健康のために日常的な運動の継続が重要であることに、疑問の余地はないだろう。しかし運動する時間を、1日に何回も取れる人はそれほど多くない。例えば仕事や家庭とのバランスを保つために、11回の運動時間を確保することすら困難な人もいる。仮に時間の都合がついたとしても、競技アスリートではない一般人が、1日に何回も運動することは体力的にもハードルが高いはずだ。運動のための時間が限られているとしたら、その効果が一番上がりやすい時間帯はいつなのか。最新の研究結果を取り上げながら、運動に適した時間帯について考えてみよう。

目次

早朝ジョギングやラジオ体操は心身に良い効果をもたらす

健康的なイメージが強いのは早朝に運動することだろう。朝早くに起きるのは大変だが、それを習慣にしてしまえば、自然に夜更かしも深酒もしなくなるものだ。仕事が始まる前なので、時間を確保しやすいというメリットも大きい。体だけではなく気持ちも目覚めて、1日を気分良く始めることができる。運動によって気分が高まることは、多くの人が経験したことがあるのではないだろうか。

早朝に運動することは、ダイエット効果も高いとされている。朝起きたばかりの体は空腹でエネルギーに乏しいので、その状態で運動すると脂肪を燃焼しやすくなり、その結果として体重を落としやすい、あるいはコントロールしやすいという理論である。

運動パフォーマンスがもっとも上がる時間帯は午後47

一方で運動のパフォーマンスに目を向けると、午後に運動する方が効果的であるとする学説が現在では主流のようだ。2012年にストレングス&コンディショニングス調査ジャーナルに発表されたレビュー論文(*1)によると、人間の運動能力が最適化されるのは体温が1日で最も高くなる時間帯であり、多くの人にとってのそれは午後4時から7時頃にあたるという。

*1. The Effect of Training at a Specific Time of Day: A Review

体温が高ければ柔軟性も上がるし、ウォームアップにかける時間も少なくて済む。夜遅くになっていなければ、体にエネルギーもまだ多く残っているだろう。個人が持つパワーや持久力を最大限に発揮する、つまり筋トレで重いモノを挙げたり速くあるいは長く走ったりするためには、午後の遅い時間帯を選ぶ方が望ましいということになる。競技選手であれば量も質も高いトレーニングが可能になるわけで、それが運動能力をより高めることに繋がるのは言うまでもない。

午後の運動は健康改善効果も高い

医学的な見地から運動する時間帯の効果を比較した別の研究(*2)も、午後に運動することを勧めている。

*2. Exercise training elicits superior metabolic effects when performed in the afternoon compared to morning in metabolically compromised humans.

この研究は糖尿病と診断されたか、あるいはその危険があるとされた中高年男性32人を対象とした。そして被験者を午前810時に運動するグループ(12人)と午後36時に運動するグループ(20人)に分け、12週間に渡って同じ内容と強度の運動を課した。すると、午後に運動したグループは早朝に運動したグループに比べて、グルコースレベルや脂肪燃焼効率などさまざまな指標でより高い改善効果が確認されたということだ。

ここで注意するべきなのは、午後グループの方がより改善したというだけで、早朝グループの健康状態が悪化したわけでないこと。どんな時間帯であっても、適切な運動は健康に良い効果をもたらすことには違いはない。

まとめと考察

パフォーマンス面でも健康面でも、どうやら運動に最適な時間帯は早朝ではなく午後の遅い時間帯のようである。実業団や大学に所属するエリートランナーたちは早朝にジョギングし、午後に負荷が高い練習を行うことが多いだろう。これは、理にかなっていると言えそうだ。

一般人でも、もし毎日その時間帯に運動する時間を確保できるのであれば、それが理想的な選択だろう。しかし、日中に仕事している社会人にとって、午後の3時や4時からの運動が難しいことは容易に想像できる。運動は継続しなければ意味はない。たとえ効率が少し悪くなったとしても、もっとも日常的に確保しやすい時間帯が、その人にとって最適の時間帯なのではないだろうか。

筆者はクロスフィットのジムで、早朝5時からのクラスを指導していた時期があった。クロスフィットでは、ときに床に倒れ落ちるほどの激しいトレーニングを行う。およそ早朝にやるようなことではなかったと思うが、仕事が始まる前に運動するにはこの時間しか選択肢がないという理由で、毎日のようにそのクラスに通ってきた会員も少数ながらいた。そして、もちろん彼ら・彼女らにも、しっかりとしたトレーニング効果があったことを強調しておきたい。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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By New Road 編集部

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