健康のために、日々の運動が大切であることは言い尽くされてきた。運動不足は筋力低下をもたらし、さらにさまざまな健康上の問題を引き起こす。しかし、もし何らかの事情で運動がまったくできなくなったとき、筋肉は一体どれほどの量とペースで衰えるのだろうか。そこには怪我や病気のようにやむを得ないケースもあるだろうし、単純に休日をゴロゴロして過ごしてしまうこともあるだろう。

デンマーク・コペンハーゲン大学の研究者らが2015年に発表した研究(*1)が、その疑問に1つの答えを出している。強制的な2週間の非活動期間の結果、若い世代ほど大幅に筋肉が失われることが分かった。その筋肉が減少する量は、4050年分の老化現象と同等だということである。

*1. Six weeks’ aerobic retraining after two weeks’ immobilization restores leg lean mass and aerobic capacity but does not fully rehabilitate leg strenght in young and older men

不活動で失われた筋肉を取り戻すのには3倍以上の時間がかかる

この研究では、17人の若い世代(23歳前後)と15人の高齢者(68歳前後)から構成される被験者が片足のみにパットを着け、2週間まったくその足を動かせない不活動期間を設けた。そして、両足の筋肉量と筋力の変化を比較したのだ。不活動期間が終了した後は、失われた筋肉を取り戻すために固定自転車を用いたリハビリを6週間行った。

実験結果は驚くべきものだった。不活動期間の終了直後、若い世代にも高齢者にもほぼ同じように、不活動だった片足のみに著しい筋力の低下が認められたのだ。若い世代は実験以前と比較してほぼ1/3の筋力を失い、高齢者はその割合が1/4ほどになった。

普通に生活していても、筋肉は加齢によって自然に失われていく。そのため、一般的に若い世代は高齢者に比べて筋肉量が多い。元々の筋肉量が多ければ、失われる量も多くなる。2週間に及ぶ不活動期間の結果、若い世代は平均して485gの筋肉を失い、高齢者はその半分ほどにあたる約250gの筋肉を失った。別の言い方をするならば、若い世代が不活動を原因として筋肉を失うということは、老化現象を自ら加速させているということになるだろう。

2週間の不活動期間後、被験者は固定自転車を用いた週34回のリハビリを6週間行った。それにより、被験者の筋肉量と有酸素運動能力はほぼ実験前の状態に戻ったという。しかし、実際にウェイトを持ち上げる筋トレの数値、つまり筋力は完全には回復しなかった。筋肉量は戻せても、その筋肉を動かす身体的能力を取り戻すには、さらに時間がかかるようである。

座りっぱなしの1日を挽回する運動量とは

前述の研究は、もちろん人工的に作り上げた極端な例だ。病気や怪我などで入院や寝たきりにならない限り、人が普通に生活していれば、2週間まったく体を動かさないということはそうそう起こるものではない。それでも、一日中オフィスワークで座りっぱなしだったり、テレビやパソコンの前で思わず長時間を過ごしてしまったりすることはあるだろう。

座りっぱなしが体に良くない影響を及ぼすことは、多くの人々が知っている。それでも、そんな1日を過ごしてしまったとすれば、それを挽回するためにどれだけの運動が必要になるだろうか。世界保健機関(WHO)が2020年に発表したガイドライン(*2)では、それを13040分の運動だとしている。

*2. World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour. 

ガイドラインで紹介されているメタ解析研究では、9個の既存研究(合計の対象者はある種のフィットネストラッカーを着用した4か国44,370人)を解析した。その結果、3040分ほどの「穏やかなレベルから強度の高い身体的活動」を行えば、10時間の座りっぱなしで失われる筋力を取り戻すことができると述べている。その身体的活動とはどのような運動でも効果はある。例えばイスから時々立ち上がるだけでも、やらないよりはやった方がマシだということだ。

また、特にまとまった運動の時間が取れなくても、日常の身体的動作(歩く、物を持ち上げる、など)を1日に45回ほど意識して行うだけでHIIT(高強度のインターバル・トレーニング)と同等の健康的効果があるとした研究(*3)もある。

*3. “Short and sporadic bouts in the 2018 US physical activity guidelines: is high-intensity incidental physical activity the new HIIT?”. British Journal of Sports Medicine. 

本来であれば、その程度の身体的活動は特に意識しなくても自然に行えるはずだ。もしそうでないとすれば、現代人が便利さを追求してきた代償として失ったものは大きいようだ。しかし、それを取り戻すことはさほど困難なことではない。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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