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スポーツする人と飲酒量の傾向

先日、カリフォルニア州の某所で行われたフルマラソンに参加した際、前方を走っていたある女性ランナーに思わず目を奪われた。着ていたTシャツの背中には大きなビールジョッキの絵が描かれ、そして「乾杯するまでがマラソンでっせ」と日本語で書かれていたからだ。その女性が日本人であったのかどうかまでは分からない。他にもコース脇に立って、「ゴールしたらビールが待っているよ」といったメッセージボードで応援してくれる人はどのレースにもいる。

マラソンランナーに限らず、スポーツする人には酒好きが多い。これは、考えてみると不思議な話だ。アルコールが身体にさまざまな悪い影響を及ぼすということは、今さら言うまでもない。スポーツで真剣に結果を求めるならば、アルコールの摂取を控えてもよさそうなものだからだ。これがタバコであったら、間違いなくスポーツへの真剣度と喫煙率は相反するだろう。

38,000人のフィットネスレベルとアルコール摂取の関係を大規模調査した医学研究

フィットネスレベルが高いグループは、低いグループと比べてより多くの酒を飲む。しかし、アルコール依存症にはなりにくい。そんな酒飲みに都合の良すぎる話があるわけがないと思うかもしれないが、20218月に米国大学スポーツ医学雑誌に掲載された論文(*1)が結論でそう述べているのだ。

*1. Fit and Tipsy? The Interrelationship between Cardiorespiratory Fitness and Alcohol Consumption and Dependence

この論文を発表したのはテキサス州の医学調査研究所『Cooper Institute』である。60年代から米国空軍でエアロビクスを提唱したことで知られる、ケネス・H・クーパー (Kenneth H. Cooper)博士によって1970年に創設された。博士は12分走のタイムからVO2maxを推測する「クーパー・テスト」の考案者でもある。

この研究は20歳から86歳まで(平均年齢45.9歳)の健康な一般人38,000人を対象とした。これは、健康診断のためにクリニックを訪れた人たちだ。被験者たちは限界までトレッドミルを走るテストを実施。その結果から、性別と年齢に応じて心肺フィットネスレベルを5段階に分けられた。もっとも高いグループでも男性のVO2max46.9 ml/kg/min以上が基準値だということだから、競技ランナーのレベルではない。あくまでも、一般的なフィットネスレベルをグループ分けしたものである。

アルコール摂取量は「週にどれだけの量の酒を飲むか」という質問への回答から、やはり5段階に分けられた。週にグラス3杯以下がもっとも低いグループ、14杯以上がもっとも高いグループである。なお、あくまで自己申告によるものであるため、アルコール摂取量に関しては厳密な判定方法ではない。

結果として、フィットネスレベルが中~高のグループは、アルコール摂取も中~高のグループに入る確率が高いことが分かった。フィットネスレベルが低のグループと比較すると、その確率は倍以上にもなったという。また、VO2maxのデータとは別に「日常的にどれだけ運動するか」という質問への回答からも、同じパターンの結果が出た。つまり、運動量が多い人の方がよくお酒を飲むということだ。

運動量とアルコール摂取の関係はなぜ生まれるのか

ここからは筆者による推測だが、運動量とアルコール摂取量が比例するとすれば、それは恐らく身体的なことより心理的な要因が大きいのではないだろうか。運動すればアルコールに強い体質になるわけではないだろうし、その逆はますますあり得ない。それよりも、運動する行為がアルコール摂取への心理的抵抗感を減らしているのだと筆者は考える。運動という「身体に良い」ことをしたのだから、「身体に悪い」お酒を飲んでもいいじゃないか。そうと思う人が、世の中には多いのではないだろうか。

普段はダイエットに励む人がチートデイには思う存分スイーツを食べるように、「もっとビールを飲むためにたくさん走る」と口にするランナーも世の中には多い。救いがあるとすれば、運動とアルコールの両方を好む人は、アルコールだけを好む人に比べるとアルコール依存症になりにくいという相関性も上記の論文で示唆されていることだ。

被験者たちの13%に何かしらのアルコール依存症の傾向(他人から飲酒量を批判されたことがある、飲酒に罪の意識を感じたことがある、朝から飲酒したことがある、など)が見られたが、フィットネスレベルがもっとも高いグループはそれに属する確率がもっとも低かった。運動もアルコールも人を「良い気分」にしてくれる。運動習慣があると、その分だけは精神的にアルコールに頼らなくてはならない部分が減るようである。

これは、あまりにも酒飲みに甘すぎる解釈であるような気もする。しかし開き直るようであるが、ただの酒飲みよりは、運動もする酒飲みの方がまだマシではないだろうか。お酒を飲みすぎる傾向がある読者の共感を得られることを祈っている。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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