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元プロボクサーの銭湯オーナー・長沼亮三氏に聞く!疲労回復に効果的な銭湯活用術

パフォーマンス向上に、スムーズな疲労回復は必須のスキルだ。そこで今回はアスリートや運動愛好家の疲労回復におすすめな、「入浴」についてご紹介しよう。実のところ入浴は、入り方によってその効果に雲泥の差があることをご存じだろうか。リラックス効果はもちろんのこと、血液循環の活性化、代謝・免疫力・体温アップなど、得られる効果は疲労回復だけではない。まさにアスリートにとっては嬉しい、身体を強くする効果も期待できるのだ。

自宅での入浴はもちろん、たまには広いお風呂に入るのも良いだろう。そんなとき、おすすめしたいのが銭湯である。銭湯は「熱湯」「深風呂」「広さ」がキーワードとなり、家庭用のお風呂だけでは得られない効果が期待できるからだ。今回はそんな銭湯の活用術について、東京都台東区にある「寿湯」のオーナーを務める、元プロボクサー・長沼亮三氏にお話を伺った。

銭湯「寿湯」のオーナー長沼氏は元プロボクサー

有名企業とのコラボイベントなどでも話題になる、寿湯オーナーの長沼氏。革新的な試みが特徴的な、銭湯界では有名な銭湯経営者・長沼3兄弟の三男だ。そんな長沼氏は、元プロボクサーという異色の経歴も持っている。実家で銭湯を営んでおり、銭湯が当たり前の文化で育ったとのこと。そのため、小さい頃から「一人で静かにお風呂に入りたい」「長風呂して読書したい」と思っていたという。

高校生からボクシングを始めた長沼氏は、ボクシングの名門・東洋大学へ進学。一人暮らしで、憧れだったユニットバスの生活が始まった。しかし「狭くて手足が伸ばせない」「静かで寂しすぎる」と、一週間ほどでユニットバスには飽きてしまったそうだ。大学時代は国体ベスト8の成績を残して卒業。プロに転向後、再び実家の銭湯に浸かっては、湯船で疲れた身体を入念にマッサージするのが日課だった。本人は当時のことを、「プロ時代は自分に甘かったですね…」と振り返る。

引退後は家業を継いで銭湯経営の道へ邁進。多くの方に銭湯を楽しんでもらえたらと、イベントやさまざまな仕掛けも率先して行い、全国各地から銭湯ファンが寿湯に足を運んでいる。長沼氏流の入浴方法は、「身体を元気にする熱湯」と「40℃程度のぬる湯に入ってゆっくりリラックスする」という2パターンがあるのだとか。冬でも銭湯で身体を温めているせいか、長沼氏は風邪を引かないのだそうだ。今回は長沼氏に伺ったお話から、銭湯を習慣に取り入れるだけでパフォーマンスが格段にアップする入浴方法をご紹介したい。

シャワーだけでは疲労回復効果は薄い?

まずは改めて、入浴の効果について確認してみよう。具体的には以下のようなものが挙げられ、いずれも最高のコンディション作りには欠かせないはずだ。

  • 温熱効果で身体の深部まで温める
  • 毛細血管に血液が流れ、筋肉を緩める
  • 新陳代謝が高まる
  • 老廃物や疲労物質が、血液とともに流れ排出しやすい

中には「シャワーだけでも良いのでは?」と思う方がいるだろう。しかし、シャワーだけでは身体の深部まで温められず、このような効果を十分に得ることはできない。そもそも、入浴は「身体を洗う」習慣として捉えるのではなく、身体を強くする、健康になるためのトレーニングの一環と捉えると良いだろう。まさに、入浴は「風呂トレ」なのだ。

疲労回復に最適な「ヒートショック・プロテイン(HSP)」

近年、健康的な入浴といえば「ぬるめのお湯に半身浴」がよく聞かれるようになった。しかし半身浴ではシャワー同様、身体の深部まで温まることができない。極度の疲労が溜まったとき、あるいはリラックスしたいときなどは、好きな入浴剤などを入れてぬるめのお風呂の入ることが効果的な場合もあるだろう。しかし最高のコンディションをつくる入浴では、そのキーワードが「熱湯」「深風呂」「広さ」にあるようだ。

では、なぜ身体の深部まで温めることが大切なのだろうか。それは、体内で発生するタンパク質が関係するという。人間の身体には生命を守るために働く機能があり、免疫力など身体の防御・再生の機能には、さまざまなタンパク質が関係している。その中で痛んだ細胞を修復したり、疲労物質の発生を遅らせたりするのが「ヒートショック・プロテイン(HSP)」だ。HSPはその名の通り熱によって発生するプロテインであり、身体を温めなければ発生しない。発生させるために最適な方法は、42度以上のお湯につかり身体の深部体温を上げることなのだ。

