プロトライアスロン選手と名乗ると、よく「毎日3種目の練習をしているの?」と聞かれます。結論から言うと、私の答えは「No」です。なるべく3種目を練習できるようにはしていますが、そもそも時間的制約がありますし、施設が使える日も関わってきます。また、練習強度や回復時間、スケジュール等の都合から、3種目を行わない日も少なくありません。しかし、選手によっては「必ず3種目やる」という方も多く見られます。

これは、トライアスリートにとって答えのない、永遠の問いかもしれません。しかし、一つだけ言えることは「何が正解か」というより、「何を大事にして練習するか」という観点が重要になってくるのだろうということです。その選手にとって、今何が必要なのかという判断は、スポーツ科学における永遠の課題でしょう。そして、それに対する明確な答えというものは、今もこれから出ないと思います。

こうしたことを踏まえ、今回は私の練習パターンについてお伝えします。数多くいるトライアスリートの、練習パターンの一つとして参考にしてください。

目次

疲労をため過ぎないための指標

私の場合、練習立案でもっとも大切にしているのが「継続して練習していくために1日の練習で疲労度を高めすぎないようにする」ことです。例えば前日は調子が良かったので8時間練習できたものの、翌日は疲れのせいでまったく練習できないのでは、“強化”という観点からすると良くないからです。そのため、私はスケジュールを立てる指標として、「練習負荷」と「練習時間」を利用しています。

練習負荷

私は1週間単位で練習メニューを立てることが多いのですが、そのとき意識しているのが「今の時期に鍛えたい要素は何か?」という部分です。簡単に言うと、目標レースから逆算して現在取り組むべきことが、「持久力」なのか「スピード」なのか、あるいは「回復」なのかという感じです。ちなみに本記事を書いている2022年8月半ばの時点で、鍛えたい部分は「スピード」です。

ではスピードを鍛えるとして、1週間どういうメニューを組むか。大前提として、スピードの強化時期でも持久力強化の練習は続けなくてはいけません。また、回復を目的としたメニューも当然ながら求められます。それらを組み合わせる上で、今の時期はスピードの優先度が高い時期なのであって、それのみ強化するというわけではないのです。

スピード練習の優先度を高くしてメニューを立てるとして、一番大事になってくるのが練習と練習の間。スピード練習は、体に掛かる負担が高くなりがちです。これ加えて、全開以上の実力を出すことが望ましいので、毎回スピード系の練習を迎える際には、なるべく体の状態は全快に近い状態が望ましいでしょう。そのため、私は体の回復期間も合わせて、スピード練習からスピード練習の間は1~2日開けるようにしています。

そうなれば、スピード練習はだいたい週2~3回になります。このスピード練習の組み方は、基本的に3種目で共通しています。1回スピード練習を入れたら、1~2日間を開けて週2~3回です。

練習時間

感覚的にわかるかもしれませんが、運動強度は以下のようなイメージで求められます。なお、これはおおよそのものであり、確かな公式というわけではありません。

・負荷(頑張り)×時間=強度(その運動でどれくらい疲れるか)

例えば1分間ゆっくり走ったら「1(負荷)×60(秒)=60(その運動の強度)だとして、1分間を全力で走ったら10×60=600、2分間ゆっくり走ったら1×120=120というイメージです。このことから、一回の練習の強度において「どれくらい頑張るか」と同じくらい、「何時間やるか」も重要になります。簡単に言えば、息の上がらない楽な運動だからといって、一日中やっていたら結局は疲れてしまうということです。

私は個人の経験則から、一日の練習時間が合計6時間を超えないようにしています。そのため、例えばバイク練習が3時間、ラン練習が2時間、フィジカルトレーニング(筋トレや補強運動)が1時間という日があれば、その日はスイム練習を行いません。こうすることで、継続して高い強度の練習を積み上げられるようにしています。

練習メニューの組み方

以上のことを踏まえて、1週間のスケジュール(day offやプールなどの施設利用日)と照らし合わせつつ練習予定を組んでいきます。ちなみに、スイム・バイク・ランそれぞれのスピード練習が同日になったり、連日になったりということはあまり考慮しません。その日の練習時間内で収まるのであれば、同じ日にスピード練習を入れたり、バイクスピード練習の翌日にランスピード練習を入れたりします。あくまでも、注意しているのは「同じ種目のスピード練習が続かないようにする」ことです。

とはいえ、練習メニューの組み方は簡単です。最初にスピード練習の日を決めて、スピード練習とスピード練習の間の日に持久系の練習を入れていきます。そうすると、以下のようなことを踏まえて、パズルを組むようにスケジュールが立てられていくのです。

  • この日はプールが使えないので、バイクとランのスピード練習のみ
  • この日は練習時間的にやり過ぎになるので、この種目を抜く
  • 施設の利用日から、この日に必ずスイムを入れたい
  • ラン練習の間隔が空いてしまっているからこの日には必ず入れたい など

このように私は「一日の練習の強度」を基盤にして、その上に練習する種目を選んで積んでいます。しかし、選手によっては3種目やることが大前提で、時間や強度を後から設定していくスタイルの人もいます。もしかしたら、これがむしろメジャーなケースかもしれません。あるいは仕事との兼ね合いで、一日一種目を集中して練習する方もいるでしょう。

トライアスロンは持久系競技なので、ただでさえ長い練習時間が必要になります。その上、3種目でやらなければならないことも多くなるため、冒頭で述べたように「自分が何を信じて、何を大事にして練習するか」がとても重要な競技になるのです。

By 古山 大 (ふるやま たいし)

1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。 <主な戦績> 2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝 2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝 2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位 2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位 2021年「日本トライアスロン選手権」4位

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