2021914日、腸内細菌研究に取り組むAuB株式会社と株式会社メタジェンとが、商品開発に向けた共同研究の開始を発表した。両者は腸内細菌と深部体温(腸の温度)に着目し、“腸を温める”ことの効果に関する研究に取り組む。そして腸を温め、睡眠改善などに繋がる製品開発を目指すという。

両社による記者発表では、一般生活者からアスリートまでを含むコンディション改善において、腸内環境がとても重要であることが述べられた。昨今はよく「腸活」という言葉が聞かれるが、興味関心のある方は多いことだろう。私自身も「これは実践してみよう」と感じるエッセンスが豊富に盛り込まれた発表内容を、ここで詳しくご紹介する。

目次

世界的に関心が高まっている腸内細菌

AuB(株)取締役 兼 研究統括責任者 冨士川 凛太郎(ふじかわ りんたろう) 氏

昨今は、よく「腸活」という言葉が聞かれるようになった。しかし、中には腸内細菌そのものに親しみのない人も多いだろう。AuBの研究統括責任者である冨士川 凛太郎氏によれば、腸内には約40100兆個もの細菌がいるという。さらに、その種類は約1000種類だというから驚きだ。しかし細菌の数や量、種類などは人それぞれ異なる。この違いには、例えば幼少期の環境やその後の食生活などが大きく関わるのだという。

なお、ベースとなる腸内フローラは35歳までに決定するとのこと。このことは、知らなかった方が多いかもしれない。私も小さな子を持つ親だが、子どもたちの腸内環境が気になってしまった。ちなみに、腸内フローラは腸内の壁に細菌が張り付く様子がお花畑(flora)のように見えることから名づけられた言葉で、正式には「腸内細菌叢」と呼ばれる。

腸内細菌については、世界的に見ても関心が高まっているという。その裏付けとして、冨士川士は腸内細菌に関する論文数の数を挙げた。論文の発表はつまり発見があったことを意味し、この論文数が年々増加している。中には腸内細菌が筋肉やアレルギー、認知症、あるいは持久力に影響するというものもあり、これだけで関心を持つ方は多いかもしれない。

トップアスリートと一般生活者における腸内環境の違い

AuB(株) 代表取締役 鈴木啓太(すずき けいた) 氏

AuBの代表取締役・鈴木 啓太氏は、これまで取り組んできた研究結果などについて説明した。これによるとトップアスリートは一般生活者と比べ、優れた腸内環境を有しているとのこと。特にトップアスリートは腸内環境の多様性が高く、これは健康指標の一つとも言われる。さらに免疫機能を調整する酪酸菌の数を比較してみると、一般生活者の2倍以上を保有しているという結果が出ているという。

しかし一方、トップアスリートが日々抱えている課題と、一般生活者がコンディションに関して感じている課題とには類似する点も多い。このことからAuB社ではトップアスリートの研究が、一般生活者のコンディション課題を解決するのに役立つと考えているのだ。

トップアスリートの課題

一般生活者のコンディション課題

体重コントロール

痩せたい、太りたい

疲労・怪我回復

疲れを取りたい

メンタルコントロール

ストレスを緩和したい

選手寿命の延長

健康に長生きしたい

現在、AuB社はアプリメント「AuB BASE」とプロテイン「AuB MAKE」を開発・販売している。これは研究成果をフードテックに還元したいという思いから生まれた商品で、トップアスリートに見られる特徴的な腸内細菌のパターンから約30種類の菌が配合されている。 

こうした腸内環境の違いは、自分に合った食品やサプリメント、あるいは医薬品などの選択にも関わるようだ。メタジェンの代表取締役社長CEO・福田真嗣氏は、たとえ一卵性双生児だとしても腸内環境のタイプは異なり、これに合わせた食品やサプリメント、医薬品があるという。このことについて、福田氏は抗がん剤のオプチーボを例に挙げた。オプチーボは23割には効くとされるが、これは逆に78割には効かないということ。その理由については、腸内細菌が異なるからだということが分かってきたのだという。医薬品の効果にまで影響するとなれば、少なくとも健康に関心のある方にとって無視できない話題ではないだろうか。

