前回、前々回とトライアスロンのスイムとバイクでの独特な戦略や、心構えなどを取り上げしました。いよいよ今回は3種目目となる、ランについてご紹介します。

目次

その1秒を削り出す。ランニングシューズは靴紐を結ばず履く

バイクを降りたら、バイクを所定の位置に置き、ランニングシューズを履いてランスタートです。当然、この時間も競技時間に含まれるわけですが、この時間を短縮するため、ここにもトライアスロン特有の小技が隠されています。それが、「ランニングシューズの靴紐を結ばない」ことです。

シューズのメーカーや種類によってさまざまですが、シューズを購入したときについてくる靴紐を使っている選手を、私は見たことがありません。その理由は簡単。普通の靴紐だと、履くときに紐を結び直す必要があるからです。そのため、トライアスロンでは大きく分けて2つ、靴紐の代用としてとられる方法があります。

1つは、ゴムなどの伸縮性のある素材でできた紐を使うこと。使い方は簡単で、普通の靴紐のようにゴム紐を穴に通し、足がズレないように履いて靴紐を縛ります。あとは、そのまま足を抜いて終わりです。足が抜ける程度の余裕を持ってゴム紐を縛らなければならないという注意点がありますが、紐がゴムになっていることで、そのまま履いても脚がしっかり固定されるメリットがあります。ベビーパウダーやワセリンを靴の口に塗ることで、さらにスムーズに履けるようになるでしょう。

これは、それ専用の「ゴムでできた靴紐」という製品が各メーカーから発売されています。また、既製品でなく別のものでも代用可能な、トライアスリートの中でも割とポピュラーな方法です。私は学生の頃、100円ショップで髪を縛る用のゴム紐を買ってきて、靴に通して使っていました。数回で駄目になってしまいますが、調達しやすく値段も安いので、品質や性能にこだわらないのであればオススメです。流石に、今はちゃんとした製品を使用しています。

もう1つは、そもそも紐を通さずに靴を履くという荒業です。シューズの種類によっては、靴紐で縛らなくても、ある程度の固定力を持つものが存在します。そういうシューズは、選手によってはゴム紐すら通さず履いてしまうことがあるのです。

ただし、私はこの方法をあまりおすすめしません。確かにシューズによっては、紐なしでも走れないことはありません。しかし、本来シューズは紐を締めて足を固定することを想定して作られているもの。そのため、紐がない状態だと、ちょっとした着地のズレの度にシューズの中で足がズレることになり、靴擦れの原因になります。

ちなみに、トライアスロンではランニングシューズを裸足で履くことが一般的です。しかし、そのせいで靴擦れができるということが少なくありません。エリートクラスの選手であれば、靴を変えるかワセリンやべビーパウダーで対策するか、もしくは「我慢しろ」となるでしょう。ただし、一般の選手でトライアスロンを楽しんで走るという方々は、多少時間がかかっても靴下を履いて、必要なら靴紐を結び直し、しっかりシューズを履いてから走り出すのでも良いのではないかと思います。楽しむために出ているのに、靴擦れで痛い思いをしてしまうのはもったいないですからね。

誰もが必ず通る道。バイク後のランで脚がスカスカになる現象

バイクを終え、いざランニングと走り出すと、まるで脚が地面についていないかのようにスカスカと空回りしてしまう感覚になることがあります。主に初心者の方に多く見られますが、エリートクラスの選手でも同じ状態になってしまうこともある、トライアスロン界隈では割と有名な現象です。

詳しい原因はわかっていません。一説によると、バイクで重いギアを踏み続けていたり、バイク終了時点で脚力を使い切ってしまっていたりすると、起きることがあるそうです。そのため、力配分やまだ十分に鍛えきれていない初心者の方に多く見られる現象というわけですね。

昔から多くのトライスリートを悩ませてきたこの現象ですが、解決策としてはとにかく練習することと、力配分を間違えないようにすることでしょうか。練習に勝る対策なしというのが、この現象に対する最適解かもしれません。気になる方は、ぜひ一度トライアスロンをやってみてください。ほぼ必ず起きると思います。足が地面を捉えきれていない、あの何とも言えない感覚は、一度経験してみるのも面白いかもしれません。

位置取り、仕掛けどころ、ペース配分、スタミナ管理、ラストスパート。すべてを制してフィニッシュへ

さて、ここまで来るとこれまでの有利な位置取り争いと違い、本格的に順位争いが始まってきます。スタート直後から早めに仕掛けるのか、ギリギリまで粘ってゴールスプリントに持っていくのか。また、ペース配分はどうするかなど、勝つためにもっとも思考を巡らせるタイミングでもあります。

昨今の世界クラスのレースを見ても、終盤まで勝負がもつれ込む展開、早々に仕掛けて逃げ切る展開など、いわゆる絶対的な「セオリー」と呼ばれる勝ち方はまだ存在していないようにも感じます。これは、まだ比較的若い競技であるがゆえの特色でしょう。「今日はどんな展開になるだろう?」と観戦できますし、実際に走っていても「自分はこの展開が得意だから、なんとかして持っていこう」など、勝負に対する自由度の高い競技だと思います。

しかし、勝利する選手に共通しているのは、「自分の有利な展開を理解して、その展開に持っていけたかどうか」だと思います。スプリントが得意な選手、ハイペースで走るのが得意な選手など、同じトライアスロンの選手でも得意な戦法は変わってきます。ですが、往々にして勝利する選手、もしくはし続ける選手は自分の長所を理解していて、それを勝負どころに持ってくるのが上手いのだと私は思っています。

最後の種目、ランを走り切るコツは?

「トライアスロンを走り切るコツ、最後までペースダウンせずに走り切るコツはなんですか?」と聞かれることがあります。どういう練習をした方が良いとか、こういうペース配分にしたらなど解決策は色々ありますが、結局のところ、最後に物を言うのは「根性」だと思います。

あまり精神論を説きたくはないのですが、結局どんな練習をしてもレース終盤は体がきつくなりますし、気持ち的にも止まったり辞めてしまったりしたくなるもの。そうなったとき、最後に頼れるものが「根性」「気持ちの強さ」ではないでしょうか。私は「気持ちが強いから強い」のではなく、「気持ちが強いから実力を出し切れる」ものだと思っているのです。ですから質問されたとき、私はいつも次のようにアドバイスしています。

「ギリギリのところで踏ん張って、自分が今までやってきた練習(単純に体を鍛えるものから、本番を想定したペース配分の練習まで)を信じることができれば、きっと走りきれるはずです。」

エリートクラスで戦っていて勝てる選手、どんどん強くなっていく選手には、こういう部分が備わっているのだと感じることが少なくありません。

このように、トライアスロンのランニングには、いくつか通常のランニングとは違うスキルや心構えがあります。各種目におけるトライアスロン特有のスキルは「第4の種目」と呼ばれることもあるくらい、勝敗を分ける重要なものです。選手は通常の種目練習以外にも、こういった部分の練習もしながら本番に臨んでいます。もし、今度トライアスロンを観戦したり実際に出場されたりする機会があれば、ご紹介した各種目の内容を思い出してみてください。そうすれば、より一層トライアスロンというスポーツを楽しむことができると思います。

By 古山 大 (ふるやま たいし)

1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。 <主な戦績> 2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝 2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝 2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位 2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位 2021年「日本トライアスロン選手権」4位

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