女性アスリートにとって、“生理”は競技パフォーマンスや記録・結果にも影響する大きな悩みの一つと言えるようだ。アスリート向け吸水ショーツ「PlayS(プレイショーツ)」を開発・販売する株式会社azukiの実施した「アスリートと生理」に関するアンケート調査の結果を見ると、そのことが如実に表れている。そしてこのことは女性アスリートのみならず、アスリートを支える指導者や家族、あるいは周囲の友人なども知っておくべきことだろう。

目次

練習中や試合中のトラブル、パフォーマンス低下も

練習や試合中に生理用品で困ったり不快だっり、大変だったりしたことがあると答えたのは23人で、全体の約85%に及ぶ。では、具体的にどんなトラブルが起きたかと聞くと、以下のような回答が多く見られた。

  • 蒸れ(25.9%)ナプキンが蒸れることによる不快感、集中力の低下(特に夏場)
  • ズレ(25.9%)ナプキンがズレることによる漏れ、または漏れへの不安による集中力の低下
  • かぶれ(22.2%)ナプキンによるかぶれ、その痒みによる集中力の低下

<トップアスリートの声>

▼陸上

「夏だとナプキンが汗でズレてしまったり、蒸れて不快だったり、アップでいろいろな動きをするのに少し気になって可動域が狭まったりしていました。雨の日のナプキンは滲んでしみることもありました。私はタンポンが合っていてよく使うのですが、それでもたまに正しく挿入できないときは違和感があったりしています。」

「練習中に着用すると走りの感覚が変わるので、なるべく小さいものを着用して頻繁に交換していました。また指導者が男性だと、そういったことを相談しにくいです。」

▼女子ラグビー

「ナプキンがずれたり、蒸れる。接触プレーの時にナプキンがずれ、ユニホームに血がついてしまった。密着度の高いスパッツを履くなどしてズレないようにしていた。」

▼フットサル

「量が多い時はトレーニング中、試合中に必ずトイレを使用しなくてはならない。白のユニホームの時は心配で仕方ないです。」

「ナプキンをつけた状態で激しい運動をすることでたくさん汗をいて蒸れてしまい皮膚がただれる。市販の軟膏を塗って対処していた。」

「漏れがないか心配になること。羽の部分が丸まってしまい、肌に擦れてしまう事。」

陸上選手では「ナプキン自体の違和感」が繊細な動きの邪魔になったり、接触を含む激しい動きをするラグビーやフットサルでは「ズレ」が「漏れ」の心配や「かぶれ」につながったりしていたという。さらにナプキンを交換するため、試合中でもトイレに行かなくてはいけないデメリットもあった。生理用品ではないがユニフォームが白色の場合、「漏れが気になる」ことで試合に集中できなかったという声も複数人から挙がったようだ。

アスリートは試合に向けて練習を積み上げ、最高の状態で本番を迎えるべく調整も行っている。しかし生理は、誰もがいつ起きるか正確にはを予測できない。アンケート調査によれば、88.9%もの選手が重要視する試合と生理が重なった経験を持つという結果が出た。しかもその中で6割以上の人が、生理の影響によるパフォーマンス低下を感じたという。生理痛や体を重たく感じるといった不調のほか、生理用品による不快感や集中力の低下などが要因のようだ。

◎調査内容

調査概要:「アスリートと生理」に関する調査
調査方法:インターネット調査 ※azuki社によるGoogleフォーム使用
調査期間:2021年8月27日〜同年9月1日
有効回答:吸水ショーツPlaySの提供を受けているトップアスリート27名(平均年齢27.7歳)

