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メジャーリーガーが無意識に行っている、練習以外で能力を伸ばす上達の秘訣

子どもの頃に養う能力は、その後にも大きな影響を与える。スポーツにおいても同様だが、能力の伸ばし方に頭を悩ませる大人は多いだろう。スポーツにおける能力開発を専門としているパフォーマンスドクターの松尾祐介氏は、現在はプロ野球選手やオリンピック選手などの一流選手を数多くサポートしている。独自の研究から開発したMATSUO method(別名:ROOTS POWER method)は、人間の身体・動き・意識・感覚・思考をさらに上げるメソッドだ。松尾氏は社会人野球選手だった経歴があり、プロ野球選手専門のトレーナーと思わることが多いようだが、実際は幼稚園児から運動が苦手な子どもまでが松尾氏のもとを訪れる。

「人間が持っている本来の能力を発揮できれば、競技特性に捉われない幅広い年齢層やレベル、種目に合わせたサポートができます」

と断言し、トップアスリートから子どもの育成活動にも力を注ぐ松尾氏に、能力を伸ばす秘訣や競技上達のコツを伺った。

怪我が多い現役時代の気づき

私は小学生の頃からプロ野球選手を目指し、社会人野球の選手になりました。現役時代は幾多の怪我に悩まされ、肩の脱臼、関節ねずみ、腱鞘炎、肉離れ、靭帯断裂、膝蓋骨複雑骨折、アキレス腱断裂、ギックリ腰は40回以上も経験しています。

もともと運動神経が良い方で怪我もなかったのですが、高校で練習量が多くなったこと、体重を一気に増やしたことが契機でした。「体を柔らかくすれば怪我が減る」と柔軟性を高めところ、さらに怪我が多くなったんです。これが、自分にとってのターニングポイントでしたね。一方、柔軟性があっても怪我をしない選手もいます。「一体、この差は何なのか」と考え抜き、一流選手たちの動きを研究して開発したのが「MATSUO method」です。

小さい頃から、野生動物や自然界の映像が大好きでした。「あんな風にカッコ良く動くには、どうすればいいのか?」と、当時VHSで倉庫半分が埋まるくらいの映像を見ていたものです。それが、今のトレーニングにも繋がっています。

例えば、大木の年輪は中心から作られていきます。しかし、当時していた筋肉トレーニングは外からのアプローチでした。自然の法則に反すれば怪我の要因になると、今なら考えることができます。解剖学や学術的視点の発達で細部ばかりを見ていると見落としてしまう部分があり、全体を見る広い視点と深い意識が大切です。

遊びや何気ない動作が競技力に繋がっていく

野球が上手くなりたいとき、多くの人は「投げる」「打つ」の練習にたくさん取り組もうと考えます。縄跳びなら縄跳びの練習、跳び箱なら跳び箱の練習を行うでしょう。

先日、元メジャーリーガーと一緒になったのですが、常にボールを触わって手を動かし、いすに寄りかかってバランス感覚を養ったりしているのです。そういう、何気なく行っている動作がスポーツに活きているのです。

日常の中から上達のポイントを探すのが上手い。他にも子どもの頃、自宅で的を作って紙くずの球を当てる遊びをしていた選手もいます。これらは“努力”ではありません。一般の人には練習であることが、彼らには練習じゃない。誰に言われたわけでもなく、ただやっていることなんです。一流選手は「当たり前」の質が高い。練習も大切ですが、実はそれ以外がとても大切です。自分と向き合って、いつでもどこでもトレーニングできれば、他にも色んなことができるようになります。

そもそも、競技特性があるから競技に合わせたトレーニングが必要というのは、凝り固まった考え方です。自分の体を使って力を発揮できるようにインプットすると、どんな競技でもできるようになります。子どもたちには遊びの中から、たくさんヒントを見つけてほしいですね。

最近、「自分にこれはできない」という常識を持つ子どもがいます。よく聞くと親御さんや周囲が「できない」と決めつけていたり、周りと比較していたり。さらに大人たちが「心を強くしよう」とメンタル強化に取り組むのも、私は子どもらしさを失わせてしまうと考えています。

一方で、大人の言うことを真面目に聞く人が伸びないのも実にもったいないと思っています。なぜなら、良い方向へ真面目に取り組めば伸びるはずですから。子どもたちがもっとスポーツを好きになり、悩んだときに大人に相談できる環境を作れたら、さらに良い循環が生まれるのではないでしょうか。

