練習していると、どうしても上手く行かないときが出てきます。可能な限り調子の波を落とさず、毎回高いレベルでの練習をする事が理想ではありますが、こればかりは仕方のないことです。

大前提として、日々のケアやトレーニングスケジュールの組立などは、この調子の波が落ちてしまわない範囲を狙って組み立てていくことが目的です。しかし、いくら注意していても病気や怪我、精神的なストレス、体調の変化など、突発的な出来事によってこれらのスケジュールは崩れてしまいます。今回は私自身の経験を交えながら、さまざまな要因でトレーニングが上手く行かないときの対処法についてご紹介します。

目次

原因を探る

真っ先にすべきなのは、上手く行かない原因を探ることです。単純に目標値が今の自分のレベルと比べて高すぎるのか、動きやスケジューリングに何かしらのエラーがあるのか、体調不良や怪我の兆しはないか、精神的な疲労はどうか、環境の変化はあったか等々。実際、不調の原因を特定するのはかなり困難です。

怪我や体調不良など、わかりやすく表面に出てくるものであれば特定は容易でしょう。しかし、不調に陥る原因はそれらだけではありません。特に競技をやっていると、日常の些細な変化がパフォーマンスに大きなエラーとなって現れることがあります。

かつて私の周りには進級によって学校でクラスが代わり、自分自身ではたいしたことがないと思っていた人間関係の変化が、実は不調の要因の一つだったということがありました。逆もまた然りで、変化が大きな好調を招くこともあるため、一概に変化が悪いと取れないのも事実です。ときには、変化させていないことが不調の原因になる可能性もあるでしょう。

選手は、毎日ギリギリのラインでトレーニングしています。そのため、変化には敏感な傾向にあるでしょう。練習で上手く行かないことに対して、その原因が何なのか。時間が解決するのか、それとも手を加えなければいけない内容なのか。上手く行かないことが起きた際、まずは考えられる原因に当たってみることが重要になります。

ここで、私自身が上手く行かないときに気をつけていることをご紹介します。それは、この原因究明の段階で「これが不調の原因だ!すぐに変えなくては!」と決めつけてしまわないことです。

競技パフォーマンスというのは、繊細かつ日々変化するもの。今日悪かったものが、明日には良いものになる可能性もあります。すべてを悪と決めつけず、「今は悪く働いてしまっているだけかもしれない」くらいのスタンスで取り組むのが大事なのではないかと考えています。

そのまま押し通すか、変更するか、ハッキリと選択する

上手く行かない状態の原因がなんとなくでも分かってきたら、次にすべきは、それを続けるかどうかです。前項でもご紹介した通り、原因を見つけたからといって、変えてしまうことが一概に正しいとも言えません。選手の競技パフォーマンスというものは、競技内外の色々な要因が複雑に絡み合って成り立っているからです。

しかし、目の前にある不調をそのまま放っておくことも、あまり得策とは言えません。不変が招くのは現状の継続でしかなく、変化が起こすのは可能性の広がりだからです。

ではどうすべきなのか。私は大抵の場合、上手く行かない場合の対処として、何かを変えることも変えないことも、両方が正解だと考えています。ですから、このときすべきなのは「変化させるか、させないのかをハッキリと決断する」ことだと思うのです。

ただでさえ上手く行かない状態なのにも関わらず、曖昧な選択のまま進んでしまっては、いい結果が訪れることなんて有り得ません。上手く行かない、気持ちが沈みがちな状況だからこそ、進むか退くかハッキリと決断する。その上でその決断を貫き通す。そういう強引さが大切だと思っています。

bestよりもbetterを目指す

原因になんとなく検討がつき、今後の方向性に関しても道筋が見えてきたら、調子が上向きになるまでどうすれば良いかという段階に移ります。方向性が決まったところで、もともと調子が良くなかったわけですから、すぐに調子が上向きに転ずるとは限りません。むしろ、一定の期間は上手く行かない状態のまま足掻き続ける必要があるでしょう。私自身の経験から思い出しても、この期間はトライアスロンをやっていて一番辛い時期かもしれません。

調子が良くないわけですから、そんなときbestのパフォーマンスを追い続けても、いいことはあまりないでしょう。毎回練習のたびに目標に到達できず、何が悪いのかと悩んでしまっては、せっかくの上向きに転ずる可能性も無くなってしまいます。

「最高でこれくらいのパフォーマンスは出していきたいけど、これくらいまでの範囲なら落としてしまってもいいかもしれない。」

そんな、bestではなくbetterな設定を定めて、許容範囲を広げていくと良いのではないでしょうか。

「病は気から」という言葉があるように、気持ちが沈んでいるとパフォーマンスもそれに引き摺られて下がっていってしまいます。しかし、逆もまた然りです。体調やパフォーマンスが多少下向きでも、気持ちが上向きなら、それに引き摺られるように自然と体調やパフォーマンスも上向きになることが多いでしょう。自分の中での許容範囲を増やすことで、「目標通りこなせた」という実感を植え付けて少しずつ気持ちを上向きにしていくことも、上手くいかないときには大切なのだと思います。

選手である以上、調子の上がり下がりは無視できない問題です。その波をできる限り小さくすることが、トップ選手への近道かもしれません。しかし、波が大きければこそ発生する大成長があることもまた然りです。大切なのは上手く行かないときに、いかに立ち止まる期間を短くできるかどうか。スポーツ以外にも通ずることだと思いますので、皆さまも頭の片隅に置いておいて、何か上手く行かないときには思い出してみてください。

By 古山 大 (ふるやま たいし)

1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。 <主な戦績> 2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝 2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝 2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位 2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位 2021年「日本トライアスロン選手権」4位

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