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自作の水着で世界大会優勝 競技歴2年異色のフリーダイビング選手

◆世界大会初出場で優勝

昨年キプロス共和国で開催されたフリーダイビングの世界大会に出場した、異色の日本人選手が注目されている。静岡市に住む歳永ゆきね選手は、初めて出場した国際大会で自己記録を大幅に更新し、世界ランキング上位の選手を退けて頂点に立った。

 

◆競技歴2年 自作の水着で出場

フリーダイビングは、呼吸器具を使わずに息を止めたまま海に潜った深さを競う。フィンと呼ばれる足ひれを使わない種目で、歳永の自己記録は33mだった。それが、世界大会では43mの記録を出した。1m伸ばすだけでも苦労する競技で「せっかくキプロスまで来たから、記録を更新しようと思っていた。海がきれいで深く潜りたくなった」と10mも自己ベストを更新。上位20人の世界ランキングにも入っていない無名選手が、初出場で優勝したのだった。

世界大会に臨んだ自作の水着

競技歴わずか2年というのも周囲を驚かせたが、話題となった理由は歳永のウェアだった。ほとんどの選手がフリーダイビング専用のウェットスーツを着て海に潜る中、歳永が身に付けていたのは手作りの水着。しかも、その柄はスパイダーマンや、キラキラの装飾がついたものだった。

 

歳永は10歳でアーティスティックスイミングを始め、高校3年生のときには国体に出場した。水に潜ることへの抵抗は少なかったが、フリーダイビングならではの潜り方や泳ぎ方があるため、すぐにトップ選手になれるほど易しくはない。去年2月の日本代表の選考大会では、水中の中で意識を失う「ブラックアウト」も経験した。

 

ただ、競技自体の難しさ以上に高いハードルと感じているのは、競技を続けるための金銭面。フリーダイビング用のスーツは1着10万円以上するという。練習でも大会でも使うため1着では足りない。専用のフィンやゴーグルも高額で、歳永は磯遊び用のものを使っている。フリーダイビングをする場所は日本でも限られているため移動や滞在費用、さらに命を失う危険があるため練習に付き添うパートナーや、ダイビングスポットに行くまでの船にもお金がかかる。

 

◆仕事は水着製作 新型コロナで打撃

歳永の仕事は、アーティスティックスイミングなどの水着製作。日本のほか、韓国やインドネシア、シンガポールの代表チームからもオーダーを受ける。ただ、この1年は新型コロナウイルスの感染拡大により、大会や強化練習が中止となり、注文は激減した。元々、特殊な仕事で収入が安定しない上、世界的にまん延している感染症の影響で、フリーダイビング用のスーツを買う金銭的なゆとりはない。そこで、オーダーを受けて作った水着の余った生地や装飾を使って、自分の水着を作った。スパイダーマンの水着も、派手な装飾の付いた水着も費用は一切かかっていない。

世界大会に臨んだ自作の水着

水着を作るための生地は費用を少しでも安くするため、あらかじめ大量に仕入れておく。しかし、新型コロナによって、注文のキャンセルが相次ぎ、大量の生地が残ってしまった。フリーダイビングの競技費用の前に生活費に困った歳永。手作りマスクの販売を始めた。当時はマスク不足。マスクをファッションの一部という動きも広がり、水着用の生地で作ったオリジナルのマスクは需要があった。スーパー銭湯の一角を借りて販売していると、作り方を教えてほしいという人たちが増え、手作りマスク教室を開くまでになった。

 

◆お金をかけずにトレーニング

練習もお金をかけないように、日常生活で息を止めてトレーニングしている。優勝した世界大会の開催地だったキプロス共和国までの旅費は、地元の仲間からのカンパ。滞在費を節約するため、現地に入ったのは大会の2日前だった。

 

歳永は「フリーダイビングは自分との戦い。年齢がいくつでも始められるし、記録を伸ばすこともできる」と話す。長く息を止めるコツは「脳を使うと酸素を消費してしまうので、何も考えず寝ている状態が理想。苦しくなったら、晩御飯のことを思って苦しさを紛らわす」と続けた。自己記録を43mに更新し、次の目標に定めるのは50m。異色のダイバーは、どこまで記録を伸ばすことができるのか。そして、どんな水着で競技するのか注目だ。