スポーツ以外にも活きる「自分自身を変えられる」能力

トレーニングを通じて変わった子ども、選手をたくさん目の当たりにしてきました。ある男の子が小学校3年生のとき、親に連れられて来たことがあります。兄弟同じチームで野球をしていて、「できが悪い」と父親に連れられていた兄はうつむいたまま。しかしその1時間後、レッスンを終えて彼の口から出た言葉は「野球楽しい!またやりたい」でした。6年生ではキャプテンを務めるまでになり、高校生になった今でも野球を続けています。

彼らの中で何かが変わると、まず目が一瞬にして変わります。しかし、彼のように一番上の子は、よく「お兄ちゃんだから」と本音を出せないケースも見られます。しかし子どもたちに触れていると、誰もがとてもエネルギッシュで、すごい力を持っているのだと毎回学ぶことばかりです。

他にも「運動神経が悪くてチームに迷惑をかけている」と私のもとを訪れる子が少なくありません。しかし私のところでトレーニングをするうちに、本人のキャラクターが変わっていくのです。すると、周りの認識も変わります。指導者から「肩が弱い」と言われていた子が、3カ月後に「お前、肩が強いもんな」と言われたことも。指導者は見ているようで、実際には見えていない部分もあります。しかし、大人が一緒になって文句を言うのではなく、そんな指導者の言葉もフィルターをかけて、むしろ吸収していける能力を身につけてほしいのです。

良し悪しではなく、その言葉から「自分は今このような状況なのかな」と周りの意見を取り入れられると、上手にコミュニケーションが取れるようになります。物事の受け止め方を柔軟に変えられる選手は、そのスキルはスポーツ以外でも活かせます。

常識にとらわれずチャレンジする心を守ること

スポーツの能力は、情報や意識だけで容易に変わります。スポーツは体感しやすくて分かりやすく、人生にも大いに役立つ。だからこそ、スポーツで悩む子どもを減らしたいと思っています。

大人の方に伝えたいのは、「子どもたちの自信を守ってください」ということ。常識と違うことでも正解不正解ではなく、子どもが見つけたものを「これやっていいんだ」「これできるかな」と思えるように。何でも褒めるのとも、安全な環境を与えてチャレンジさせるのとも違います。大人は、つい気づかぬうちに常識で決めつけてしまう部分があるでしょう。しかし大切なのは、子どもの自信や挑戦する心を守ってあげることです。

「できるか、できないか」「失敗するか、しないか」ではなく、大人も挑戦する姿勢を見せること。その環境で育った子どもや選手、大人が集結したら、やがてスポーツ界に変革を起こせる動きが生まれるのではないでしょうか。次の世代がより良いものを作っていけるよう、見極める力をつけながら未来に本物を残していきたいですね。

「やりたい」に寄り添い、子どもの能力を育てられる大人に

先日、千葉県で子どもたちを対象とした『野球上達の秘訣イベント』が開催された。現役プロ野球選手と松尾氏が「野球の練習ではない野球上達のメソッド」を一緒に考え、実践するというものだ。最初は様子を伺っていた子どもたちだったが、最後には松尾氏や選手の近くを囲むように前のめりになる姿も。そのイベントで、松尾氏は最後に次のような言葉を子どもたちに贈った。

「あなたたちは宝物だらけです。だから、一つ目指してほしいことがあります。みんなは、この地球に生まれてきたヒーローなんです。人と比べて落ち込んだりすることがあるかもしれない。そんなときに自分がヒーローだったらどうするか、ぜひヒーローになったつもりで色んなことを選びながら、練習や学校で過ごしてみてください。そして将来、みんながヒーローになったときにまた会いましょう」

人間はいつからでも変われるし、その素質は誰でも持っている。子ども一人一人に目を配る松尾氏のメッセージに、子どもたちもまっすぐ前を向いていた。練習以外に上達の秘訣があることは、子どもではなく私たち大人こそ見落としがちな視点なのだろう。

松尾 祐介(まつお ゆうすけ)

株式会社Aim High 代表取締役、千葉県出身。大学卒業後はJFE東日本・社会人野球部に所属。その後、神戸市の高校で指導者人生をスタートする。2009年、神戸市に心技体追求型ジム「Roots Fantasista」(旧・WINNING BALL)を設立。野球以外のジャンルでも、オリンピック選手やプロを多数輩出している。現在はパフォーマンス開拓者として確立させた『Matsuo method®︎』によって、子どもやアスリートのほかにビジネスマン、アーティスト、さらに高齢者や障害者にも指導。

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[著者プロフィール]

たかはし 藍(たかはし あい)
元初代シュートボクシング日本女子フライ級王者。出版社で漫画や実用書、健康書などさまざまな編集経験を持つ。スポーツ関連の記事執筆やアスリートに適した食事・ライフスタイルの指導、講演、一般向けの格闘技レッスン等の活動も行う。逆境を乗り越えようとする者の姿にめっぽう弱い。
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