スポーツに取り組んでいると、「もっと気合い入れろ!」「やる気があれば勝てる!」といった言葉をよく耳にします。みなさんも、聞き覚えがあるのではないでしょうか。これは、「精神論」や「根性論」などと呼ばれる類のものですね。私は子どもの頃から持久系種目に携わってきたので、特にこの種類の言葉をたくさん投げかけられてきたように思います。

現在はあまりにも非科学的なものに関して否定される傾向にありますが、パフォーマンスを発揮するためには、心と体双方のコンディションが重要になります。そのため、100%すべてを否定するべきものでは無いのかもしれない、というのが私の見解です。心だけが先行していてもダメですし、体だけが仕上がっていてもダメ。より良いパフォーマンスを発揮するには、心と体が両方仕上がっている必要があります。

それでは、果たしてメンタルが十分に鍛えられていれば、競技力もそれに引きずられるように上がっていくものなのでしょうか。あるいは、世界一のメンタルを持っていれば、競技力が多少劣っていても勝てるものなのか。

結論から言えば、スポーツにおけるメンタルとは「実力を100%発揮するための土台」というのが私の考えです。決して、それさえあれば実力以上のパフォーマンスを発揮できる、便利なツールではありません。ちなみに、スポーツメンタルについてはさまざまな研究がなされていますが、「基準点」が人によって異なるメンタルの世界では、結論にまで至る研究成果を出すのは困難を極めるのではないかというのが私の所感です。今回はスポーツとメンタルの関係についてお伝えしますが、20年近い競技生活の中でさまざまな人から見聞きしたものを、あくまで私なりにまとめて解釈した内容になります。

目次

スポーツにおける実力は、あくまでも肉体の強度・能力の産物

例えば、100mを11秒で走れる短距離選手がいるとしましょう。その選手は、今まで長い年月をかけてトレーニングを積んできました。その結果、100mを11秒で走れる肉体を手に入れたのです。例えば試合当日、その選手は気持ちがかなり盛り上がっていました。その結果、11秒でしか走れないはずの肉体に突然力が湧き、100mを10秒で走るという結果が…なんてことは、漫画ではないので起こりません。

人が前に進むには、筋力や重力、地面からの反発、風圧などさまざまな要因が絡みます。しかし、そこに「気持ちの力」という項目はありません。さらに、長い年月をかけて鍛え上げてきた肉体の能力を、ただの一日の気持ちの盛り上がり程度が凌駕することもありえないでしょう。

基本的に、パフォーマンスが上がるためには肉体の成長が求められます。体の成長は短くても一晩、トレーニング効果を得るとなると1~3ヶ月の時間がかかるとされるのが現在の理論です。

一方、現実にそのように見える出来事が起こっていることも、また事実でしょう。例えば「あの選手は今日、気持ちが強かったから勝てた」というのは、よく聞く言葉です。私もそう見えることはありますし、そう評価することもあります。しかし、それは「100%の実力が気持ちによって101%になった」わけではなく、「99%のしか出せなかった実力が気持ちによって100%発揮できるようになった」ためだと私は考えます。

スポーツにおける実力とは、あくまでも肉体の強度・能力の産物であり、気持ちの有無で上がるものではありません。しかし、気持ちが力を発揮するための土台と考えるのであれば、より安定した土台の方が力を強く出せると考えられると思います。これは、「生理学的・トレーニング論的観点からそう考えないと都合が合わない」という私なりの辻褄合わせ的な側面もありますが、割りと核心を突いているのではないでしょうか。

「意志」や「自信」がスポーツでのメンタルの正体では?

「スポーツにメンタルなんて不要なのか?」と問われれば、決してそうではありません。むしろ、「無くてはならない重要な要素」だと私は考えます。なぜなら、メンタルが著しく低下している場合には、実力通りのパフォーマンスを発揮することができないからです。気持ちによって、実力がプラスになることはありません。しかし、マイナスになることは十分にありえるというのが、スポーツにおけるメンタルの厄介なところかもしれません。

極論ですが、人間は生理現象を除き、ほぼすべての行動にメンタル(意志の力)が関わっていると私は考えています。メンタルが関わるということは、気分が乗らなければ「行動しない」という選択肢を取れるということ。私はこの部分が、スポーツメンタルにとって重要な部分なのではないかと考えています。

例えば試合本番。先ほどの選手を例にあげると、まずは100mを11秒で走るという目標のために、長い時間かけてトレーニングしています。きっと、練習に出たい日ばかりではないでしょう。しかし、そんな日でも「目標を達成する」という意志を持って自分を奮い立たせ、トレーニングを積んできているはずです。

スタート前、「自分は本当に11秒で走れるのか?」という不安に襲われるかもしれません。体は萎縮し、強く張ってしまいます。しかし、それまでのトレーニングを振り返って自信をつけ、いつも通りのパフォーマンスを発揮することを考えてスタート。実力通り走りで、無事に11秒で走り切ることができました。恐らくスポーツにおけるメンタルとは、こういう「本番の前の準備段階」で必要になってくるものなのではないでしょうか。

まとめると、「スポーツメンタルは突然力を得られるような都合の良いものではないが、実力を上げるためには無くてはならないものなのではないか?」ということです。私自身、まだまだ突き詰めきれていない分野ではあります。しかし、スポーツに関わると、恐らく最初に遭遇する問題でもあるはずです。

もしも、今回お伝えしたようなことで悩んでいるなら、あくまでも心は自分を動き出させる「きっかけ」でしかないのだということを、頭の中に置いてみてください。そうすると、案外上手くいくようになるかもしれません。

By 古山 大 (ふるやま たいし)

1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。 <主な戦績> 2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝 2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝 2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位 2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位 2021年「日本トライアスロン選手権」4位

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