少し前になりますが、8・9月にパデルの国内公式戦である『ダンロップジャパンパデルツアー』に出場し、所沢オープン準優勝、東京オープン優勝、佐倉オープンという成績を残すことができました。負けた試合もあるので悔しい思いはありますが、約1年半ぶりに、しかも3大会連続で決勝の舞台に立つことができたということに関しては、個人的に満足しています。

さて、今回は最近私がよく考えている「スポーツ観」のような部分のお話です。私は一人のスポーツファンとしてパデルを見るときと、「指導者」「選手」としてパデルと向き合うときで見方が変わります。スポーツファンとしては「個性」が魅力的に映りますが、選手や指導者としては強過ぎる個性が逆に弱点にもなりかねないと感じています。

目次

選手の「アスリート化」

もう随分と前からにはなりますが、競技に関わらずスポーツ選手が皆“アスリート”になってきているように感じます。ひと昔前なら「足は遅いし守備も上手じゃないけど豪快なホームランを打つバッター」や「バックハンドはスライスしか打たないテニスプレーヤー」という選手たちが活躍することもありました。しかし、現在はそういった「一芸に秀でている」タイプのプレーヤーで、大活躍している選手は少なくなっています。

また、昔なら強い選手(やチーム)しか知らない「知る人ぞ知る」というようなこと、あるいは強豪国に直接足を運ばないと知り得ない情報などがあったでしょう。しかし、これだけ最新の情報が即座に世界中で共有される昨今では、そういったものもあっという間に国境を越え、多くの選手や指導者に伝わっていきます。「こうするといい」「こうなるとまずい」という情報を皆が一様に取得するので、良い意味でも悪い意味でも、選手のプレー(スタイル)やフォームがどうしても似てきてしまいます。

これは、別に悪いことではありません。そして、自分もその恩恵に預かっている一人です。とはいえ、一昔前のテニス界のボルグとマッケンローのように個性的なプレーヤーが存在していたり、そのようにプレースタイルが対照的なプレーヤー同士の試合が、もう少しあってもいいのにな…と個人的には思っています。ただ、各競技で使用する用具の進化、先ほどお伝えした最新情報がある程度一律に共有される状況では、このようなプレーヤーやそういったプレーヤー同士の対戦は生まれにくいのかもしれません。なぜなら、フォームやプレーに致命的な弱点があった場合、その対策はあっという間に選手(コーチ)間で共有されてしまいます。また、“ほぼ正解”のようなものがあった場合も、あっという間に共有されてしまうからです。

運動物理学、運動生理学、栄養学など、プレーヤーに関わるさまざまな分野の情報を誰もが取得できます。わざわざ、効率の悪いものを取り入れる選手はいません。ですから、骨格や体質などは除くとしても、多くの場面で選手同士が「似てくる」という現象は、今後はより多くなってくるのではと思っています。

今後スタンダードになる選手像とは

だいぶ前置きが長くなってしまいましたが、私が今現在考えているスポーツ観は「弱点がない状態がプレーヤーとしてのスタート地点」です。スポーツ観などというと、ちょっと大げさかもしれません。ここでは、パデルに対象を絞ります。

また、対人競技でスコアリング方式も同じテニスにも、共通する部分はあると考えています。一般愛好家の方はこの限りではないですが、国内トップレベル、そして世界を目指すという選手は、まずこの「プレーヤーとして弱点がない状態」を目指すのがベターではないでしょうか。

スポーツの世界には“心技体”という言葉があります。私は、これに頭をつけて「心技体頭(メンタル・テクニック・フィジカル・ストラテジー)」で1セットだと考えています。この4つの分野それぞれで弱点を作らないよう、自分自身のプレーを作り上げていくことが今後は大事になっていくでしょう。

一つ、ここで注意してもらいたいことがあります。それは、「弱点をなくすこと」と「得意にすること」はイコールではないということです。この弱点と得意の間に、「苦手ではない」という状態があります。どんな選手にも得意技がありますが、得意技というものは、「人は苦労してやってるけど、自分は無意識にやっても人より上手に出来るもの」のこと。現時点で苦手なことを、この状態まで持っていくのにはかなりの時間を要します。もちろん、そうしたいという人がそうするのは構いません。しかし、一般的には、「弱点をなくし自分の得意なことで勝負できる」ようになるほうが勝利へ早く近づけます。それぞれ言い換えるなら、それぞれ以下のような状況を指すでしょう。

  • 弱点:そこを突かれると相手に得点を許してしまうもの
  • 得意:それを使えば相手から得点が奪えるもの
  • 苦手ではない:そこを突かれても得点を奪われることはないが、かといって得点を奪えるほどのものでもない

パデルはテニスと違い、シングルスがありません。ということは、自分に弱点がなくてもパートナーに弱点がある時点で「勝負あった」となってしまいます。また、強い選手と組めても、自分に弱点があればこを狙われてしまい、これまた勝負あったです。

そうなれば、強い選手から「あいつは弱点がないから一緒に組みたい」と思ってもらう必要があります。また、弱点のない選手と組むためには、自分も弱点がない状態にしなくてはいけません。こう考えると、「弱点が(少)ない」というのは日本のトッププレーヤーや世界基準のプレーヤーになる上で、“ドレスコード”という言い方ができるのではないでしょうか。

長所(武器)をさらに磨くことは否定しませんし、必要なことです。しかし、プレーヤーとしての土台部分をしっかりさせることも、怠らないようにしていかなければなりません。土台を広く頑丈なものにしておけば、安心してその上に色んなものを載せられる。これはスポーツでも同じです。これからパデルを始めようとしている方も、すでに始めている方も、これを頭の片隅に入れて練習に励んでもらえたらと思います。

By 庄山 大輔 (しょうやま だいすけ)

2019年にアジア人初となるWORLD PADEL TOUR出場を果たし、2021年現在、45歳にして再度世界に挑戦中。全日本パデル選手権二連覇、アジアカップ初代チャンピオン。国内ではコーチ活動も行なっている。モットーは「温故知新」。

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