  • 山中柚乃(愛媛銀行)|陸上・3000m障害|東京五輪出場、日本選手権優勝(日本歴代2位の記録保持者) ​
  • 泉谷莉子(ジーケーライン)|陸上・七種競技|関西混成選手権優勝、3年連続日本選手権出場
  • 高橋このか(とらふぐ亭)|陸上・七種競技|インターハイ2位、日本選手権5位
  • 小宮いつき(ジーケーライン)|陸上・100mハードル|関東インカレ3位、日本選手権出場
  • 西出優月(関西外大)|陸上・3000m障害|日本学生個人選手権優勝、関西学生新記録保持者
  • 清水真帆(アスレティクスジャパン)|陸上・七種競技|関東選手権優勝日本GP鹿児島大会9位
  • 青木蘭(横河武蔵野アルテミ・スターズ)|女子ラグビー|全国高校選抜大会2連覇&MVP、太陽生命women’sシリーズ優勝
  • 陣在ほのか|スパルタンレース|YOKOSUKA大会優勝(陸上800m 日本選手権出場)
  • 小寺香穂(28GolfStudio)|ゴルフトレーナー|ベストスコア67、日本女子学生選手権7位
  • アルコ神戸(日本女子フットサルリーグ)リーグ3連覇

参照元:東京五輪・パラリンピックの熱戦が続く中…トップアスリートの9割が「大きな試合と生理が重なった」。85%が「競技中に生理用品で困った・不快・大変」を経験(PR TIMES)

「PlayS」生みの親に聞く“生理とアスリート”を取り巻く課題

アンケート調査を実施したazuki社は20mlの液体を吸収し、医療用素材を使用することで素早く吸収し閉じ込める吸水ショーツを開発・販売している。従来の吸水ショーツで見られた再び履いた際の濡れ感や匂いを軽減しており、本調査でも「ストレスが軽減される」「漏れない」「集中力が向上する」などパフォーマンスアップの効果を実感する声が多く見られた。今回、アスリートと生理に関する課題や現状などについて、同社代表の坂上大介氏にも話を伺った。

――今回アンケート調査を実施された目的は何だったのでしょうか?

PlayS(プレイショーツ)のサポートアスリートが増えていくたびに、「履いてみてよかった」という声が多く集まりました。もちろん、これは商品の開発段階で目標としていたことですが、「実際にどうよかったのか?」「今までの生理用品とどう違うのか?」について、ある程度アスリートが集まった段階でしっかり調べたいと思っていたんです。また、「大きな試合と生理が重なった」という声も聞いていたため、東京2020オリンピック・パラリンピックが開催されている今、そのことについてもアンケートしてみました。

――どのような背景から「PlayS」は生まれたのですか?

私自身は男性なので、当然ながら生理の経験はありません。そんな中、阪神淡路大震災のボランティアで感じた生理用品の大切さ、経営者となってから直面した女性社員の生理との関わり方、そして家族の婦人科系の病気などが複合的に重なったんです。そして去年にフェムテックというものを知り、「吸水ショーツなら女性の悩みを減らせるのでは?」と開発を始めました。

PlaySを通じて解決したいのは、生理に対する女性の選択肢を増やすこと。そして、生理にまつわるコミュニケーションを、優しく自然にできる社会になればと思っています。

――これまで女性アスリートは、どのような対策で「生理と競技」に向き合ってきたのでしょうか?

個人が自分だけの知識と少ない選択肢の中で、半ば仕方なく、諦めながら向かい合っている。これが女性アスリートと関わってきた中で、私が感じていることです。

もちろん生理は十人十色で、その状態や環境、人間関係によって一概に一括りにはできません。例えば 生理用品の選択肢がナプキンかタンポンしかなかったり、ピルを知っていても婦人科に行くのは気が引けたり。選手同士で生理について積極的に話したり情報交換したりすることはなく、指導者に男性が多いので相談しづらいという声もあります。恐らく誰もが、保健体育で生理の仕組みは知っているでしょう。しかしナプキンやタンポンの種類、自身の経血量や痛みの度合いは普通なのかなど、実践的なことは誰からも教えてもらっていないんです。

誰かと話すことも少ないので、自分1人で考えることが多い。だから、生理にまつわることをより良くするという発想は起こらず、あるアスリートの言葉を借りれば「生理に対して思考停止になっていた」というのが実情かもしれません。

――実際にPlaySを使用されたアスリートから、どのような声が届いていますか?

