2023年9月30日、宮城県で「第4回仙女ウルトラマラニック」が開催された。同大会は仙台市から女川町まで、東日本大震災で大きな被害を受けた沿岸部をメインに走るもの。距離は約84kmで、松島から女川まで約41kmのハーフ部門も設けられている。New Roadでは昨年の第大会も取材させて頂いた。しかし、今回は大会開始から始めてコースの一部を変更。どのように変わったのか、実際の様子をご紹介しよう。

参考:震災復興の今を巡る。宮城県で開催された「第3回 仙女ウルトラマラニック」

目次

仙台から七ヶ浜、そして松島へ

周囲がまだ暗闇の中でスタートしたが、ほどなくして朝を迎えた。天候は曇りで、走るには良い気候。本大会はリピーターが多いこともあり、単独というより知り合い同士で一緒に走る人たちが多かったようだ。マラニックとは「マラソン」と「ピクニック」が合わさった造語。まさに、ピクニックのように仲間と楽しめる大会である。

仙台から多賀城を抜けて七ヶ浜へ。この付近からは、東日本大震災で津波による被害を受けたエリアが出始める。ふと周囲を見渡すと津波の到達点を示す看板がところどころに設けられており、当時を振り返りながら写真を撮影するランナーは多かった。走ることを通じて震災を忘れない、そして復興の今を見ることは、本大会の重要なコンセプトだ。

走っていると、さまざまな絶景ポイントにも出会える。七ヶ浜にあるチェックポイントの「多聞山」は、松島四大観に数えられる高台の展望スポット。これから、目の前に見える松島へと向かっていく。晴れていればもっと素晴らしい景色だったとは思うが、それでも「さすが日本三景と呼ばれる松島。高台までは急な階段を登らなければいけないが、登った甲斐があるというものだ。

そして、中間地点となる松島へ。観光客も多く訪れる場所だが、ランナーたちも観光気分で楽しんでいる。ちょうど到着したのは昼頃。賑わう松島を目にしながら、後半戦へと進んでいく。

新コースの野蒜駅&石巻南浜津波復興公園

松島からは、2023年に大会終了が発表された「松島ハーフマラソン」と同じコースを走る。同大会をはしったことのある方にとっては、懐かしさがあったことだろう。細かくアップダウンがあるため、後半の疲れた身体にはなかなかキツさがある。

そして到着したのが、旧野蒜駅。こちらは東日本大震災で津波を受け、使われなくなった駅がそのまま残っている場所だ。近くには資料館があり、当時の映像をスタッフの方に説明を受けながら見ることができた。マラソン大会中ではあるが、皆さん身体を休めつつ映像に見入っている。何度見ても衝撃的であり、そのたび「忘れてはいけない」と胸に刻む。

昨年までは、ここから近くにある成瀬川沿いを走って石巻方面へと向かっていた。しかし、ここで初めて変更された新しい場所に向かっていく。それが、旧野蒜駅より500mほど離れ、高い位置に設けられた現在の野蒜駅である。

新しい野蒜駅付近からは、先ほどまでいた旧野蒜駅付近を見下ろすことができる。震災を経て、この位置ならば津波の被害が及ばないと考えられて建てられた場所だ。近隣には新しい住宅がたくさんあり、駅同様に住民もまた高い位置へと移り住んだことが分かる。つまり震災当日は、この辺まで大勢が逃げてきたのだろう。資料館で見た映像ともリンクする部分があり、駅を見ながら色んなことを考えさせられた。

いよいよ終盤となる石巻へ。昨年までは石ノ森漫画館がチェックポイントだったが、道が変わるなどしてコース設定が難しくなったこともあり、今年は石巻南浜津波復興記念公園に変更された。ただ、ちょうど雨が降り始めたため、公園内ではなく近くの屋根のある場所にチェックポイントが移動。公園には入らず走ることになったので残念に思っていると、近くに「石巻市震災遺構 門脇小学校」があることを発見した。

この近辺もまた、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた場所。旧野蒜駅と同様、門脇小学校も当時のままの姿で残され、なんと中を見られるようになっていた。時間には余裕があったので、一緒に走っていた方と「せっかくだから急ぎで見ましょう」と中へ。

学校そのものが当時のまま残してあるだけでなく、被害を物語る展示も数多く設けられていた。本当は10分ほどで出ようと思っていたのだが、まったく足りず20分以上も留まることに。しかし、改めて見て良かったと思う。その感想は言葉では語り尽くせないが、ぜひ来年以降も本大会に出場した際には足を運びたいし、多くの方々に見てもらいたい。

最後はだいぶ雨が強くなってしまったが、なんとか制限時間までにゴールの女川町へたどり着くことができた。私は第1回から、ずっと本大会を走っている。当時は毎年のように新しい道ができたり店が建ったりと、変わり続ける景色に驚いていた。しかし、恐らく目に見える大きな変化はもうなく、ようやく復興工事等は多くが終得られたのだと思う。

レース後は女川駅併設の温泉「ゆぽっぽ」で汗を流し、全員が集まって抽選会。そして、各々が夜の女川へと消えていった。きっと美味しいお酒と食事を味わいながら、大会の思い出を語り合ったことだろう。

美味い!がたくさんのエイド食

コースや景色についてご紹介したが、本大会の特徴はそれだけではない。コース上に4つ設けられたチェックポイントでは、参加者が「美味い!」と驚くさまざまなグルメが用意されていた。最後に、その一部をご紹介しよう。

宮城県といえば“笹かまぼこ”を思い浮かべる方は多いはず。なんと、こちらの大会では1人1枚の笹かまぼこが提供されていた。ちなみに、ゴールである女川町の老舗蒲鉾屋である髙政の商品だ。

同じかまぼこ製品の中でも、個人的におすすめなのが「ぷちあげ」。一口サイズで食べやすく、色んな種類がある。笹かまぼことは、また違った食感も楽しい。

蒲鉾本舗 髙政ホームページ

今回は練り物が多め。こちらは松島で提供された「かきかまぼこ」だ。もちろん1人1個。かまぼこの上に、贅沢にも牡蠣が乗せられている。見た目にもインパクトがあり、ランナーも一目見て驚いていた。

もはや本大会の名物ともなっているのが、こちらの蒸しほや。初参加者の多くは、「まさかほやをエイドで食べられるなんて」と声を上げる。中には、ここで初めてほやを食べたという方もいた。殻のまま提供されるので、自分で剝いて食べる。ビールが欲しくなる味だが、ここはジュースで我慢した。

エイドではないが、私は松島でイカ焼きを購入して食べ歩きしてみた。目の前で焼かれるイカや貝類など。美味しい海の幸を堪能できるのも、仙女ウルトラマラニックの醍醐味なのではないだろうか。制限時間もゆとりがあるので、他にも店に立ち寄って食を楽しむランナーが何名か見られた。

次回は2024年10月5日の開催予定!

大会翌日は「来年の仙女ウルトラマラニックを考える会」を行った後、希望者は大会の主催団体であるアスヘノキボウの方の案内で、女川駅付近を見て回りながら復興までの軌跡などを教えてもらった。また是非、多くの方に女川を訪れていただきたい。

そんな「仙女ウルトラマラニック」だが、次回は2024年10月5日(土)に開催予定とのこと。すでに公式ホームページも更新され、日程が掲載されていた。気になる方は、ぜひ情報をチェックしておこう。

仙女ウルトラマラニック 公式ホームページ

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

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