マラソンなどのランニング・レースでは、大量のゴミが発生する。エイドステーションやゴール付近の道路にランナーが飲み捨てた紙コップやペットボトルが散乱している光景は、とくに都市型の大規模レースではよく見られるだろう。しかし、環境保護の意識が高まるなか、紙コップを廃止するかその数を減らして、ランナー自身が携帯するボトルに水を提供するレースが最近になって増えている。

北米では自然の中で行うトレイルランやウルトラマラソンのレース運営者たちが、こうした試みを実行する例が多い。一方、日本ではその動きが、都市型ロードマラソンにも広がっている。ランナーにボトル携帯を推奨するだけではなく、会場周辺のゴミ拾い活動などを行うレースもあるほどだ。その他に、レース運営者たちが行っている取り組みには以下のような例がある。

  • 完走者メダルやTシャツを無くすか、再生可能な原材料のものにする
  • 参加者にTシャツか植林オーナーになるかの選択肢を提供する
  • 参加者証などの配布物を減らすか、デジタル化する
  • レースの参加条件に一定時間以上のトレイル整備活動を義務づける

こうしたランニング・レースの変化について、今回は詳しくご紹介しよう。

目次

世界初の「マイカップ・マイボトルマラソン」が日本から

FIFAワールドカップ会場で、日本人サポーターがゴミ拾いを行ったことが話題になった。これと同じように、日本はゴミの分別や削減への社会意識が北米に比べるとかなり高い。それを反映してか、日本国内のランニング・レースの多くで、ゴミ削減に配慮した取り組みを積極的に行っている。

そのもっとも新しく、かつ大きな話題を呼んだ例が、2022年の湘南国際マラソンである。パンデミックにより2年連続で中止された後、3年ぶりに開催された同レースは都市型マラソンとしては世界で初めて、すべての給水所から紙コップを完全に撤廃した。以下は、大会公式サイトからの抜粋である。

参加ランナー全員がマイボトルを携帯し、コース上に展開される約200 箇所の給水ポイントで補給をおこなう、他に類を見ない様式で開催された本大会は、コース上での使い捨てカップ・ペットボトルの排出ゼロを実現し、過去大会と比較して約87%(約6,700kg)のゴミを削減。他のどの大会よりもクリーンなマラソンコースを実現しました。

湘南国際マラソン公式サイトより

他のレースがボトル携帯をランナーに「推奨」するレベルに留まっているなか、そこから一歩踏み込んだ湘南国際マラソンの試みは特筆に値するだろう。なにしろ、一定量以上の水が入ったボトルをスタート時に携帯していることが競技規則だというのだから、その徹底ぶりは他に類を見ない。

イベント運営者に環境保全のためのフレームワークを提供

しかし、ゴミの削減は環境保全活動の一部分に過ぎない。2007年に発足した「Council for Responsible Sport」(責任あるスポーツのための評議会)という団体は、ランニングに限らず各種スポーツのイベント運営者たちに環境保全のためのフレームワークを提供し、その目標到達率に達したイベントを認証している。

2022年にオレゴン州ユージーンで行われた世界陸上大会ではゴミの削減やリサイクルに加え、会場の照明をエネルギー効率の良い方法にデザイン。電気自動車のシャトルバスを運行するなどの取り組みを行い、高い評価をこの評議会から受けている。こうした遺産は、イベントが終了した後にも残るはずだ。

最大かつ最後の難関とは

Council for Responsible Sportは、真に持続可能なスポーツイベントを目指すために、我々には大きな難関が残っていることも指摘している。それは、参加者や観客の移動に伴う交通手段が排出するCO2である。同評議会が発表したレポート(※1)によると、2014年から2019年の間に北米で行われた29の大規模参加型スポーツイベントで発生したCO2排出量のうち、実に98.5%が参加者の移動に起因するものだったという。

※1. Producing Carbon Neutral Races with Terry Chiplin: A Webinar

いくら環境に優しいレースを選んで出場したとしても、会場と自宅との往復に自動車や飛行機を使ってしまえば、結果としては環境破壊に手を貸すことになる。平たく言えば、そういうことだ。

クルマ社会の北米と異なり、日本のレースでは会場までの往復に公共交通機関の利用を促すことが多い。そのため、上の数字は日本ではやや少なくなるかもしれない。前述の湘南国際マラソンの公式ウェブサイト「よくある質問ページ」にも、「来場時は公共交通機関をご利用ください」とある。しかし、それでも最寄り駅までの電車や送迎バスが排出するCO2はゼロではないし、約2万人とされるランナーのなかには海外も含め遠隔地から来る人もいるだろう。現時点では、根本的な解決策を求めるならばイベントを縮小するか、あるいは参加者を地域住民に限定するしかない。都会型のランニング・レースが大勢の参加者を一堂に集めることで成り立っている以上、移動に伴うCO2排出量の削減は今後の大きな課題になるだろう。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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