2023年3月4日(土)と5日(日)の2日間、香川県中讃地区の8市町(善通寺市、多度津町、宇多津町、坂出市、丸亀市、琴平町、まんのう町、綾川町)を舞台として「ウルトラうどんマラニック2023」が開催された。同大会は過去にも高松市で開催されていたが、今回は弘法大師空海御誕生1250年祭と連携したスペシャル版。空海の生誕地である善通寺市をスタート&ゴールとし、1日目は45km、2日目は55kmという距離を走る。しかも本大会、ただのマラソン大会ではない。うどん屋がエイド(補給場所)になっており、なんと各店舗で1杯うどんを食べて走るのだ。経由するうどん屋は1日目・2日目とも各4つ。“うどん県”と呼ばれる、香川ならではの大会と言えるだろう。

うどん4杯を食べながら、ウルトラマラソン(42.195kmを超えるマラソンの総称)を走る。満腹で走れなくなりそうなところだが、「ちょっと面白そう」と感じる方は多いのではないだろうか。そこで今回、実際に2日間にわたって本大会に参加してみた。どんなコースを走り、どんなうどんを食べるのか。きっと次は出場したくなる、その魅力を2回に分けてお届けしよう。まずは、フレッシュな状態で走る1日目からご覧いただきたい。

※マラニック…「マラソン」と「ピクニック」を掛け合わせた言葉でファンランの一種

目次

4種のうどん発表!スタート前から会場は大盛況

スタート地点は善通寺市役所。JR土讃線「善通寺駅」から徒歩約5分で、アクセスに優れている。当日受付が可能なので、遠方からでも参加しやすかった。会場に到着すると、ゆるキャラ「むぎゅ~ちゃん」と香川県のマスコットキャラクター「うどん脳」が。そして、すでにたくさんのランナーが集まっていた。

朝は少し冷え込んでいたが、そんなの吹き飛ばすほどの熱気ある会場。ランナーはスタートゲート前に集まり、今か今かとアナウンスを待ち焦がれているようだ。キャラクターたちも大人気で写真撮影に引っ張りだこ。キッチンカーも出ていた。

スタート前にはブリーフィングを実施。なんと早朝にもかかわらず、善通寺市長の辻村修氏も登場した。さすがスペシャル版、地域をあげて盛り上げようという気持ちが伝わってくる。さらに主催者からの挨拶や注意点の説明などが続くが、もっとも盛り上がったのが…

コース上で1日目に提供される、エイドでのうどん発表だ。実行委員会事務局の森田氏が、どんなうどんか1つ1つ丁寧に説明してくれる。ちなみに1日目のお店とメニューは以下の通りだ。

  • 根ッ子:ぶっかけそのまま熱
  • むぎ:肉うどん肉少な目
  • 坂出 山下うどん:うどん(自分味付け)
  • よしや:醤油うどん冷たいん

すべて特徴が異なり、聞いているだけでお腹が減ってきた。温かかったり冷たかったり、バリエーションに富んだうどんを食べられる。この発表で会場の盛り上がりは最高潮に達し、いよいよ1日目45kmのスタートを迎えた。

なお、本大会では道路規制などは行われず、ランナーは交通ルールを順守して基本的に歩道を走る。混雑を避ける等の目的から、複数グループに分かれて時間差でのスタートとなっていた。応援やスタッフの方々に見送られ、走り出したランナーは笑顔いっぱい。走るのと食べるの、果たしてどちらが一番の目的なのか。それは人それぞれ異なるが、少なくともワクワクした気持ちでいっぱいなのはランナー共通だったことだろう。

善通寺を通って1軒目「根っ子」

スタートして、いきなり善通寺を通る。境内ということもあり、誰に言われるでもなく走りを止めて歩くランナーの方々。いきなりの観光スポット、足を止めて写真を撮ったり、お参りしたりする姿も見られた。

走り始めると、ほどなくして先にスタートしたグループに追いついた。追い抜きながら声を掛けると、そこから「早くうどん食べたいですね!」なんて話になる。タイムを狙って本気で走るマラソン大会と違い、会話しながら走るのもマラニックの楽しさだ。

スタートから約6km弱、到着したのが1軒目の「根ッ子」。店名の書かれた黄色い旗が掲げられていて、遠くからでも良くわかる。うどん4杯ということで朝食を抜いていたため空腹。早く食べたいと、ついラストスパート並みにペースが上がってしまう。

お店に入り、出てきたのがこちら「ぶっかけそのまま熱」。ぶっかけうどんを、熱々のまま食べるというメニューだ。シンプルな見た目だからこそ「これぞ、うどん!」という感じ。コシのある麺だが、食べるというより飲むようにしてツルツルと喉に入ってくる。つゆの塩気は走って少し汗をかいた身体にちょうどいいし、麺がどっぷり浸かっているわけではないから熱さも問題なし。まさにあっという間、気づけば食べ切ってしまった。