“温め”の効果を検証し、商品開発へ繋げるための共同研究

AuBとメタジェンは、いずれも腸内細菌に関するベンチャー企業だ。AuBはアスリートの課題解決経験をベースに腸活ソリューションを開発し、一般生活者がベストコンディションになるための研究開発を実施。これに対してメタジェンは、腸内細菌やその代謝物質(腸内細菌が作り出す物質)について網羅的に解析している。2社は20211月から共同研究契約を結んで活動を開始したが、まさに相互の強みを生かした取り組みと言えるだろう。

なお、そんな両社の代表である鈴木氏と福田氏には、1つの共通点があったという。それは二人とも、お腹の調子が悪いときの対処法が「お腹を温める」ことだということ。鈴木氏はお灸でお腹を温め、福田氏は食物繊維を摂りながらお腹を温める。

一般的に腸活と言えば、食事や運動、睡眠などが挙げられる。この「温める」という行為も、同じく腸活の一つとして行っている方は多いかもしれない。しかし実際のところ、これが効果的であるか否か、そして何に良いのかは科学的に検証されていない。だからこそAuBとメタジェンとは、この効果を科学的に検証すべく共同研究を開始したのだ。そして最終的に、その効果を得られる商品開発まで至ろうというのが今回の目標である。 

実験結果から着目した深部体温と腸内細菌

右:(株)メタジェン 代表取締役社長CEO 福田真嗣(ふくだ しんじ)氏

福田氏は“温める”ことに着目したキッカケに、アメリカの動物実験結果を挙げた。この実験では、大腸炎や腸管感染症のモデルマウスを22度と30度という2つの温度環境で飼育した。すると外部気温の低い環境の方が、症状が重篤になりやすいという結果が出たのだ。さらに他の実験では、マウスに食物繊維を摂取させた。その結果、食物繊維を摂取すると腸内で発酵が起こり、これによって作られる短鎖脂肪酸の働きで深部体温(腸の温度)が上がったという。

なお、腸内細菌は睡眠の質にも影響を与えるという。抗生物質を使って腸内細菌を除去したところ、睡眠の質が低下したという実験結果があるのだ。睡眠は試合後のリカバリーを含めた疲労回復に影響するほか、蓄積すれば怪我にも繋がりやすい。アスリートにとって、高い睡眠の質を維持することは非常に重要なことなのだ。

睡眠については、日頃から気を付けている方が多いかもしれない。多くの方は深夜から早朝にかけて、深い眠りにつきやすいのではないだろうか。この理由は、この時間帯になると体温が下がるから。さらに深部体温は就寝中に急激な低下を見せ、この落差が大きいほど良い睡眠になるのだという。お風呂に入ると良く眠れるというが、これは入浴によって深部体温が上がり、これが時間の経過と共に下がっていくことで眠りやすくなるのだ。

こうしたことから、AuBとメタジェンは深部体温と腸内環境について調べて科学的根拠に基づく製品開発へと取り組む。時期は未定だが一般生活者とアスリートの計100名程度をモニターに、お腹を温める効果に関する効果検証も行われる。便通改善や睡眠の質向上、腸活サプリメントの効果増大などが見込まれているが、実際のところどのような結果が出るのか楽しみだ。なお、現時点で開発する製品はインナーウェアを想定しているようだ。AuBが菌の割合やコンディション(便通がどう変わるか など)に関わるデータ、および便の一部収集を、メタジェンがデータと便の解析を担う。 

腸内環境を整えることで得られる効果

腸活とは食事や飲み物、ツボ、運動などにより腸内環境を整えること。実際には食事など、より直接的な方法に取り組む人が多い。では、なぜ腸のケアが良いのか。腸活によって何がどう変わるのかは、具体的に説明できないことが多いだろう。腸内細菌は、それぞれ目的に応じて異なる役割を担う。腸内細菌の多様性が高ければ、それだけ多くの働きが得られるということだ。具体的に腸を整えると、次のような効果が得られるという。

