マラソン大会は全国各地で開催されており、その規模は大小さまざまだ。また、ただ記録を競うだけでなく、多様なコンセプトを持つ大会がある。2022年10月1日(土)に宮城県で開催された「第3回 仙女ウルトラマラニック」は、特徴的な大会の一つと言えるだろう。どのような大会なのか、レースの模様をご紹介したい。

早朝スタート!で日本三景・松島に向かう

仙女ウルトラマラニックは仙台市をスタートし、多賀城市や七ヶ浜町、塩釜市、松島町、そして東松島市や石巻市を通って女川町へと走る。コース全長は約84kmで、松島町から走るハーフ部門(約41km)もある大会だ。その多くが、2011年に起きた東日本大震災で被害を受けた沿岸部エリアとなっている。

スタートから多賀城市付近までは、大きな通り沿いを走る。朝5:00から走り始めるが、ここまでは広く明るい道路がメインなので危険もない。多賀城市を過ぎる頃には、すっかり周囲が明るくなっていた。

コース前半で、急な階段を上る箇所がある。「マラソンなのに階段を上らせなくても…」と思われるかもしれないが、実はここが絶景ポイントの多聞山。松島四大観に数えられる景勝地なのだ。残念ながら当日は濃い霧のため景色を楽しむことができなかったが、晴れていれば美しい松島が見渡せる。ここで、晴天時に撮影しておいた写真をご覧いただきたい。

日本三景の一として有名な松島。美しい海といくつもの離れ小島は、松島ならではと言える景観だ。階段はきつくても、これを見れば「上ってよかった」と思えるのではないだろうか。そしてこの後、まさにこの松島へと向かってランナーは走っていく。

こちらが松島。本大会の面白いところが、「必ずしも走り切らなくてもOK」「コースを外れて寄り道OK」という点。松島までフェリーに乗ってショートカットする人もいれば、近隣の観光スポット等に立ち寄って走る人も。一応のコースは決められているものの、コース上に4つ設けられたチェックポイントを通過し、ちゃんとゴールにたどり着けば構わない。マラニックは「マラソン」と「ピクニック」を組み合わせた言葉だが、まさにこれを体現したような大会と言えるだろう。

チェックポイントにはエイド(給水所)が設けられ、ランナー同士、あるいはスタッフとのコミュニケーションも見られる。蒸しホヤや笹かまぼこなど、宮城県の“美味しいもの”が振舞われるのも嬉しい。レースではない緩い大会だからこそ交流が生まれ、エイドで合流したランナーとその後一緒に走るなんていうことも。松島からは、ハーフ部門の出場者も加わってスタートしていった。

復興の今を感じながら女川にゴール!

松島を出ると、しばらく建物なども少ない道のりが続く。アップダウンが多く、なかなか走りごたえのあるコースだ。すでにフルマラソンの距離を走り終えていることもあり、少しずつランナーにも疲れが見え始めていた様子。しかし、ここからが仙女ウルトラマラニックのメインと言っても差し障りない区間になる。

東松島市にある旧野蒜駅は、ランナーの多くが立ち寄る場所。それは、トイレや自動販売機が備わっていて、休憩にちょうどいいから…だけではない。ここには東日本大震災で津波による被害を受けた、駅プラットフォームが当時のまま残されているのだ。

さらに、隣接する建物は資料館になっていて、映像や展示などで当時の様子を知ることができる。何もなかった周辺には野球コートや公園が出来上がっていて、初期から参加しているリピーターからは「この辺は、だいぶ変わったね」という声も聞かれた。

野蒜駅は高台に新設されたが、当時線路として使われていた場所(旧仙石線跡)は舗装された道になっている。コースから外れて少し走ってみたが、それだけで感慨深い気持ちになった。コース後半には、周辺にこうしたスポットがいくつも点在している。

続いて訪れたのが、石巻市にある石ノ森章太郎漫画館。第2回までは施設横付近をエイドにしていたようだが、今回は少し手前だった。なぜなら、この辺りも震災被害を経て、道路工事がずっと続いているから。古い道が壊され、新しい道ができ、さらに工事中だけ臨時で使われていた道が閉鎖される。今現在も新しい橋が作られており、次回開催ではまたコースやエイドの設置場所が変わるかもしれない。

