マラソンランナーの99.8%がレース中に何かしらの痛みを経験したことがあり、そのうちの80%が「かなりひどい」痛みを経験している。そんな調査結果を紹介した論文(*1)が、スポーツ医学サイト『Frontiers in Sports and Active Living 』上で20212月に発表された。

*1. Pain During a Marathon Run: Prevalence and Correlates in a Cross-Sectional Study of 1,251 Recreational Runners in 251 Marathons.

これによると、研究対象となった1,251人の市民マラソンランナーのうち、わずかに2人を除いた回答者全員が、多かれ少なかれ何かしらの痛みをレース中に経験したということである。

目次

痛みが起こりやすい箇所とタイミング

Female middle aged having a cramp while jogging , massage calf

調査はオンラインによるアンケートの方式で行われ、全部で41個の質問は多岐に渡った。痛みの箇所や度合い、発生したタイミング、性別、年齢、身長、体重、ランニング歴、故障歴などである。有効な回答が得られた回答者の性別は、女性が562人(約45%)と男性が696人(約55%)でほぼ拮抗している。また、平均年齢(女性が36歳、男性が43歳)、平均体重(女性60キロ、男性75キロ)、平均タイム(女性が4時間22分、男性が3時間51分)といった数字から、この研究がエリートランナーではない標準的な市民ランナーを対象にしたことが分かるだろう。回答者が走ったマラソンレースの数は、北米を中心に延べ251である。

痛みのひどさを010で段階評価してもらったところ、ほとんどの回答者は「中くらい」から「非常にひどい」痛みをマラソンレース中に経験した。性別、年齢、タイムなどのランナー属性は、どれも痛みの有無や程度とは有意な関連が認められない。

身体部位に目を向けると、痛みが発生した箇所は太もも前面(17.1%)、ハムストリング(10%)、そしてふくらはぎ(9.3%)の順で多かった。そして、痛みが発生するタイミングは24~26km付近がもっとも多く、フルマラソンならハーフラインを越えた辺りである。

また、過去にマラソンを完走した経験が少ないランナー、つまり初心者ランナーほど強い痛みを報告している。それはまったく驚くべきことではないが、ベテランランナーになれば痛みから無縁でいられるというわけでもない。他に注目するべき傾向として、過去のレースであれレース前の練習であれ、以前に痛みを感じたことがある箇所ほど、レースで発生する痛みのひどさは大きくなるとのことである。

痛みを減らすか和らげるための対策はあるか

Sport knee injury. Woman has pain in knee after run outdoors at stadium

筆者は99.8%のグループに属する側のランナーである。これまで数えきれないほど多くのマラソンレースを走ってきたが、痛みをまったく感じなかったレースは過去に一度も記憶にはない。毎回のように筋肉痛に苦しむのはもちろん、脚が痙攣したり爪が剥がれたりといった手痛いアクシデントも数多く経験してきた。マラソンレースのスタートラインに立つということは数時間後の痛みを覚悟することと同義であり、そこには痛いか、かなり痛いかの違いしかないものだと考えてきた。

しかし、それでも経験知がまったく積み重なっていないというわけでもない。初めてマラソンを完走した頃に比べると、現在はある程度までなら痛みをコントロールできるようにはなってきた。上記の調査結果でも見られるように、マラソンの痛みはレース後半に発生することが多い。従って、それまでにいかに筋肉の疲労度を低く抑えるかがレース本番でのカギになる。単純に言えば、レース前半でペースを上げ過ぎないことが後半での痛みを減らすか、あるいは遅らせることに繋がる。

長期的には、故障したことがある箇所の再発を防ぐ工夫が大切である。故障するということは、その付近の筋力が弱いか、あるいはバランスが崩れていたことを意味する場合が多い。故障後のリハビリでは筋肉を元の状態に戻すだけではなく、故障する前より強化することが望ましいだろう。筆者の場合、かつてハムストリングスに肉離れを起こしたことがある。その後、デッドリフトなどの筋トレ種目に取り組み、その部分の筋力を強化したことでラン中に痛みを感じることは少なくなった。

マラソンで痛みを完全になくすことも、不可能とは言えないかもしれない。しかし、非常に困難な挑戦であることは間違いないだろう。それでもレース前の準備や当日の戦略によって、ある程度までなら痛みを減らすか、和らげることはできると自身の体験からは考える。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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By New Road 編集部

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