スポーツ競技者にとって、パフォーマンスを維持することはとても重要だ。これはプロアスリートだけでなく、一般競技者も同じことが言えるだろう。私もマラソンやトライアスロンに取り組んでいるが、日々のセルフケアや栄養、睡眠などにはある程度の配慮を欠かさない。これは大会後だけでなく、日常のトレーニングでも同様である。

そうした際に着目したいのが、「リカバリー」という概念である。今回、リカバリーの重要性や具体的な方法などについて、株式会社Recovery Adviserで代表を務める福田英宏氏に詳しくお話を伺った。

目次

休養の大切さを知ってもらいたい

福田さんは7年ほど前に独立し、休養や疲労回復などに関するアドバイスを提供。Jリーグやプロ野球、水泳チーム、箱根駅伝チームなど、多種多様な競技分野にて実績を持つ。その他、ウェアやマットレス、入浴剤といったリカバリー商品を開発するメーカーに対してコンサルティングも実施。また、「休養をもっと身近に感じてもらいたい」という思いから、日本リカバリー研究所を立ち上げて活動している。

「運動・栄養・休養という3の要素が大切なのですが、休養だけは学問として確立されていません。そのため、最後に据えられることが多く、知識のない人やチームなどが多い。休養と言えばただ寝るだけ、風呂に入るだけなどとしか捉えていない方は多いでしょう。また、リカバリーに関するメーカーは増えていますが、1社だけではできることが限られます。関連するメーカーや人を知ってもらう、プラットフォームとして日本リカバリー研究所を作りました。」

福田さん自身もスポーツ経験があり、小学校5年から大学まで、本格的に水泳競技に打ち込んできた。また、大学卒業後にショートのトライアスロンへ挑戦し、日本選手権に出場している。東京マラソンは第1回大会を仲間と走り、トレイルランニングの大会も走破。現在は休養中とのことだが、最近はウォーキングをはじめ、改めて少しトレーニングを始めようか考えているという。

独立前はリカバリーウェアの会社に就業し、その間に早稲田大学へ通って修士を取得した福田さん。2023年からは論文博士を目指すべく早稲田の招聘研究員として、ジュニアアスリートの疲労回復や睡眠の研究を行なっている。

「私が競技していた時代は、栄養すら今のように充実していませんでした。しかし、一方で休養はとても大切だと思っていたんです。現在は疲労について自律神経へのアプローチが中心となっていて、睡眠で語られることは多くなりました。しかし、15年前は自律神経について着目するなんて、ありえなかったんですよ。」

競技者であった頃から、休養の重要性については意識していたという福田さん。運動や栄養について取り上げられることは多いのに、なぜ休養は後回しになっているのか。その違和感こそ、福田さんが専門家として休養を突き詰めるようになったキッカケのようだ。

人が疲労するメカニズム

そもそも、人はなぜ疲労するのだろうか。身体を動かせば疲れるのは当然と捉えていても、疲労するまでに何が起きているのか、そのメカニズムを理解している人は少ないだろう。

「少し前までは、乳酸が疲労原因だと言われていました。しかし現在は、自律神経にその要因があるとされています。『脳原因説』と呼ばれるもので、身体ではなく脳で疲労を感じているとする考え方です。つまり、自律神経を酷使した結果が疲労ということ。例えば、走り始めると体温が上がり、心拍数が増えると活性酸素(酸素ストレス)が増えます。その結果、脳が疲れて疲労感になるというわけです。夏になると、疲れていなくても朝起きたときダルさを感じることがありますよね。これは、暑さが故に脳から『身体の温度を下げろ』という指令が出され続けるからなんですよ。」

また、自律神経は生活上の呼吸や消化吸収、心拍などにも影響しているとのこと。しかし、この自律神経を自分の意志でコントロールすることはできない。自律神経には『交感神経』という活動的なアクセルのようなものと、『副交感神経』というブレーキのような役割のものがある。リカバリーのうえでは、どうやって副交感神経を優位にするのかが重要なのだと福田さんは話す。

「特にスポーツ競技者は交感神経が多くなりがちです。その理由は、通常なら休んでいる時間にトレーニングが入るから。子どもでも、親がレギュラーに入らせたいといった理由で、学校の練習以外にもスクールへ通わせたり、朝練に取り組ませたりすることがあるでしょう。これでは、副交感神経になる間がありません。」

確かに一般の方から比べても、スポーツに取り組んでいると活動的な時間は多くなる。自然と副交感神経が優位となる時間が減ってしまい、休養が不足してしまうケースがあるというわけだ。しかし、高いパフォーマンスを維持しなければいけないスポーツ競技者にとって、本末転倒と言えるのではないだろうか。

