2023年11月24日から26日にかけて、「沖縄本島1周サバイバルラン」(通称:沖サバ)が開催された。これは、沖縄本島を文字通りに1周する、390kmのウルトラマラソン大会だ。制限時間は72時間。サポートは最低限、睡眠も各自の判断となり、ほぼ自給自足で走り続ける。どのような大会なのか、実際に走ってきたので詳しくご紹介しよう。

目次

リピーターの多い人気大会

参加資格は「18歳以上」「100km以上のレース完走者」の2つのみ。390kmという果てしない距離だが、その参加者は70名以上におよぶ。しかも驚きなのが、その多くをリピーターが占めているということだ。完走しても完走できなくても、二度三度と本大会を走りに来るランナーがたくさんいる。スタート前の会場は知り合い同士という方々が多く、まるで同窓会のような雰囲気だった。

スタート地点は那覇市にある沖縄国際ユースホステル。そして沖縄本島を1周走り、戻ってくるゴールも同じ沖縄国際ユースホステルだ。これまでも開催されてきた大会だが、今回は1つ違う点がある。通常だと沖縄本島を時計回りに走るが、今回は逆の反時計回りに走るのだ。そのため、参加者は「沖サバ」と呼ばれる本大会を、今回に限り「逆サバ」と呼んでいた。これに伴って制限時間なども変わるため、リピーターにとっても未知の大会となっている。

補給や睡眠は自己判断

制限時間が72時間、つまり3日間におよぶ大会のため、当然ながら“夜通し”走ることになる。恐らく多くの方は、睡眠時間について疑問を持たれるのではないだろうか。結論から言えば、どこで、いつ眠っても構わない。制限時間さえクリアすれば、睡眠は各自の自由となっている。中には3日間、寝ずに走り通したという方もいたようだ。ちなみに、私は1時間だけまとまった睡眠を取った。あまりの睡魔に立ったり走ったりしながら何度も寝落ちしたが、この大会では睡眠の取り方も重要なポイントだったように思う。

また、もう一つ気になるのが補給。本大会では6カ所のチェックポイントが設けられており、そこでは飲み物や食べ物が提供される。ただし、チェックポイントの間隔は短くて約40km、長ければ約70kmないということも。そのため、最低限の水分や補給食などはバックパックに入れて持ち運びつつ、コンビニなどを利用して各自で補給しなくてはならない。途中には100km以上もコンビニのないエリアがあり、共同売店の空いている時間に通過できれば良いが、それ以外だと何も補給できないことになる。あらかじめ、コンビニ等の場所を確認しつつ、どれだけの水分や補給食を持つべきか検討が必要だ。

タフなコースと厳しい関門時間

本大会はコースも一筋縄ではいかない。全体的にアップダウンが多いほか、どこまで続くか分からない海岸沿いを走ることも多々ある。アップダウンでは足を消耗し、海岸沿いでは精神を消耗するといって良いだろう。特に後半、疲労困憊になった状態で終わりの見えない道を進み続けるのは、本当に心が折れそうになった。

また、制限時間も簡単ではない。特に今回は逆サバとなったことで、序盤からある程度のペースで走ることが求められた。なお、各チェックポイントが関門となっているが、距離と制限時間は以下の通りである。

  1. 49.5km・6時間30分
  2. 92.5km・14時間
  3. 166.5km・24時間30分
  4. 224.5km・34時間
  5. 296.5km・48時間
  6. 354.0km・60時間

経験のない方は、あまり数字だけ見ても厳しいのかどうか分からないかもしれない。しかし、390kmにもなる超長距離の高いで、この制限時間は用意ではない。実際、第一関門は多くのランナーが通過していたものの、速いペースが求められたため消耗し、その後の関門で引っかかるというケースが多かったようだ。

疲れた心と体を癒す沖縄の絶景

沖縄を1周する機会は、たとえ自転車や車でもなかなか得られないだろう。もちろん疲労困憊となり、正直に言えば景色を見渡す余裕なんてなくなる。しかし、それでも青い海をはじめとした沖縄の景色は、疲れた心と体を癒してくれた。

昼だけでなく夜にしか見られない景色もある。特に夜は暗闇となるため、目に飛び込んでくる明かりが、通常の何倍にも美しく見えた。

景色とは違うが、走っている間にヤシガニも発見。ヤンバルクイナは残念ながら出会えなかったが、これもまた沖縄だからこそ。なかなか観光では足を運ばない場所まで走るので、新しい沖縄を発見することができた気がする。

390kmを走破して得られるもの

なんとか390kmを走破することができた。完走証が後日になって自宅へ届いたが、改めて思い出が蘇ってくる。とにかく辛かったが、だからこそ達成感は過去最大だった。「もう走ることはないだろう」と思っていたが、時間が経つと「また挑戦しようか」という気持ちになるから不思議である。

本大会を通じて感じたのが、「何もかも使い果たす大会だ」ということ。筋力や体力、気力など。自分の持つものすべてを総動員しないと、走り切ることは難しいだろう。これまでスポーツに限らず色んな経験をしてきたが、こんな経験は初めてだった。諦めなければ進み続けられるし、限界は自分が思っているよりも遠い。「無理かもしれない」と頭をよぎることがあっても、動きながら考えれば手段は見つかる。これは、走ることだけでなく仕事などさまざまなシーンで活かされるのではないだろうか。あまり大きなことは言いたくないが、本大会を通じて一回り人間として成長できたように感じる。

長く厳しい道のりだからこそ、それを乗り越えたときの達成感は言葉にできないほど大きい。今回は「逆サバ」だったが、次回はまた通常コースに戻るとのこと。さらにその後、もっと距離を伸ばしての開催も予定されているようだ。自分の限界を知りたい、これまでにない経験から学びたいという方は、ぜひ出走を検討してみてはいかがだろうか。きっと結果に関係なく、新しい発見が待っているだろう。

沖縄本島1周マラソン 公式ホームページ

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

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