どれだけ運動すれば痩せることができるか。そう疑問に感じる方は多いだろう。しかし、その答えを出すのは容易ではない。なぜなら体重とは運動で消費するエネルギーだけでは決まらず、食事で摂取するエネルギーとのバランス関係によって変動するものだからである。消費エネルギーが摂取エネルギーより多ければ痩せる、その逆だと太る。簡単に言えば、そういうことだ。

それでは、食べる量を変えずに運動だけで痩せるには、どれだけの時間が必要になるか。この疑問について、スポーツ医学サイト『Medicine & Science in Sports & Exercise202011月号に発表されたある研究(*1)が1つの見解を掲示した。「週に300分の運動」が、その答えである。

*1. Exercise for Weight Loss: Further Evaluating Energy Compensation with Exercise.

目次

2回×90分の運動と週6回×50分の運動のダイエット効果を比較

ケンタッキー大学の研究者たちが行った12週間の調査に被験者として参加したのは「肥満ぎみ」か「軽度の肥満」(BMI 2535)で、運動習慣があまりない年齢19 40歳の成人男女(44人中32人が女性)である。被験者たちは、以下3つのグループに分けられた。 

  • 4060分の運動を週に6回行うグループ(A
  • 90分の運動を週に2回行うグループ(B
  • 運動不足の日常を維持するグループ(C

3グループの平均年齢とBMIは、なるべく似たような数値になるよう配分された。そして被験者たち全員は調査期間中、指示された運動をする以外には、普段通りの食生活を送ることを求められた。つまり被験者たちは、調査前と同じ程度のエネルギーを調査期間中も摂取したのである。

解析データを提供するための運動には、トレッドミルを使ったジョグが使われた。運動の強度をコントロールして消費エネルギーを正確に把握するため、被験者は心拍数モニターを装着して研究者に運動中の心拍数ゾーンを細かく指定された。

そして、12週間の調査期間終了後。運動を行った2つのグループは、どちらも平均して体重が少しだけ減っただけに留まった(A: −1.04kg ± 0.45, B: −0.76kg ± 0.60)。しかし体脂肪率は、週6回グループの方により顕著な減少(A: −7.70% ± 2.04, B: −1.86% ± 1.27)が見られたという。

「運動しているのに痩せない」のワケ

研究者は興味深い事実を発見した。それは、運動を行うグループはどちらも運動後に食欲を促すホルモン分泌が活発になり、結果として普段より多くの量の食事を摂ることが多かったことだ。被験者たちは、調査前からの食生活を意識して変えないように指示されていたため、空腹になると自然に食事の量が増えてしまった。しかし、週6回×50分の運動にはその増量した摂取エネルギー以上のダイエット効果があり、週2回×90分の運動では足りないということのようである。

研究者たちは被験者の運動中における心拍数の変化から、消費カロリーを計算した。すると週6回×50分グループは平均して週2,750カロリー、週2回×90分グループは平均して週に1,500カロリーを、それぞれの運動によって消化していたことが分かった。どちらのグループも運動後に食欲の増進が見られ、その量は週6回×50分の方がやや多かったとのこと。しかし、それでも運動による消費エネルギー量の多さがその差を埋め、体重減と体脂肪率の減少に繋がったようである。

まとめと考察

恐らく多くの方が経験していることと思うが、運動するとお腹が空き、思わず普段より食べ過ぎてしまう。結果として、運動で消費した以上のエネルギーを食事で摂取してしまい、体重はかえって増えてしまうというパターンに陥るケースは少なくない。例えば走った後の生ビールを楽しみにしているランナーも、その一例に挙げられるだろう。

研究結果から結論付ければ、食事を変えず運動だけで痩せるには週6回x50分の運動が必要だ。週2回×90分程度では、運動の効果は食欲の増進によってほぼ相殺されてしまう。しかし、例えば仕事や家庭を持つ一般社会人が実際に週6回×50分、あるいは週300分といった時間を捻出することは決して容易ではない。中には、週2回×90分でも大変と言う人だっているだろう。仮に時間を取れたとしても、ほぼ毎日の運動を継続することは口で言うほど簡単ではない。体重は減っても身体的及び心理的なストレスが増えるようでは、かえって体に悪いかもしれない。

とはいえ、せっかく運動したのにダイエット効果が台無しになってしまうような事態はできるなら避けたいところ。思う存分食べても太らないだけの運動量を確保できない人は、やはり食事の質と量に気をつけるしか、今のところ体重をコントロールしていく方法はないようである。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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By New Road 編集部

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