疲労と競技パフォーマンスの関係

休養の不足によるデメリットは、パフォーマンスの低下だけではない。例えば国際オリンピック委員会は8時間半~9時間半の睡眠を推奨しているそうだが、睡眠は休養手段の最たるものと言えるだろう。睡眠時間が足りないと怪我しやすくなり、それ故にトップアスリートにも睡眠時間を重視する声は多いようだ。

「十分な休養が取れると、スピードやスキル、やる気が高まります。しかし、単純に長く睡眠時間を確保すれば良いというものではありません。例えばスマートフォンからは電磁波が出ていて、交感神経が優位になりがちです。本来なら睡眠中は副交感神経が優位なはずなのに、これでは時間だけ確保しても休まっていません。量は大切ですが、同じくらい質も大切なんです。朝起きてクリアな状態になっているはずなのに、午前中から眠いといったことがありますよね。この場合、量か質、あるいは両方が足りていないことが考えられます。」

スマートフォン以外にも、電磁波は冷蔵庫や電子レンジ、ホットカーペットなどからも出ている。そのため、睡眠時にはこうした家電製品等も近くに置かず、できるだけベッドだけが置かれた空間にすることが望ましいそうだ。また、その他にも日常において交感神経が働きやすいシーンを教えてくれた。

「ミスが許されない状況、炎天下や暑熱下、あるいは至近距離を見続けることなどでも交感神経が働きやすくなります。そのため、何か達成感があることに生きがいを見出す方は、自然と脳内の興奮物質や快感物質が『疲れていない』と勘違いさせてしまい、なかなか休まらないことが多いでしょう。まさに、スポーツ競技者がこれに当たるのではないでしょうか。上手くリカバリーしながら取り組めれば良いですが、短期間でやり過ぎると、結果として上がり切れないかもしれません。特に睡眠時間を削って練習することなどは、ケガを繰り返すなど負の連鎖に陥りやすいので注意してください。」

眠気覚ましに用いられるカフェインも、交感神経が優位になる。そのため、どうしても必要なタイミングのみとし、その場合でも大量の摂取は避けた方が無難なようだ。改めて、自身の環境やスポーツへの取り組み方などを見直してみてはいかがだろうか。

睡眠の役割と不足することでのリスク

例えばランニングに取り組む人は多いが、休み方を知っている人は少ない。そのためには睡眠が重要で、睡眠中は大脳を修復している。睡眠が果たす役割は、具体的に以下の通りだ。

  • 脳と身体の休息
  • 記憶の整理、定着
  • 情動の整理
  • ホルモンバランスの調整
  • 免疫力を上げる
  • 脳の老廃物を取る

特に「記憶の整理、定着」は、スポーツ競技において重要になる。睡眠が不足していると、練習していても「ただ参加している」だけでパフォーマンスに繋がっていない。また、脳の老廃物が除去できないと、新しいものが入ってこないという。

「休養は、パフォーマンスを上げるための練習の一環です。だからこそ、ちゃんと確保しなければいけません。余った時間を睡眠時間に当てるのではなく、睡眠時間は一定にすること。寝ることも練習の一部だと考えていただきたいですね。」

では、睡眠時間が少ないと、どのようなリスクが考えられるのだろうか。先ほど怪我について触れたが、それ以外にもさまざまな事態が考えられる。

「オスグットのような病気の要因になりかねないほか、トレーニングしても筋肉がつきにくくなります。身長が伸びにくくなる懸念もあるので、成長期は注意してください。また、日ごろから疲れやすく、朝起きられなくなるといったリスクも考えられるでしょう。」

スポーツ時のパフォーマンスのみならず、睡眠不足は日常生活や子どもの成長にも影響を与えるとのこと。質と量の両方を踏まえ、十分な睡眠を確保したい。この睡眠については、レム睡眠とノンレム睡眠の違いについても知っておくことが重要なようだ。

ノンレム睡眠は脳も体も休んでいる、身体のメンテナンス時間です(神経や血管がしっかり休む時間)。成長ホルモンや新陳代謝、免疫などに影響するので、短い時間なら、いかに睡眠の質を高めるかに着目してください。ノンレムが浅いとレムも浅くなるため、ちょっとした音などで起きてしまうようになります。一方、レム睡眠は脳は起きているものの、身体が休んでいる状態(記憶定着、骨格筋の疲労回復の時間)。夢を見ているのはレム睡眠です。」