丸亀市を抜けて2軒目「むぎ」

「根ッ子」を出て丸亀市へ。道中、丸亀城の周りを走っていると、遠目に天守閣が見えた。本当なら中に入って観光したいところだが、そこは我慢して写真だけ撮る。日本100名城に数えられるそうだが、何より周りを囲む石垣の存在感が素晴らしかった。大会とは別に、改めて観光で訪れたいな…と感じさせられる。

途中、土器川沿いの河川敷を走る。ずっと真っすぐで単調なコースではあるが、目の前に現れたのが「讃岐富士」と呼ばれる飯野山。本大会、2日間を通して何度も目にする。場所によって形が変わるが、裾野の美しい、まさに富士山のような姿だ。

続いてスタートから約17km、2軒目となる「むぎ」に到着!スタッフの方々が拍手で迎えてくれた。すっかり周囲にランナーが見当たらなくなっていたのだが、うどん屋に来ると食べる時間があるため合流しやすい。

こちらでいただいたのは「肉うどん肉少な目」。走っている途中ということで、肉の量を少なく配慮してくれたのだろうか。しかし実際に食べてみると、なかなかボリューム感がある。まだ満腹度は低いので余裕だが、もし終盤だったら厳しかったかもしれない。のど越しの良い麺はもちろん、お肉が甘めに味付けされていて美味しかった。

自然を楽しみながら向かう3軒目「坂出 山下うどん」

コース途中では何度か川を渡り、周囲には自然が広がる。のどかな景色を眺めながら走っていると、気持ちが清々しく疲れも吹き飛ぶかのようだ。昨今は地方移住する人も増えているが、こういう長閑な場所はまさにピッタリなのかもしれない。

目指すうどん屋は綾川沿いにあるということで、しばらく川沿いに進む。あまり景色の変わらない長い一本道は精神的にダメージを受けるが、「この先にうどん屋がある!」と思えばこそ走れるというもの。距離も20kmを超えてくるので少しずつ疲労が溜まり始めるが、ご一緒した他ランナーと会話しながら着実に前へと進んでいく。

そしてたどり着いたのが、3軒目の「坂出 山下うどん」。スタートから、これで約27km走っている。なお、もちろん大会当日は普通に営業しているので、ランナー以外のお客さんもたくさん。こちらに到着したときも、何台か車が止まっていて観光客らしき方も見られた。

こちらでいただいたのは「うどん(自分味付け)」。最初は何のことか分からなかったが、温でも冷やしでも好きな方で注文できる。走って熱かったのと、温かいうどんが続いたので冷やしをチョイス。胃袋からクールダウンでき、麺はもちもちで食べ応えがあった。この辺で、通常であれば「もうお腹いっぱい。ごちそうさま」となるところ。しかし、まだ1日目も残り1つうどんが待っている。

行列のできる4軒目「よしや」

程よく満腹感のある中で走っていくと、再び見えてきた讃岐富士。前半よりも形が整って見えるが、いかがだろうか。最後のうどん店は、まさにあの付近にある。近いのか遠いのか良く分からないが、目標物があると走る意欲が高まるというものだ。

ついにスタートから約37kmでたどり着いたのが4軒目、この日ラストとなるうどん屋「よしや」だ。こちらはかなりの人気で店内は混雑しているため、裏手のスペースに通された。特別に裏口からうどんをご提供いただいたのだが、混雑にもかかわらずランナーに対応してくださり感謝しかない。

1日目を締めくくる「醤油うどん冷たいん」。満腹に近かったはずだが、麺が細めでツルっ食べやすい。周りから驚かれるほどのスピードで完食してしまった。肉系やコシ強めのうどんだったら、お腹がいっぱいで厳しい戦いになっていたかもしれない。メニューの順序や組み合わせも配慮されているのかは不明だが、お陰さまで美味しく4杯を堪能できた。

ゴール!からの素晴らしい交流会

最後に、うどんで重くなった身体を約8km運べばゴール。うどん脳がゴールテープを持って待っていてくれた。うどん脳、もしや朝からずっと会場にいたのだろうか?ゴール手前で「お帰りなさい」とアナウンスしてもらった瞬間、やり切った充実感と終わってしまった寂しさが混在し、なんとも不思議な気持ちになった。

ちゃんとその場で完走証も発行してくれる。なんだか右側のラインが不自然に切れているが、これは2日目になると分かるシークレットな仕掛け。2日目編でぜひご確認いただきたい。うどん脳がうどんを食べながら走っているイラストは、まさに私たちランナーの姿を模していて可愛らしいではないか。細かな部分にも工夫が凝らされていて、運営者の温かな気持ちと思いが伝わってくる。

なお、1日目のゴール後には、希望者での交流会も開催された。たくさんの食べ物とお酒が提供され、ランナーとスタッフが混ざって楽しい時間を過ごす。しかもこちら、開催場所となっているのが重要文化財に指定されている旧善通寺偕行社。まさに特別な時間となり、大盛況のうちに夜が更けていった。これだけ食べて飲んで、果たして翌日も55km走ってうどんを食べられるのか?という疑問もあるが、本大会の参加者にとっては、そんなことあまり関係ないのかもしれない。

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

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