ラグビーを知らない人でも聞いたことがあるほど、世界中で有名な「オールブラックス」。これはラグビーニュージーランド代表の愛称で、試合前に行われる「Haka」でもおなじみだ。ラグビーワールドカップ優勝3回(最多タイ)、2003年から導入された世界のランキングでは2009~2018年の間に1位を保持するなど、通算でも8割以上の確率で1位を維持している。また、テストマッチ(国の代表同士の試合)ですべての対戦国に勝ち越しているのは、オールブラックスの他にはない。スポーツ界で、もっとも成功していると言っても過言ではないだろう。

人口が500万人ほどの国ながら、なぜ常に世界でトップを争うことができるのか。実際に私は若い頃に単身でニュージーランドに行き、現地の本場のラグビーに挑戦した肌で感じた経験、怪我後引退して外側から見ることになって気づいたことなど、内外両方の視点からニュージーランドのラグビーについてご紹介しよう。

▼参照
オールブラックス公式サイト
WIKIPEDIA国際ラグビーユニオンチームの記録
ALL BKLACKS MATCH CENTRE

目次

ニュージーランドラグビーの組織

ニュージーランドラグビーは一言でいえばピラミッド型組織になり、大まかには以下4つに分けられる。

  1. 国代表(オールブラックス)
  2. スーパーラグビー
  3. 州代表
  4. 各地域のクラブラグビー

ニュージーランドのラグビーの根本を支えるのが、一番下の地域の「クラブラグビー」だ。その地域のクラブラグビーで活躍すると、その上の州(地区)代表に選ばれる。さらに州代表で活躍すると世界最高峰リーグと呼ばれる「スーパーラグビー」でプレイすることになるが、昨年は日本代表の姫野和樹選手がニュージーランドのハイランダーズで活躍した。そしてスーパーラグビーで活躍すれば、皆の憧れである「オールブラックス」に選出される。ただし、ニュージーランド国外の実力ある選手が、クラブラグビーを飛び越えて州代表やスーパーラグビーのチームと契約し、プレイするケースもある。

ニュージーランド式のラグビーの良さは、一番下のクラブから一番上の国代表まで繋がっていることで、実力があればそのまま上に行けることだ。コーチングや育成などは、各地域のどのレベルにも共有されている。さらに4つの各組織それぞれにグレードがあり、グレード毎に試合が行われるので、試合経験が積めて選手にチャンスが与えられるのだ。このピラミッド型組織が、揺るぎない強さを誇る理由と言えるだろう。

私がニュージーランドのラグビーに挑戦した際には、クラブラグビーで何年かプレイした。選手の体は大きくスピードもスキルもあり、クラブラグビーでも非常にレベルが高いのに驚かされたものだ。そして同時に、ニュージーランドラグビーの強さを肌で感じ取ることができた。

ニュージーランドと日本のラグビーの組織の違い

日本のラグビーに目を向けると、もっとも高いレベルでラグビーをするには、リーグワン(旧トップリーグ)に参加している企業チームへの所属が条件になる。仮に日本においてクラブラグビーでプレイしても、もっとも高いレベルのラグビーに触れることはないだろう。もともと大きな大会は、企業チーム主体で行ってきている。これは日本ラグビーならではのことだが、その良し悪しの判断は難しい。

ニュージーランドでは、高校を卒業して実力のある選手はクラブのトップグレード、各地区の州代表に参加して経験を積み、10代でスーパーラグビーに出場する選手もいる。若くして高いレベルが経験できるのも、日本と大きな違いになるだろう。日本は高校で活躍した選手のほとんどが大学に進学し、4年間そこでプレイする。大学進学を選択した選手がリーグワンでプレイするのは、早くても大学卒業後からと言うことになるのだ。一年目からすぐレギュラーになれる選手は多くない。リーグワンで試合に出れるようになるには、さらにそこから数年かかることになる。

