2023年1月28日(土)から、沖縄本島を舞台として「2023沖縄58ラン」(以下、58ラン)が開催された。この大会は、那覇市から国道58号線を同道の起点となる奥(おく)まで行き、折り返して奥間にあるオクマビーチまで走るというもの。全長161km(100マイル)に及ぶウルトラマラソンレースだ。

主催者は以前より「沖縄本島サバイバルラン」「沖縄本島クレージーラン」「沖縄T.O.F.R」など、同じ沖縄本島でさまざまな大会を主催してきた。いずれも人気の大会だが、58ランはコロナ禍で一度中止になり、今回が初開催となる。どのような大会なのか、実際に出走してきたので、その様子をご紹介しよう。

目次

雨風で沖縄らしからぬ寒さ

沖縄県と言えば、やはり暖かく過ごしやすい印象を持つ方が多いだろう。もちろん他の都道府県に比べれば気温は高いが、どうも様子が違っていた。大会前夜に飛行機で那覇空港に降り立つと、吹き飛ばされそうな強風が。気温も低く、脱いでしまっていたダウンを着直した。

これは、当日もさほど変わらない。目を覚ますと外は雨が降っており、やはり肌寒く感じるほどの気温。正直、かなり服装や装備に悩んだ。ちなみに私の場合、走った際は以下のような服装と装備である。

<服装>

  • 短パン
  • 半袖Tシャツ
  • アームサポーター
  • レッグサポーター
  • キャップ
  • ネックウォーマー(BUFF)
  • サングラス
  • 手袋

<装備(バックパック内)>

  • 水500ml(ハイドレーション)
  • ヘッドライト
  • テールライト
  • スマホ
  • モバイルバッテリー&ケーブル
  • レインウェア上下
  • お金(小銭多め)
  • スポーツでぬぐい
  • エネルギージェル×3個
  • カフェインサプリ×4錠

装備は必要最低限とし、荷物はできるだけ軽く。事前に天気予報で気温が高くないのは確認していたので、体温調節には気を配った。手袋のなかった人は、かなり指先が悴んだのではないだろうか。なお、後からも触れるが、防水ウェアは中盤で着用後、ゴールまでほぼ脱がなかった。

気温は正確にこそわからない(場所によっても違う)が、体感気温としては10度を切っていた感覚。低体温症になった方、あるいは寒くて着込んだためウェア内で汗をかき、気付かないうちに脱水状態になった方もいたようだ。160kmともなれば、実際のところ何が起きてもおかしくない。むしろ、何か起きない方が稀だろう。だからこそ個人的には許容内ではあるが、やはり寒さを訴えるランナーは多く見られた。

心身ともに”試される”コース

ここで、コース全体をご紹介しよう。冒頭でも述べた通り那覇から奥へ、そして折り返して奥間へと戻ってくる。もっと詳しく経由点を記載すると、以下の通りだ。

  1. 沖縄ユースホステル(那覇市)
  2. 恩納村
  3. 名護市
  4. 奥間ビーチ(オクマプライベートビーチ&リゾート)
  5. 辺戸岬
  6. 奥 ※以降、奥間ビーチまで折り返し

詳しく知りたい方は、公式サイトからコースの全容が確認できる。下記で、ポイントとなった特徴的な箇所を取り上げた。

<信号ストップの多い那覇市内>

スタートは28日(土)12:00。まずは100kmウォーク部門が、その後に100マイル部門が時差式で出発した。当然ながら全員が元気いっぱいなので、足取りは誰もが軽やかである。

しかしスタート後、しばらくは細かく信号がある。交通ルール遵守のため、赤信号はストップ。この「止まって、走って」の繰り返しが、意外と脚を疲労させるのだ。また、止まるたび抜いたはずのランナーが後ろから追いついてくるので、上位ゴールを狙いたい方にとってはストレスだったかもしれない。

<何も見えず、波音だけが聞こえる海沿いエリア>

恩納村を越えて名護市へと入る頃、すでに周囲は暗くなっていた。安全のため、夜間はライトの点灯が必須である。夜通し走ることを「オーバーナイトラン」と呼ぶが、この時間帯できつかったのが海沿いのコース。特に人のあまり住んでいない場所は、ほぼ電灯すらないエリアも多い。明かりは自分のヘッドライトのみ。それでも見えるのは近場のみ、ただ暗闇に耳から波音だけが聞こえてくる。

暗闇になると、昼間とは少し感覚が違ってくる。具体的に言えば、進んでいることが視覚的に捉えにくいので、「ちゃんと走って進めているのか?」と不安になるのだ。特に本大会は距離が長いうえ、さほど参加者は多くない。そのため、一人きりで走るシーンがとても多かった。いくら走っても誰にも会わないと、今度は「道を間違えたのでは」なんて不安が頭を巡る。

特に奥間ビーチから辺戸岬までの約20kmは、まさに電灯もない暗闇の海沿い。実際よりも、だいぶ長い時間をかけている気がして、「まだ着かないのか」と何度も確認してしまった。

