トライアスリートの古山大選手に、前回は競技の魅力や具体的な種目別アドバイスなどを伺った。9歳から競技を続け、2020年1月には独立してプロに。インタビューした際は、ちょうど海外遠征からの企画直後というタイミングだった。そんな古山さんは、果たして何を目指し競技しているのか。プロとして独立した背景などと共に、詳しくご紹介しよう。

目次

世界で戦うために選んだプロの道

流通経済大に在学中は、2015年の全日本学生トライアスロン選手権や2017年のU23トライアスロン選手権で優勝するなど、素晴らしい成績を残している古山さん。学生時代、前半はとにかく各種目の練習ボリュームを確保するよう意識していたとのこと。そして、後半は身体的特性から『スピード』に弱点を抱えていることがわかり、そこの強化を重点的に行いつつベースとなる部分の練習は怠らないよう取り組んでいたという。そして大学卒業後、古山さんは実業団選手として活動を始めた。

「プロになる前は企業に会社員で所属する、実業団選手として競技していました。仕事は週1~3回の午前中のみで、あとは練習時間。自分の目標と同じくらい、会社としての利益を自分たちの活動でどうしたら増やせるのか、または社員の方々にどうやったら還元できるのかを考えて競技をしていました。」

しかし、事業団選手となってから2年弱が経ち、古山さんは独立してプロとなる。その理由について、現在の活動内容と共にお話を伺った。

「プロになろうと決断したのは、もっと幅広い可能性の中で、世界トップ選手たちと世界トップの場でレースするという自分の目標を目指してみたかったからです。また、本当にトライアイスロンという自分の武器一つで、どこまでできるのか試してみたいという思いもありました。プロとなった現在、基本は日々の練習とシーズン中は海外を中心とした世界ランキング対象大会を転戦。レースがないとき、あるいはオフシーズン中はイベントに出て指導を行うこともあります。」

世界で戦うためにプロとなり、挑戦し続けている古山さん。トレーニングや大会のほか、プロとしての普段の生活や、考えなどもブログで発信している。

プロとしてのやりがいと困難

高い志の中でプロとして独立した古山さん。イメージと違った部分はありながらも、自身にとっては適した環境と捉えて日々取り組んでいる。

「意外と、練習だけしていればいいわけじゃないんだな…というのが、プロになってからの最初の感想です。ですが、それも含めて『トライアスロンでどこまで行けるか試す』という部分にかかってくるので、苦ではありません。練習や活動について、思いついたらすぐ行動できるのは大きなやりがいです。ただ、何も考えずに始めてしまって、上手くいかなかったことも多々あるのですが…。それ以外には、コーチやデータなど自分に必要なものを、自分で探して自分なりに分析し、競技に取り入れていけることも以前との違いです。逆に言えば、自分から動かなければ何も始まらないし、何もできないということ。でもそれが、自分にはかなり性に合っています。」

大きなやりがいを感じ、競技と向き合えていることが感じられた。しかし一方、プロとして競技する中では、やはり困難もあるようだ。

「有難いことに、私はスポンサーとなる企業がついてくださっており、活動ができている状況です。しかし、トライアスロンはレースの賞金額が高くないため、それだけで生活(活動)することが難しくなっています。さらに、昨今は国内のエリートレースが減っており、活動(レース出場)するには海外に出なければなりません。そうなれば活動費が高額になるので、これは難しい点かもしれません。」

金銭面での課題は、トライアスロンに限らず多くの競技に共通するものかもしれない。古山さんはクラウドファンディングなどにも取り組みながら、自身でこの課題を解決できるよう取り組みながら競技している。

目標に向けた課題と具体的なアクション

さまざまな困難も乗り越え、トライアスロンという競技に打ち込み続ける古山さん。その根底には、明確で高い目標がある。

「現在のポイントから、一番手前にある目標は『WTCS(ワールドトライアスロンチャンピオンシップシリーズ)を転戦すること。そして、パリオリンピックへの出場です。この目標を達成したら、さらにその先の目標や、自分がトライアスリートとして掲げている最大の目標にもチャレンジできるようになります。そのため、ここの目標達成は重要です。しかし実際のところ、まだまだ競技力は足りないと感じています。そこで、今取り組んでいるのは筋力トレーニング。私は身長が165cmと日本人の中でも小柄な選手で、海外に出ると他選手と首の角度を変えずに話すの難しいくらい、圧倒的に小柄なんです。そういった弱点を克服するべく、体の基礎的な部分を強化するために、筋力トレーニングを取り入れ始めています。』

明確な目標、そして達成するうえでの課題を持って、具体的なアクションを起こしている古山さん。インタビュー直前にはアフリカに遠征しており、そこで感じたことについても話してくれた。

「海外のレベルは上がってきていて、日常が戻りつつあることを感じました。海外では以前のように毎週どこかでレースが行われており、それを転々とするという生活が戻ってきています。レースに対する体の慣れが、海外選手はもう終わっているようでした。私は3年振りに海外大会に出場しましたが、以前の感覚でレースしていたら、もう駄目だなという感じ。自分も十分に強くなっていったつもりでしたが、それ以上にレベルが上っており、海外勢よりもさらに早い速度で成長していく必要があると感じました。また、海外は日本と比べて、良くも悪くも適当な印象です。抜くところは抜いて、必要なところだけ締める。そんな、メリハリのメリとハリの落差をさらに激しくしたような感じでしたが、それが強さの秘訣なのではと思うことも多かったです。」

WTCSやパリオリンピックは、決して遠い未来の話ではない。特にトレーニングを重ねる中では、もっと時間が欲しいと感じることも多いだろう。だからこそ、古山さんはしっかり目標への道筋を見据え、これから取り組むべきことについて計画を持って取り組んでいる。

「今後はとにかく海外遠征を繰り返し、経験とポイントをためて、一日でも早く世界ランキングを上げていこうと考えています。今は中休みの期間でレースに出ていませんが、この期間でしっかり練習を積み、後半シーズンは一発目から好成績を収められるように準備していきます。」

その純粋なトライアスロンへの思い、そして目標達成に向けた強い決意に、お話を伺っていて心を打たれた。海外遠征を繰り返す中では、もちろん先ほど話題に挙がった金銭面の課題はもちろん、海外大会で高いパフォーマンスを発揮するための計画的トレーニング等も欠かせないだろう。しかし、どんな困難に遭遇しても、きっと古山さんは直向きに突き進んでいくのだろう。

「海外遠征に行ったり、色んなことに手を出したりと落ち着きのない私ですが、目標に向かって精一杯に進んでおります。その甲斐もあって、もう少しで子どもの頃からの夢に手が届きそうです。ここから先は、正念場の連続となるような状況が続くことでしょう。ぜひ皆さまに、引き続き熱いご声援を送って頂けるとありがたいです!」

古山さんは海外遠征中、現地の雰囲気やレースの状況などをSNSで発信している。この先にどのような未来が待ち構えているのか、ぜひその姿を見守り、応援していきたい。

古山 大(ふるやま たいし)

1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。

<主な戦績>
2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝
2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝
2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位
2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位
2021年「日本トライアスロン選手権」4位

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[著者プロフィール]

三河 賢文(みかわ まさふみ)
New Road編集長。“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表、NPO法人HASHIRU理事。
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By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

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