例えば陸上選手からは、雨の日でもナプキンと違って湿気でズレたり蒸れたりせず、その分だけ集中できるという声がありました。また、ナプキンだとズレないか気になって無意識に可動域が狭まることがあるものの、ショーツだと思い切り動けるのだとか。さらに多い日だとナプキンは厚くなって走りの感覚が変わるのですが、ショーツは大丈夫なのだと言います。

あるいはフットサルでは、下が白いユニフォームでも漏れを気にしなくなったという声が。また、ナプキンはズレや漏れが心配で、ハーフタイム時に必ずトイレに行かなければいけなかったそうです。しかしショーツはその必要がないため、試合に集中できるという話も受けています。

――アスリート自身だけでなく、周囲からの見方や対応などで課題に感じることはありますか?

やはり、生理に関する良いコミュニケーションの少なさでしょうか。もちろん、それは積極的に他人へ望んでいない自分のプライバシーを開示したり、男性が間違った方法で介入したりすることではありません。生理には個人差があり、女性同士でも「わかってもらえないかな」と自分のことを話すのを躊躇したり、逆に他人からの言葉や情報も「それってどうなの?」と思ってしまったりすることがあるでしょう。また、男性もセクハラまがいか、気を遣い過ぎてタブー視して委縮しているのか極端なところがあります。

吸水ショーツ事業を始めて予想外だったユーザーの声が、「仲間で生理の話をするようになった」というものです。今まで女性が生理の話をするとしても、やはり「自分は重い」「軽い」など自分や他人の状態の話しかなく、それはイコール「だから休ませて」「だからあなたはいいよね」という会話に行きつきがちでした。結局そうなるのが分かっているので、あまり突っ込んだ話はしなくなります。

ところが、吸水ショーツが間に入ることで変化が生まれました。自分の生理に合うかどうかと言う話題から、「実は量が多いことに悩んでいる」「生理痛が激しくて婦人科に通っている」などショーツを基準とした「自分の生理の話」ができ、さらに他人の生理の話を聞けるという現象が起こったのです。そこからお互いに使っている生理用品など情報交換も行われるようになり、仲間うちで生理に関する理解が深まりました。これは、家族間やカップルでも同様です。

結果は「人を思いやる」ことが大切で、お互いの正確な情報や思いやりの心があれば、男性でも正しく優しく生理の話に入れると思います。ちなみに選手が男性指導者に生理の話をしないのは、「この人に話してもわからない、解決しない」ということがあるようです。その点で吸水ショーツには解決してくれるかもしれない期待があるため、どの選手も初対面から積極的に自分のセンシティブなことを教えてくれました。

もちろん、吸水ショーツが生理のすべてを解決できるわけではありません。しかし、新しい選択肢にはなると思います。吸水ショーツがフェムテックというジャンルの中だけでなく、コンプレッションウェアのような機能性のあるスポーツ用品として認知されれば、より多くの女性が気軽に手に取れるのではないでしょうか。例えばオリンピックで選手たちが当たり前のようにPlaySのロゴをつけるようになったら、そのときには生理をタブー視する人はいなくなっていると思います。

大切なのは、お互いが理解し合える環境づくり

アスリートは置かれた環境の中で、最高のパフォーマンスを発揮できるよう常に努めている。生理については女性特有のものだが、性別を問わず理解すべき事柄と言えるだろう。アンケート調査と坂上氏へのインタビューから、少なくとも多くの女性アスリートが悩みを抱え、しかし解決策が見つけられずにいたことが分かった。知識として学ぶことは出来るかもしれないが、各個人で異なる悩みを理解するには、やはり“話せる相手と環境”が大切なのかもしれない。私も女性を含めた競技者に指導する立場にある身として、改めてその重要性を考えさせられた。

なお、PlaySには陸上競技やラグビー、アメフト、トランポリン、格闘技などをはじめ、合計32名のサポートアスリートがいるとのこと(2021年9月2日時点)。同じように生理について悩みを抱えているアスリートなら、PlaySはその解決策になり得るかもしれない。

[著者プロフィール]

三河 賢文(みかわ まさふみ)
New Road編集長。“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
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By New Road 編集部

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