<急坂を越える往復道>

辺戸岬を越えると、奥まではほぼアップダウンのみ。往路の上り坂は走りたくないほど急だし、下りはやたらと長い。そして、今度はこれを逆に戻るのだから、精神的に辛さを感じたランナーは多かっただろう。しかし、奥まで行けば折り返して残り30km。「もうすぐゴール」という事実があればこそ、なんとか気持ちを切らさず進むことができた。

標高が上がったからか、この坂道は冷え込みが一番厳しく感じた。真夜中ということもあり、かなり強い眠気も。「動けなくなったらヤバい」と、本気で感じたエリアだった。

<明るくなった後の海沿いも試練>

暗闇で何も見えなかった海沿い。そのうち、折り返しで戻ってくる辺戸岬から奥間ビーチまでは、日が登った後にも走ることになる。暗くて「どんな景色なのだろう」と気になっていた分、目に飛び込んできた美しい海には目を奪われた。テンションが上がり、疲れも吹き飛ぶ気さえする。

しかし、そんなのは一瞬のこと。いくら走っても、見えるのは同じ海と長い道路のみ。周囲が見渡せるかどうかの違いで、まったく進んでいる気がしない。なんなら絶景も見飽きるもので、「海以外の景色が見たい」と思ってしまった。それでも、進み続ければゴールできる。その気持ちだけで走る、まさに最後の試練とも言える道のりだろう。

押し返されるほどの強風

今回、寒さ以上に苦しめられたのが風だ。特にスタートから夜を越えるまでは、ずっと強めの風が吹き続けていた。加えて、開けた場所だと海からの突風が。その強さは、走っているのに進まない、なんなら押し返されるほどだった。

この風が、体感気温をさらに下げる。私は100km地点の奥間ビーチまでレインウェアを着ない予定だったが、あまりの強風とそれによる寒さこら、80km過ぎ頃に着用。以後、ゴール直前の暖かくなる時間帯まで脱ぐことはなかった。

強い横風や向かい風は、つい前へ進むため余計な力を使ってしまう。無理やりにでも進まなければ…という気持ちによるものだが、これが良くない。筋力を無駄遣いしてしまい、早い段階から疲労する可能性があるからだ。160kmということで、出場しているのはベテランのウルトラランナーが大半。それでも、やはり「あの風が厄介だった」「あの風では走れない」という声も聞こえた。

給水等の少ない半自給自足レース

コース上にはチェックポイントが以下4ヶ所あり、全てで飲み物や食べ物を提供。加えて、約40km地点にも給水ポイントが設けられていた。

  • 68km地点:宮里三丁目
  • 100km地点:オクマプライベートビーチ&リゾート
  • 122km地点:辺戸岬
  • 130km地点:奥

人によって捉え方は異なるが、少ないと感じる方は多いかもしれない。これ以外は、基本的にコンビニや共同売店、自動販売機などで自己調達が求められる。コース上には何十kmもお店のないエリアもあるし、夜間は共同売店などが営業していない。どこで調達し、どれくらいの飲食をバックパックに入れて走るか。これも重要な戦略が求められる、半自給自足な大会だ。

走るための環境をすべて整えてもらうのではなく、まさに”自らの力”で走り切る。これは、本大会の楽しさの一つとも言えるだろう。こうした大会が未体験な方も、一度参加すれば癖になるかもしれない。

ゴールでの景色は最高!

雨と風、そして寒さ。加えてアップダウンの多いコースは、多くのランナーを苦しめた。それでもゴールした今は、「走って良かった」と思っている。それは、もちろん達成感によるところが大きいだろう。しかし、ゴール地点で見えた美しいビーチも、その一端を担っている。

明るい時間帯では、なんども目にしてきた沖縄の海。どれも美しく癒されたが、ビーチの風景は、そのどれよりも素晴らしかった。残念ながら時期的に泳ぐことは叶わないが、眺めているだけでも十分。是非いずれ、走らずプライベートでも訪れてみたい。

なお、本大会の100マイル部門は制限時間が26時間。30人が出場して20名が完走と、なかなか高い完走率だ。24時間を目安としたゴールがボリュームゾーンで、私も無事に22時間48分でゴールできた。そして、ゴール後はお風呂に入り、そのままゴール地点のリゾートに宿泊。ちょっとした観光気分が味わえる。帰宅する人もいたが、ちゃんと名護(那覇空港まで高速バスが運行している)まで送ってくれるのも嬉しい。宿泊者も、翌朝に那覇市内まで送って頂けた。

ちなみに、同日程で100kmのウォーキング部門も開催されていた。そんな58ランだが、次回は新しい形になるようだ。那覇から奥までを往復する250kmと、奥から那覇まで走る125kmでの開催を検討中とのこと。興味を持たれたランナーは、公式ホームページでの情報公開をチェックしてみてほしい。

2023沖縄58ラン公式ページ

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

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