説が世間に流布していることが挙げられる。そして、その適切なたんぱく質摂取量とは1回につき20g前後だとされているのだ。

ところが、その通説を否定する研究論文(*1)が最近発表された。筋肥大反応を促進するためのたんぱく質摂取量には必ずしも上限はないとしたものだ。

*1. The anabolic response to protein ingestion during recovery from exercise has no upper limit in magnitude and duration in vivo in humans
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666379123005402

目次

1回のたんぱく質摂取量と筋肉同化作用

この論文は医学系ジャーナル『Cell Reports Medicine』2023年12月号に掲載された。研究を主導したのはオランダ・マーストリヒト医科大学の医学者グループだ。

研究では被験者を3グループに分け、それぞれのたんぱく質摂取量を以下のように変化させた。

  •  グループ 1:たんぱく質 25g
  • グループ 2:たんぱく質 100g
  • グループ 3:たんぱく質を含まないプラセボ(偽薬)

すべてのグループは同じ内容の筋トレセッションを完了し、その後12時間にわたって身体の反応を観察された。

研究者らは、たんぱく質摂取量と筋たんぱく質の合成および吸収の間には相関関係があることを発見した。 摂取したたんぱく質の量が多いほど筋肉がより多く合成され、そこには飽和点は見つからなかった。

つまり、一度の食事で大量のたんぱく質を摂取したとしても、そのたんぱく質は体内で有効に利用されるということである。 ただし、大量のたんぱく質を消化しアミノ酸に吸収されるまでには、より多くの時間がかかるということだ。

どうやら筋肥大にとって重要となるのは1日単位のたんぱく質摂取量であって、それを何回かに分ける必要はないということらしい。20gx5回でも100gx1回でも、自分に都合の良いタイミングを選ぶことができる。

筋肉作りとたんぱく質摂取の関係

上の研究はたんぱく質の摂取が筋肉を成長させるために必須であること自体を否定しているわけではない。ただし、その摂取の適切な量やタイミングについては、従来の通説が必ずしも正確ではなかった可能性を示唆している。

たんぱく質と筋肉に関しては、最新の研究が従来の通説を否定する例が他にもあり、これまでにも当ウェブサイトでいくどか紹介してきた。

関連記事:筋肥大にたくさんのたんぱく質は必要ない?

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関連記事:筋トレ終了後、30分以内のたんぱく質摂取は本当に必要なのか

筋肉質な身体作りに熱心な人々をステレオタイプ的に定義するならば、1日に5、6回はたんぱく質を摂取することを特徴のひとつとして挙げられるだろう。

彼らは毎食欠かさずに肉や魚や卵を食べ、筋トレ終了後には30分以内にホエイ・プロテインのパウダーを20~30gの計量スプーンで水に溶かして飲み干し、就寝前にも同じことをする。

他人事のように述べたが、筆者自身にもそうした生活を送っていた時期がある。その頃に摂取した大量のたんぱく質のうち、どれだけが効果的であったか、どれだけが無駄であったか、あるいは逆効果であったかを判別することは今になっては難しい。

かなりの出費と手間がかかったことは間違いない。それはともかくとして、通説とされていたセオリーを疑うことなく鵜呑みにして、自分自身の身体がどのように反応するかを観察しなかったことは今でも悔やんでいる。

「自分で体験したことを調べて、使えるものを吸収して、使えないものを切り捨てて、そして自分だけの知識を身につけなさい」とは故ブルース・リーが遺した言葉である。

[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたにごう)
米国カリフォルニア州在住。米国公認ストレングスコンディショニングスペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。
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By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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