これまで、スポーツは多くの子どもたちの健康に影響を与えてきた。現代においても、日本の未来を担う保育園児や幼稚園児、あるいは小学生にとって、成長に欠かせないものと言えるだろう。

しかし、子どもたちの運動機会は年々減少している。そんな中、子どもたちに無料で運動機会を提供するプラットフォーム「co-ed Sports(コエドスポーツ)」を運用する株式会社weclipの横田泰成氏は、子どもたちを取り巻くスポーツ環境が悪化し、健康にも悪影響をもたらしていると言う。そして、そんな現状を改善するために重要と考えているのが、地域も含めた“協育”だ。 

そもそも、スポーツは子どもの成長にどのような影響をもたらすのか。そして、地域として何ができるのかについて、横田氏にお話を伺った。

現代の5歳児は25年前の3歳児。見過ごせない健康への悪影響

現代の子どもたちは、運動面でどのような問題を抱えているのだろうか。横田氏によれば、まず注目すべきは健康への問題とのこと。山梨大学の中村和彦らによる『観察的評価法による幼児の基本的動作様式の発達』によれば、5歳児は25年前の3歳児と同様の動作発達段階だと言われているのだという。

「運動能力の低下は、子どもたちの成長に多くの悪影響を及ぼします。例えば、本来なら高齢者が発症する『ロコモティブシンドローム(運動器症候群)』が、近年では子どもたちにも見られるようになりました。ロコモティブシンドロームとは骨や関節、筋肉などの機能が低下し、日常生活に支障をきたしている状態です。また、独立行政法人日本スポーツ振興センターによる『学校の管理下の災害[平成29年版]』の各年結果を基にすると、子どもの骨折発生率は1970年から2016年迄で2倍以上に増えています。つまり、例えばとっさに身をかばうような動きができないのでしょう。運動機能の低下が、子どもたちの健全な成長を脅かしているのです。」

運動能力の低下による影響は、さらに精神面の健康にも影響するようだ。例としてスポーツ庁が公表した『スポーツの実施状況等に関する世論調査(2019年)』を見ると、日常生活に「充実」を感じる人の割合はスポーツの頻度が週0日だと約43%だが、3日以上の場合は約76%に跳ね上がる。

「調査対象に日本は含まれていないものの、ユニセフでは外で遊ぶ頻度が高い子どもが、外で遊ばない子どもより幸福度が高いことを公表しています。さらに文部科学省や日本体育協会(現・日本スポーツ協会)でも、定期的な運動は精神面の充実につながるとして、子どもに毎日60分以上の身体活動を推進しているんです。しかし、日本の現状として、子どもたちの幸福度は高くありません。ユニセフが2020年に公表した『子どもの精神的幸福度』では先進国38か国中、日本は37位でほぼ最下位です。」

こうした状況下において、幼少期にはスポーツ・運動にどのように取り組むことが大切なのか。これについて、横田氏は次のように話してくれた。

「マルチスポーツ、つまり偏りなく多様なスポーツに取り組むことです。身体ができていない段階から1つのスポーツに特化すると、運動機能のバランスが悪くなってしまいます。例えば、私が関わっているサッカークラブで小学6年生の身体形態と体力・運動能力の計測結果を分析したら、理想的なバランスとはかけ離れていました。種目ごとに、大きな偏りがあるのです。」

小学校6年生の計測結果。黒が理想値、赤が対象児童の平均値。(横田氏が関わるサッカークラブ提供)

具体的な方法としては、山梨大学の中村和彦教授が提唱した36の基本動作が「幼少期に身につけたい動作」として知られている。しかし、1つのスポーツだけで36種類のすべてを身につけることはほぼ不可能であり、多くの動きを習得するうえでもマルチスポーツが重要になるのだという。

【幼少期に身につけたい36の基本動作】

バランスをとる動き

立つ、組む、乗る、逆立ちする、渡る、起きる、ぶら下がる、浮く、回る

体を移動する動き

走る、登る、歩く、跳ねる、泳ぐ、跳ぶ、くぐる、滑る、はう

用具などの操作をする動き

持つ、支える、運ぶ、押す、当てる、掘る、蹴る、おさえる、捕る、振る、こぐ、渡す、投げる、倒す、引く、打つ、つかむ、積む

「ちなみに、現在活躍する多くのトップアスリートも、かつては他のスポーツにも取り組んでいました。将来的にいずれかのスポーツに特化したい場合でも、子どもの頃はマルチに取り組んだ方が良いんです。複数のスポーツに取り組むからこそ、自分の“得意”も見つけやすくなりますからね。」

多様なスポーツに取り組むことは子どもたちの心身に多くのメリットをもたらすが、現実として十分な運動機会を確保できている子どもは少ない。そして、運動不足がもたらす影響が、骨折率や幸福度といった数値にも表れている。このような状況を、大人たちは知っておくべきだろう。

家庭と学校が悪循環に陥っている現状で「協育」が重要に

現状が解決に向かない場合、どのような事態が起こってしまうのか。これについて、横田氏は次のように考察する。

「今の傾向が続けば、健康状態はますます悪化するでしょう。また、幸福度もさらに下がると思います。活力のない子どもが増えるのは、日本という国で考えても好ましいことではありませんよね。小さい頃に運動が好きになって習慣性が加われば、大人になっても心身の健康を維持しやすくなります。日々の幸福度も高まり、前向きな気持ちになるから、挑戦する姿勢も身につきやすくなるはずです。」