レム睡眠とノンレム睡眠。言葉こそ聞いたことはあっても、違いを正しく理解している人は少ないだろう。昨今は睡眠状態を分析するデバイスも登場しているので、そうしたものを活用し、ご自身の睡眠を定期的にチェックしてみるのも良いかもしれない。

睡眠の質を高めるための方法

1日は24時間だが、人間の体内リズムは24.18時間で少し長い。このずれを調整するのが、光、食、運動、人との関わりなのだという。これらを通じて、私たちは体内時計をリセットしているのだ。そのため、朝は明るい光を浴びるのがおすすめだと教えてくれた。

「朝起きたら、5分以上は明るい光を浴びましょう。セロトニンが分泌されると良いのですが、それには2,500ルクス以上の明るさが必要で、室内照明では足りません。光を浴びると自動でリセットされて、夜になるとメラトニンに変わって眠くなります。アスリートの中には、光目覚まし時計を使っている方が多いですね。太陽が昇ったら起きて、沈んだら寝るのが本来の体内リズムなのですが、人工照明ができた時点で崩れてしまっているんです。」

また、食事においてはトリプトファンを多く取ると良いのだとか。トリプトファンは日中にセロトニンに変化し、夜になるとメラトニンに変化して睡眠を促してくれる。その際、ビタミンB6も一緒に摂るのがおすすめなのだとか。トリプトファンはヨーグルトや牛乳、ピーナッツに、ビタミンB6は玄米、豚肉、ニンニク、ショウガなどに多く含まれる。なお、バナナや豆腐、豆乳、納豆は両方を含む食べ物なので、朝食におすすめだ。そして、睡眠の質を上げるのに良いのが豆類、ごま、わかめ、野菜、魚、しいたけ、いも類。セロトニンをしっかり出すには咀嚼が大切なので、例えばスマホを見るなど“ながら”の食事は避けた方が良いようだ。」

「私は朝起きたら、うがいして水(もしくは白湯)を飲んでから食事します。寝だめは良くないので避けましょう。体内リズムが崩れると、直すのに3日くらい掛かってしまいます。多く寝たいのであれば、できるだけいつもより2時間以内に留めること。それでも足りない場合は、15時前までに20~30分程度の昼寝を取り入れてみてください。そして、寝る1時間前は照明を暖色系に変えるなど、部屋の明かりを少し落とすこと。そうしないと、メラトニンが減少してしまうんです。特に、子どもは光の刺激を大人の3倍感じるので注意してください。」

運動した後は移動中の電車で居眠りしてしまったり、帰宅後にソファでうたたねしてしまったりすることがあるかもしれない。しかし、寝る前はしっかり起きておくことが重要なのだという。そして、日中にしっかり身体を動かすこと。身体的に疲れていると、睡眠が深くなりやすいそうだ。

「深部体温が一度上がり、下がってきたタイミングで寝るのがおすすめです。お風呂は浮力のリラックス効果、水圧の血流促進、温熱による自律神経コントロールが期待できます。ただし、お風呂も温度に注意してください。38~40度だと副交感神経が優位、それ以上だと交感神経が優位。38~40度のお風呂に10~15分くらい入ると、深部体温が90分後くらいに下がってきます。入浴が難しい場合は、ぬるめのシャワーを浴びましょう。」

また、食事は一般的に3時間前までと言われるので、起きる時間から逆算して考えることが大切なのだとか。起きる時間を基本的に一定とし、そこから寝る時間を考える。そして入浴を1時間半前、食事3時間前とすることで、睡眠の質が高められるのだという。スポーツに取り組んでいるなら、「勝ちたい」「記録を出したい」といった目標を持っている人が多いはず。それならば、休養への工夫もぜひ考えたいものだ。その他に注意したい点もいくつか教えて頂いたので、以下にまとめておこう。

  • 室温は夏なら26~28度、冬は16~19度。身体は冷やし過ぎるのも良くない。
  • 寝室の明るさは5ルクス(真っ暗じゃない程度)
  • 寝る前に500ルクス以上の光、特に青白い光を浴びない
  • 眠くなってから寝床に入る
  • 寝床では寝る以外のことをしない

せっかく布団に入ったのに、つい考え事が頭に浮かんで眠れないという方がいるかもしれない。そういった場合は、一度戻って寝床を出ること。眠くなったら布団に再び入ろう。例えばアロマを焚くなど、3つくらい寝るまでのルーティーンを持つのがおすすめ。スマートフォンなどは前述した電磁波の影響もあり、寝床では使用しないようにしたい。