  • 集中力が高まる
  • 免疫力が高まる
  • 体力が向上して疲れにくくなる
  • 花粉症状が緩和される
  • ストレス緩和に寄与する
  • 睡眠の質が高まる
  • 気分が安定する
  • お肌の状態が安定する
  • セロトニン放出に寄与する(精神安定 等)
  • エネルギー吸収効率が上がる

この他にも、今もなお腸を整えることのメリットが分かってきている。ざっと見る限りでも、自分にとって嬉しい効果が1つはあるのではないだろうか。特に新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、免疫力は注目しておきたいところだ。

さらに福田氏は、駅伝選手と同じ年齢の普通の方とで腸内細菌を調べた際の結果を取り上げた。これによると、腸内フローラの多様性は駅伝選手の方が高かったとのこと。特にBacteroides uniformis(以下、バクテロイデス)という腸内細菌の割合が、3000mの走行タイムと逆相関することが分かったという。私は子どもが3000m走の選手なので、ついこの話に聞き入ってしまった。この腸内細菌を増やすような食品を食べれば、持久力の向上が期待できるというのである。

さらに運動後の疲労軽減にも効果的だというが、鍵になるのが「短鎖脂肪酸」だ。バクテロイデスが腸内で短鎖脂肪酸を産生し、これが持久力向上や疲労回復に繋がる。疲労回復についてはアスリートだけでなく、一般にも関心を持つ方が多いのではないだろうか。なお、バクテロイデスを増やすには、バクテロイデスの好むαシクロデキストリンを摂取するのが良いとのこと。バクテロイデスがαシクロデキストリンを食べることで、短鎖脂肪酸が作られるという。

まずは自分の腸内環境を知ることから

腸内環境を整えようとするなら、まずは自分の腸内環境を知ることが重要。そのために、まずはお腹を触ってみよう。それだけでも、日々変化があることが分かるという。例えばいつもより冷えていたら、「何かコンディションが悪くなることしたかな?」と考えてみること。実験室における腸内細菌の培養は、37度程度の環境で行うという。これと同様に、腸も37度程度が好ましいと思われるとのことだ。この他にも、以下のようなことから腸の状態が分かるのでチェックしてみよう。

良い腸の特徴

悪い腸の特徴

お腹あたりが温かい、やわらかい

お腹あたりが冷たい、かたい

すっきりとウンチが出る

便秘や下痢など便通が悪い

たくさんの種類の菌を飼っている(多様性が高い)

おならやウンチが臭い

バランスの良い食事を心掛けている

飼っている菌の種類が少ない(多様性が低い)

 

外食が多い、あまり水分を取らない

 

座りっぱなしのことが多い(デスクワークなど)

 

姿勢が悪い

そして腸の状態を知るのには、便を観察するのが良いという。なんと福田さんは、ご自身のお子さんの便のサンプルを1000以上も採取しているとのこと。基本的に形状は「バナナシェイプ」、そして黄褐色の便が良いのだとか。硬かったり柔らか過ぎたりする場合は、腸内環境が悪いのかもしれない。そうした際は一つの指標として、「どんなものを食べたのか」などを振り返ってみよう。 

腸内環境を整えるための方法に「食事」「体温」「運動」「睡眠」が挙げられる。この中で、もっともインパクトが大きいのは食事だ。では、どのような点に気を付ければ良いのか。この点については、以下2点が挙げられた。

  • 水溶性食物繊維やオリゴ糖など、菌のエサになる食材を摂取する
  • 発酵食品類やサプリメントから直接菌を取り込む

副菜をあまりとらない人は、まず1品増やすこと。また、例えばヨーグルトなら複数種類を食べた方が良いのではないかという話もあった。これは、ヨーグルトの種類によって含まれる菌が異なるためだ。また、腸内細菌にとって食物繊維が良いといっても、食物繊維の中でさらに腸内細菌ごとに好き嫌いがあるという。そのため、色んな種類の食物繊維を摂取することが大切だ。つまり、食の多様性が腸内細菌の多様性に繋がるのだという。鈴木氏によればAuBの開発・販売するサプリメント「AuB BASE」はこの多様性を意識しており、約30種類の菌が入っている。