そうした現状を改善するため、横田氏が重要と考えているのが、「地域で子どもを育てる」ということ。では、なぜ家庭や学校だけでなく、地域単位で育てることが必要なのだろうか。 

「共働き世帯の増加や長時間労働に伴って、子どもが1人になる時間が増えています。しかし一方で、学校では教員が減っているんです。コエドスポーツの運用には現役教師も関わっていますが、多くの学校で先生が保護者対応や事務仕事に追われ、子どもの教育に十分な時間を割けないと聞いています。家庭も学校も、それぞれが悪循環に陥っているんです。だからこそ、地域も含めた“協育”が重要になると考えています。」

コエドスポーツとは、子どもたちに無料で運動機会を提供するためのプラットフォームだ。サイト上から受講したいクラスと日時を選ぶだけで、好きなときに好きなスポーツを体験できる。2022年6月現在、8つのスポーツクラブと提携していて、地域で連携しながら多様な運動を教えている。このサービスを始めた背景について、横田氏は次のように話す。 

「できるだけ多くの地域住民と子どもたちをつなげたいと思い、スポーツクラブではなくプラットフォームという方法を選びました。私たちは、あくまで地域と子どもたちをつなぐ橋渡し役です。また、スポーツを始めるハードルを下げることも目的の1つ。スポーツクラブは会費が発生しますし、『体験に行くと勧誘されるのではないか…』と心配する人も少なくありません。プラットフォームなら1回だけの経験ではなく、気軽に何度も参加できますよね。ですから、『スポーツを始めたいけれど勇気が出ない』という子どもや親御さんも使いやすいと思いました。」

もちろん、中にはスポーツにまったく関心のない子どももいるだろう。しかし、そうした子どもたちを引き込むことも、横田氏は課題と捉えているようだ。今は、子どもたちの成長にもっとも深く関わる保護者へ働きかけている最中。イベント開催やSNS発信などすぐ始められる取り組みはもちろん、学校や教育委員会ともつながりながら理解を促進していこうと考えているようだ。

「協育」を軸に地域が活性化する

地域で子どもたちを育てることは、地域そのものにも好影響がありそうだ。横田氏も、この取り組みが地域活性化にもつながると考えている。

「例えば、送迎ができなくて参加が難しい子のためにバス会社が協力してくれたり、お弁当屋さんが栄養のある食事を提供してくれたり。そうやって、地域のつながりが増えます。子どもたちは街の新しい側面を知ることになりますし、地域全体に子どもを育てる意識が芽生えれば、防犯にもつながるでしょう。地域が回ると、さまざまな相乗効果が生まれるんです。」

さらに地域での協育は、学校の関連性においても良い効果が期待できるようだ。 

「大きいのは、地域と学校の結びつきが強くなって負担が分散され、先生が子どもたちの教育に集中できるようになること。現状では学校に教育のしわ寄せが行き、何でも屋さんのようになっているケースが少なくありません。最近は、学校でもテストの点数だけでなく、総合的な学習が重視されるようになっています。これは主体性や問題解決能力、自己肯定感などを伸ばすための取り組みです。私たちも実際に富士見市(埼玉県)の小学校と連携しながら、総合的な学習に携わっています。そういう点も、地域のつながりがもたらす好影響ではないでしょうか。」

コエドスポーツの運用を始めてから約3ヶ月。少しずつではあるものの、目指す成果が出てきていることを肌で感じているようだ。

「さまざまなクラブに参加しながら自分に合うスポーツを探したり、違う動きを身につけるために新たなスポーツを始めたり。各家庭が目的を持って活用しているようです。また、私たちの考えに賛同した個人や団体が、活動を後押ししてくださることもあります。子どもたちの未来を育むために、これからも地域一丸となって支援していきたいですね。」

教育に関する問題は、「これをやれば良い」と一元的に解決できるほど単純ではない。地域が一体となった“協育”は、子どもたちをより明るい未来へと導く可能性を秘めているのではないだろうか。現在はスポーツのみならず、仕事においても“個”が注目されるようになっている。だからこそ、地域としてのスポーツ教育のあり方を、今一度考えるときが来たのではないだろうか。

※資料・写真提供:横田氏

<参考・出典>

横田 泰成(よこた たいせい)

株式会社weclip代表取締役。スポーツブランド「アンダーアーマー(Under Armour)」の日本総代理店である株式会社ドームで、Vice Head of Corporate Div. 兼 Head of CFO Office(コーポレート本部副本部長 兼 CFO室室長)も務める。

<所有資格>
・全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会 Kids Hight Performance Specialist
・スポーツメンタルトレーナー

[著者プロフィール]

紺野 天地(こんの てんち)

スポーツを専門ジャンルの1つとするフリーライター。「熱量を伝えること」を信条としており、その人ならではのストーリーや取り組みを取材している。取材記事のほか、エッセイやコラムも執筆。

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By 紺野 天地 (こんの てんち)

スポーツを専門ジャンルの1つとするフリーライター。「熱量を伝えること」を信条としており、その人ならではのストーリーや取り組みを取材している。取材記事のほか、エッセイやコラムも執筆。

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