運動が心身の健康のために良い効果をもたらすことは、疑うまでもないだろう。そしてその運動とは、一般的にウォーキングや軽いジョギングなど穏やかなものをイメージすることが多い。激し過ぎる運動は、かえって身体や健康に悪い影響があるように思われがちだ。

医学的にも、激しい運動を行うことで体内に活性酸素が発生することは分かっている。活性酸素は身体の細胞を酸化させる、いわゆる酸化ストレスを生み出し、酸化ストレスは病気や老化の原因の1つになると言われるもの。その因果関係を根拠として、激しい運動を健康面から否定する専門家や論者も少なくない。しかしその一般概念が、もしかしたら覆されるかもしれない。ここで、ある研究結果をご紹介しよう。

全米40万人以上の成人を対象にした大規模調査

「激しい運動は身体に悪い」という一般概念を、あるいは覆すかもしれない研究 (*1) が202011月『米国医師会雑誌』(The Journal of the American Medical Association、略称:JAMA)に発表された。

*1. Association of Physical Activity Intensity With Mortality 

これは1997年から2003年までの間、全米40万人以上の成人男女(平均年齢42.4歳、男女比はほぼ同数)から集められたアンケートを対象にして、自己申告による身体活動に関するデータを集計・解析したものだ。それによれば、週に平均して150分間以上の激しい運動を行う人は、心臓や血管に慢性疾患を患う可能性や早期死亡率が低くなるという結論が述べられている。

研究では運動時間の中で激しい身体動作を行う割合が多い人ほど、あらゆる死因による早期死亡率が低くなる傾向があることを指摘している。つまり激しい運動をする人は、そうでない人より長生きをする可能性が高いということだ。さらに研究では、「1週間に150分間の激しい運動」が健康に最大の効果をもたらす程度であると結論で述べている。

どこまでが穏やかな運動で、どこからが激しい運動なのか

論文著者らも認めていることだが、この研究の限界の1つがデータを自己申告による回答に依存していることである。そのため、「激しい運動」というものの定義が曖昧になってしまっていることは否めない。一応、研究では「最低10分間以上の大量の発汗、あるいは心拍数の大幅な増加を伴う」ものを激しい運動(vigorous physical activity)としているが、その分類の妥当性は無論のこと、回答の信頼性にも疑問は残る。例えば自分がその分類に属する運動を週に何分ほど行っているか、正確に答えられる人はどれだけいるだろうか。

その分類法を用いないとしても、どこまでが「穏やかな運動」で、どこからが「激しい運動」なのかを明確に区別することは容易ではない。なぜなら体格や生活習慣、そしてトレーニング歴には大きな個人差が存在するからだ。同じ強度や長さの運動であっても、ある人にとっては低負荷で、ある人にとっては高負荷であるかもしれない。人によってウォームアップに過ぎない運動も、ある人にはきつ過ぎるなんていうこともある。従って、こうした大規模調査に適した汎用的な「激しい運動」のラインを定めることは、厳密には不可能ではないだろうか。

それでもあえて、ある程度の誤差があることを前提に話を進めるとすれば、短い時間で呼吸がゼーゼー荒くなるような強度の高い運動をすることに、心肺能力と筋力を高めるスポーツ面で効果があることはさまざまな研究で明らかだ。少なくとも、そのような「激しい」運動が健康に悪影響を及ぼす懸念(あるいは言い訳)から、運動強度を下げる必要はないとだけは言って良いのではないだろうか。

もちろんウォーキングやゆっくりとしたジョギングなど、穏やかな有酸素運動に健康効果があることを否定するものではない。あるいは現在そうした運動を行っている人が、そのすべての時間をインターバル走やHIITなどに置き換えるべきだと主張しているわけでもない。ただ、それに加えて例えばペースを上げて走る時間の割合を増やしたり、別で週数回ジムで筋トレを行ったりという取り組みが、試してみる価値があるのではないだろうか。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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