鈴木氏・福田氏・冨士川氏は、それぞれ自身の食事メニューを公開。3名とも、それぞれ以下のような点に気を付けていると話した。 

<鈴木氏>

毎朝コップ一杯の水を飲んで腸を目覚めさせている。ヨーグルトは複数種類を購入してローテーションし、食品数を多く食べられるよう小鉢の数を増やす。また、温かい味噌汁やスープを加え、食べ物でもお腹を温めるように意識している。

腸内細菌の中でも好き嫌いがある(腸内細菌ごとに適したエサがある)ため、たくさんの種類を食べなければいけないと考えている。たんぱく質だけを摂るより、他栄養素も取った方が筋肉もつきやすいという研究結果もある。自身の現役時代を振り返っても、「色んなものを食べた」ことが実のところ競技にも繋がっていたのかもしれない。

<福田氏>

食物繊維は種類と量の両方が大切。穀物は量が取れるので、パンならライ麦パン、ご飯なら大麦や五穀米などを好んで食べる。また、他にもキノコや豆類、海藻類なども積極的に食べている。「そもそも人間は、なぜ食べ物を食べるのか?」という疑問があり、これはもちろん生きるために栄養素が必要だから。しかし、これは腸内細菌たちの栄養素でもある。仮説として、もしかしたら食事を腸内細菌に食事をコントロールされているから、こういう食事が好きなのかもしれない。

<冨士川氏>

研究に携わるようになって苦しかったのが、BBQが好きだけれど腸内環境に良くないということ。「どうにか、腸に良いBBQができないか?」と考えた結果、アボカドやヨーグルトのソースを作ったり、野菜や雑穀トルティーヤで巻いたり、食物繊維の豊富な副菜を一緒に食べるようにしている。3ヶ月で10kg痩せたが、これは腸内環境が変わったからかもしれない。実感として、食の好みも変わってきた気がしている。

AuB×メタジェンの共同研究、その結果に注目!

食事内容やお腹の温度、便の状態など、日常生活からでも得られる情報がある。腸内環境を良い状態に保つには、まず自分自身の状態を知ることが大切なのだろう。そのうえで、食事では不足しているもの、自分に合ったものを選ぶ。一般生活者の健康維持はもちろん、アスリートのパフォーマンスにも非常に重要なことだと言えそうだ。

私自身、現在は日頃から食物繊維は積極的に摂取しているし、サプリメントも活用している。しかし競技者として活動していた頃、特に大学生時代は一人暮らしだったこともあり、食事内容はとても乱れていたことを思い出した。腸内細菌の多様性、そして短鎖脂肪酸の重要性などについて理解があれば、競技結果も多少なり違っていたのかもしれない。

よく冬場などに「お腹を冷やすな」と言われるが、単純に身体が冷えて風邪を引くからという意味合いに捉えていた。しかし、これが腸内環境を整えること、そして結果的には睡眠改善などにも繋がるとなれば、興味の湧いた方は多いのではないだろうか。AuBとメタジェンとの共同研究により、果たしてどのような新しい事実が解き明かされるのか。そして、その科学的根拠にもとづき、どのような製品が誕生するのか。今後の活動に注目したい。

・参考:プレスリリース資料(Aub株式会社) 

AuB株式会社>
元サッカー日本代表の鈴木啓太氏が2015年、「すべての人を、ベストコンディションに。」をミッションに設立。33競技・750名以上のトップアスリートから1700以上にも及ぶ検体を集め、腸内細菌に関わる研究を実施。このデータもとにしたコンディショニングサポートやサプリメント等の開発・販売などを手掛ける。
https://aub.co.jp/

<株式会社メタジェン>
「最先端科学で病気ゼロを実現する」をビジョンに2015年設立。“便”の解析による腸内細菌叢の機能解明を実施。次世代のヘルスケアを切り拓く、腸内環境情報に基づく研究開発を行っている。
https://metagen.co.jp/

[著者プロフィール]

三河 賢文(みかわ まさふみ)
New Road編集長。“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
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By New Road 編集部

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