石巻市を後にすると、あとはゴールの女川町を目指すのみ。少しずつ日が暮れ始め、ゴール前には真っ暗だったというランナーもいただろう。この辺りは道が狭くて足場が悪く、加えてアップダウンも多い。とはいえ、他に女川町へと続く道はないので、通らざるを得ないのだ。細い道は車が来ないタイミングを見計らい、足元に注意して走った。

そして、ゴール!少数スタッフで運営されている手作り感ある大会だが、ゴールにはスタッフの方々がゴールテープを持って待っていてくれた。早朝からサポートしてくださり、スタッフも疲労困憊だったことだろう。ランナーも走り切った充実感、そして楽しさと共に皆さん笑顔だった。

ゴール後は温泉、抽選会、そして女川の町へ

女川駅には2階に温泉施設「ゆぽっぽ」がある。本大会では完走後、この温泉の入浴券をもらえるので、すぐ汗を流せるのも素敵な対応だ。宿泊施設も運営側で手配してくれており(日帰りも可能)、同じく女川駅のすぐ横にある。

女川町も震災では甚大な被害を受けたが、その後は復興が急ピッチで進められた。駅前を中心に町づくりされており、コンパクトな範囲で温泉や宿泊、食事、買い物などを楽しめるのは特徴の一つと言えるだろう。家族がゴールへ応援に駆け付けている方も見られたが、これなら観光を楽しみつつ走った後に合流…というパターンも良さそうだ。

通常だと本大会では、終了後にランナーとスタッフとが集まって懇親会が行われる。しかし、今回は残念ながらコロナ禍ということもあって懇親会は中止。その代わり、地元特産品などが当たる抽選会が行われた。

温泉に入り終えた、あるいは走り終えたランナーが、ゴール会場である女川フューチャーセンターCamassに集合。順番にくじ引きしていき、しかもハズレなし!これには、参加者も大盛り上がりだった。賞品はスペインタイルマグネットや木の箸セット、こぶ巻、そしてかまぼこ。懇親会も良いが、抽選会もまたドキドキがあって楽しかったのではないだろうか。

その後は皆さん自由な時間を。走ってお腹の減ったランナーの皆さんは、その多くが駅前にある飲食店へと繰り出していたようだ。私も数軒に立ち寄ったが、何名かの方々とお会いした。中には初めて会う同士でお酒を飲みに…なんていうケースも見られ、ゆったり走るマラニックの良さなのかもしれない。

参加者と一緒に作り上げていく大会

大会翌日、抽選会場でもあった女川フューチャーセンターCamassに続々と人が集まる。これは前回から実施されている、「次回マラニックを考える会」というもの。本大会は“参加者と一緒に作る”ことを一つのコンセプトにしており、参加者からの意見を聞き、次回開催につなげていくという試みだ。

そして実は本大会、運営者にマラソン経験者が1人もいない。何も分からないことからスタートし、本番での経験とランナーからの声をもとに、まさに“手作り&手さぐり”で作られている。これも、他にはない仙女ウルトラマラニックの大きな特徴と言えるだろう。

良い点、悪い点、そして個人的な要望まで。ランナーそれぞれに感じたことを吸い上げ、ホワイトボードにまとめていく。どんな意見も否定せず、自由に発言&ディスカッションできる場である。もちろん、何もかもすべて叶うわけではない。しかし、自分たちの声が大会に活かされるというのは、それだけで嬉しさを感じられる。そして、そのうえで次回どんな大会になるのか、「また走りに来よう」と思えるのではないだろうか。だからこそ本大会、参加者は少数ではあるものの、そのうちリピーターの割合がとても多いのだ。

仙女ウルトラマラニックは、すでに2023年も同時期の開催に向けて動き出している。もっと参加者に楽しんでもらい、有意義な時間を過ごしてもらう。そして、震災を過去のものとせず振り返り、今もなお進められる復興の今を知ってもらうために。この大会を、定期的に被災地を訪れるキッカケにするのも良いだろう。ご興味のある方は、情報をキャッチしつつ来年の参加を検討してみてはいかがだろうか。

大会公式ホームページ

大会公式Facebookページ

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

New Road編集長。“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表、NPO法人HASHIRU理事。

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