さまざまなリカバリーアイテム

福田さんは自己管理という点で、可視化することを重視しているという。データが指標になり、主観を可視化することで改善、継続できるという。現在は睡眠やストレス状態など、目に見えない情報を可視化できるデバイスがたくさん登場している。目的に合わせ、そうしたデバイスを使用してみるのも良いだろう。また、それ以外にリカバリーアイテムの活用もおすすめだ。

「リカバリーアイテムとしては、リカバリーウェアが主流になってきています。ただし、自律神経や血流促進、抗酸化作用など特徴はさまざまです。例えばリフランスは一般医療機器であり、自律神経に作用して副交感神経が優位になるアイテムです。使用するならパジャマが良いですね。ボタンがあるから通気性が良く、ゆったり作られています。寝るときは綿、麻、シルクが良いのですが、リフランスは綿です。寝るときだけでなく、練習後にリカバリーTシャツを着れば、そこから回復が始まります。いかに早く副交感神経を優位にしていくかが重要なので、ぜひ活用してみてください。」

副交感神経から交感神経には、ちょっとした刺激などですぐ変わる。しかし、逆はなかなか変わらないのだとか。その点で、リカバリーアイテムをいかに上手く使うかは、とても重要なのだという。実際にリフランスの製品を試させてもらったが、着用することで筋肉が緩むため、少しの時間だけで腕の可動域が大きく変わった。

その他、電磁波を軽減してくれるコイル、振動によって身体を整える器具、疲労軽減の効果が期待できるアイスバスなど、リカバリーアイテムは多種多様だ。最近、特に福田さんが注目しているという『分子整合栄養』は、食べたものがちゃんと吸収されているかどうかが分かるのだとか。さらに入浴の質を高めるパウダー等もあり、福田さんの鞄からは驚くほどの量のアイテムが登場した。こうしたアイテムがあること自体、まず知ることが大切なのかもしれない。以下に、今回の取材で教えて頂いたアイテムをご紹介しておこう。

  • リフランス(リカバリーウェア)
  • エーエス(アスリート ヘア&ボディシャンプー)
  • 医王山のちから(バスパウダー・抗酸化ウェア)
  • CLAYD(クレイ入浴剤)
  • G-ZERO COIL(ゼロ磁場コイル)
  • VFOODS(超高栄養スープ)
  • スマートパルス(ストレス、自律神経機能、血管状態等の分析機器)
  • AIROFIT(呼吸筋トレーニングデバイス)
  • CRYO CONTROL(アイスバスシステム)
  • ウェルネー・スリープ(睡眠の質モニタ)
  • NOWVITA(動的ストレッチマシン)

この中から今回はリフランスのリカバリーウェア「コンフォートドライ Tシャツ メンズ」を、本記事をご覧の方々から3名にプレゼントとしてご提供いただいた。本製品は吸湿性と放湿性に優れた、涼しくてドライな生地を採用したTシャツだ。カラーは「ブルー(M/Lサイズ)」「ブラック(Mサイズ)」の2色。運動後の着用や就寝時に着るのも良いだろう。ぜひこの機会に、リカバリーウェアを試してみてはいかがだろうか。

リフランス商品ページ

福田 英宏 (ふくだ ひでひろ)

株式会社Recovery Adviser代表取締役。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科を卒業後、株式会社Recovery Adviserを立ち上げて独立。「休養」「疲労回復」の専門家として多くのアスリートやスポーツチーム、競技団体の競技力向上をめざした休養サポートを行う。現在は疲労回復に着目した商品開発を行うメーカーと連携したコンサルティングのほか、治療院との市場開発、健康経営セミナーも積極的に行っている。また、2人の子育てを通して将来の体づくりの基本となるジュニア期の休養の大切さをあらためて実感し、ジュニアアスリートのための「休育」講演、セミナー、個別相談にも力を入れている。

  • 早稲田大学大学院スポーツ科学研究科(修士)
  • 早稲田大学スポーツ科学研究センター招聘研究員
  • 日本リカバリー研究所 所長
  • 睡眠改善協議会 睡眠改善インストラクター
  • 日本健康開発財団 温泉入浴指導員
  • 分子整合スポーツ栄養アドバイザー
  • 眠りにいい宿認定員
  • Wasedaウエルネスネットワーク講師
  • 日本スポーツ産業学会 正会員
  • 一般社団法人 日本ホームヘルスコーチ

ホームページ】【Instagram】【Facebook】 

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。