大学進学が一般的であることを考えれば、少なくとも日本とニュージーランドでは4年間の差が生じる。これは、日本の大学レベルが低いと言いたいのではない。リーグワンという、大学よりレベルの高いところでプレイする機会が遅くなるという意味だ。すでに触れたように、ニュージーランドでは各グレードで試合が行われる。しかし、日本は一軍以外の試合が多いとは言えず、選手が試合経験を積む機会はニュージーランドより少なくなる。

ニュージーランドラグビーを支えるパシフィック系の選手たち

オールブラックスの選手には、サモア、トンガ、フィジーなどニュージーランド近郊の国のパシフィック系の選手が多くいる。彼らは体が大きく、スピードもあるのでラグビーにもってこいだ。実力のある選手は、常に世界のトップを争うオールブラックスになる夢を持って移民してくる。スーパーラグビーやオールブラックスでプレイすれば、収入も上がるので尚更だ。

オークランドやウエリントンなど大きな都市の高校やクラブラグビーでは、たくさんのパシフィック系の選手がプレイして経験を積んでいる。私はオークランド地区のクラブラグビーでプレイして2つのクラブを経験したが、いずれも8割以上がパシフィック系の選手だったし、対戦相手も多かったイメージが強い。彼らのとんでもなく分厚い体に驚かされたが、それが彼らの体の強さの秘訣だと一緒にプレイしていて感じた。もちろん、相手チームにもたくさんパシフィックの選手がおり、タックルで倒すのに苦労した。彼らはクラブラグビーをはじめスーパーラグビーでもたくさんプレイしており、ニュージーランドラグビーを支えていると言っても過言ではない。

ラグビーが国技であり人気もダントツ

ニュージーランドのラグビーが強い理由は、国技であり人気もダントツだということも大きいかもしれない。例えばテレビCMでは、オールブラックスを中心にラグビーのスター選手が頻繁に登場する。試合をすれば強くカッコいいので、必然的に子供たちはオールブラックスに憧れてラグビーを始める。

また、小さな田舎町でもラグビークラブがあり、近所を散歩していても普通の公園にラグビーポールが立っているなど、身近にラグビーする環境がある。育成も子供から大人のレベルまでしっかりしているため、才能を開花させやすいと言えるだろう。

観客も目が肥えており、スタジアムに行けば性別年齢に関係なくさまざまな人がいて、何より誰もがラグビーをしっかり語れることに驚かされる。常に注目されているため、選手は下手なプレイができず手が抜けない。これも、良い刺激になっているのかもしれない。オールブラックスが負けた日は、まるで“この世の終わり”のような雰囲気になる。そのプレッシャーで選手たちが委縮してしまうこともあるが、いずれにしても、国民に見守られながらラグビーできる環境があることは強さの秘訣だろう。

ニュージーランド国内では、オールブラックス、スーパーラグビー、州代表の試合は有料放送のSky TVで全試合が放送される。オールブラックスの試合に限っては、ライブではないものの時間をずらして必ず無料で放送があり、誰もがオールブラックスの試合をTVで見られる。世界最高峰のスーパーラグビーやオールブラックスの試合は、日本なら2022年はWOWOWで視聴が可能。オールブラックスをはじめ、エキサイティングな展開を披露するスーパーラグビーを観て、ぜひ多くの方々にニュージーランドラグビーの凄さを楽しんでいただきたい。

By 松尾 智規 (まつお とものり)

ニュージーランド(NZ)在住。野球少年がレギュラーの座を捨てて高2でラグビー部に転向。無名校ながら花園が狙える位置まで押し上げるなど活躍が認められて企業チームへ。挫折を経験するもオーストラリア遠征を機に海外ラグビーに挑戦したいと思い立ち、全く英語が出来ないのにNZの現地のチームに飛び入りで挑戦。3シーズン繰り返すほどNZラグビーの虜に。その後、NZに永住してプレイを続けるが度重なる脳震盪の影響と最後は首の怪我で一線を退く。 後遺症と向き合い、地道にリハビリの日々を重ねながらライターとして活動中。スポーツだけでなく、投資、料理、お菓子作りなど幅広く興味を持っており、オジサンながらNZの地でラグビー復帰を狙う。