スクワット、デッドリフト、そしてベンチプレスは筋トレ種目のビッグ3と呼ばれる。いずれも複数の筋肉群を鍛えることができる複合関節動作であり、バーベルと重量プレートを用いるフリーウェイト種目であることでも共通している。
とくに下半身を鍛えることを目的とする場合はスクワットとデッドリフトの2つさえ行えば、それだけで大臀筋、ハムストリングス、大腿四頭筋、ふくらはぎ、腰、背中など、鍛えられる筋肉群は多岐に渡る。
さらに最近ではヒップスラストという種目が注目を集めている。ベンチなどに肩を乗せて、床に仰向けになり、腰の前にバーベルを乗せて上下させる動作だ。
スクワットとデッドリフトが垂直方向に負荷をかけることに対して、ヒップスラストは腰を水平方向に動かすという特徴があり、とくに臀部や腰回りの筋力強化に向いている。
目次
ヒップスラストを追加することによる筋肥大効果の研究
レッグプレスとデッドリフトだけを行うグループとその2種目にヒップスラストを加えたグループに分け、大臀筋の筋肥大効果を比較した研究(*1)がある。
*1. Addition of the barbell hip thrust is effective for enhancing gluteus maximus hypertrophy in young women.
https://www.researchsquare.com/article/rs-2882506/v1
運動経験の乏しい若い世代の女性33人が被験者に選ばれ、週3回の筋トレをそれぞれのメニューに従い10週間行った。どちらのグループにも筋肥大効果が認められたが、ヒップスラストを加えたグループの向上率は9.3%で、レッグプレスとデッドリフトだけを行ったグループの6%を上回った。
論文著者らは大臀筋の筋肥大効果を最適化するためにヒップスラストの導入を検討するべきだと結論で述べている。
速く走るための筋肉を効率よく鍛えるには
臀部やハムストリングスなど主に体の後ろ側にある筋肉は素早く身体を動かす爆発力の源泉になる。従って、短距離でのスピードやジャンプ力といった瞬間的なパワーを問われるスポーツの選手にとっては、この部分の筋力はパフォーマンスに直結する。
伝統的なスクワットやデッドリフトは、本来なら体の前も後ろも満遍なく鍛えることができる筋トレ種目であるが、動作の難易度が比較的高い。正しいフォームを習得するまでに時間がかかるうえ、効果を得るためにはある程度の柔軟性も必要とされる。
その点、ヒップスラストは筋力が弱い初心者でも安心して行うことができるうえ、実際のスピード向上を短期間で実現できる利点がある。
そうしたヒップスラストの実効性を証明したのが下の研究(*2)である。筋トレの経験があまりない10代の女子サッカー選手たちを対象に、スクワットとヒップスラストのどちらのみを行ってもらい、10mや20mといった超短距離走のタイム向上率を比較したものだ。
*2. Effects of 7-Week Hip Thrust Versus Back Squat Resistance Training on Performance in Adolescent Female Soccer Players.
https://www.mdpi.com/2075-4663/7/4/80
わずかに週2回、7週間の筋トレ期間の後、ヒップスラストを行ったグループの方にスプリント能力、特にスタート時の加速により大きな向上が認められたということだ。
これらの研究結果はスクワットやデッドリフトといった伝統的な筋トレ種目に比較してヒップスラストの優位性を証明するものではないが、導入を検討するに値するエビデンスを提供していることは確かなようだ。
バーベルを用いることに抵抗がある人は、ヒップスラストと同じ動作を自重で行うグルートブリッジから始めてもよいだろう。仰向けに寝ころんで、膝を曲げ、腰を上下させる動作だ。
ヒップスラストにしてもグルートブリッジにしても、フォームを解説した動画はインターネットで簡単に検索できる。ジムなどで経験のあるインストラクターから指導を受けることができれば、そちらがより望ましいことは言うまでもない。
[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたにごう)
米国カリフォルニア州在住。米国公認ストレングスコンディショニングスペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。
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アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。