HSPは入浴によって体温が38度になると約1.5倍、38.5度で約2倍に増加。HSPは酵素やコラーゲン、筋肉などのあらゆるタンパク質を修復するため、疲労回復はもちろん風邪の予防、生活習慣・ガンの予防にも効果的と言われているという。

実践!HSP入浴方法

42度で入浴して発生するHSPは2日目が発生のピークとなり、7日目にはなくなってしまう。中2〜3日のペースで週2回銭湯を活用すれば、HSPの効果で身体のコンディションが良い状態に保つことができる。では、実際にどうやって入浴すればよいのだろうか。具体的には以下のポイントを厳守し、安全な入浴を心掛けてほしい。

<ポイント>

  • 絶対に無理をしない
  • 入浴前に水分を一口、入浴している間も小まめな水分補給(下記で紹介する入浴方法の場合、500cc以上が目安)
  • 入浴の際は、徐々に温度に身体を慣らすため、かけ湯を8杯以上して体表温度を上げてから入浴する
  • 立ちくらみ防止のため湯船から急に立ち上がらない

熱湯に慣れていない人は、無理をすると体調不良になってしまうこともある。そのため、以下図を参考にStep1〜7の順番で始めてみよう。

最初は40℃の温度から「1分・1分・2分・3分・3分」の合計10分を目指す。湯船に浸かる間は各1分ほどずつ、湯船から出てインターバルを置くようにしよう。Step1に慣れてきたらStep2、さらにStep3と少しずつレベルを上げていく。我慢して入っているようであれば、まだ適応できていないサインだ。その際は、無理せずレベルを下げるようにしよう。

入浴の際は半身浴で身体の調子をみてから、肩までしっかり浸かる。肩まで入ることで全身が温まり、肩周りの血行促進から肩こりの改善も期待できるだろう。銭湯習慣をつくるように週1回からスタートして、週2回の銭湯が習慣になれば、身体の調子の変化や調整のしやすさを実感できるはずだ。

銭湯が家風呂と効果がまったく違う訳

HSPの効果を知って、「自宅でできるのでは?」と思うかもしれない。しかし、自宅のお風呂ではお湯の温度を一定に保つことが難しく、狭いので身体のリラックス効果が半減してしまう。一昔前はお風呂のない家庭が多く、銭湯を活用されていた。現在はほとんどの家にお風呂があるが、特にユニットバスように狭いお風呂ではリラックス度が変わってしまうという。その点、銭湯は広く、大量のお湯や水深もある。長沼氏は家庭のお風呂と比べた銭湯のメリットについて、具体的に5つ教えてくれた。

①水中の抵抗

大量のお湯と広さによって、銭湯では手足を自由に動かすことができる。水の抵抗は空気の約12倍あり、身体に適度な負荷がかかることで筋肉や肌を刺激し、抹消血管の血液循環を促す。

②浮力

湯船の中では水の浮力によって、空気中にいるときより筋肉を使う必要がない。重力から解放されて、全身の筋肉が弛緩する。

③水圧

水は空気の約1,000倍の重さがある。銭湯に肩までつかることで全身に水圧が加わり、腹部にも圧がかかって内臓が刺激され、横隔膜を押し上げるため自然と腹式呼吸になる。また、水圧は深くなるほど高まるため、立って入れる80㎝以上の深風呂などは、下半身の末端から血液を心臓へ戻りやすくしてくれる。

④温度

一般家庭のお風呂では、38~40度で入っていることが多いはず。しかし前述したように、身体の深部を温めるには熱湯が必要だ。家庭用のお風呂には追い焚き機能もあるが、温度を一定に保つことが難しく、実際に水温をはかってみると設定よりも低いことが。その点、銭湯は温度設定が一定であり、安定した熱湯につかることができる。

⑤水質

東京都内の銭湯は約8割が地下水を利用している。自然の力で濾過された軟水は、お湯が柔らかくお肌に良いお湯と言われているとのこと。他にも、場所によっては人工炭酸泉や超微細気泡風呂(シルク風呂)など、血液循環を促進し、皮膚の表面をマッサージしてくれる効果があるお湯が楽しめる銭湯もある。

銭湯はアスリートからも人気の癒し空間

一流のアスリートに共通している「集中力の高さ」は、心や身体に疲れがあると保つことができない。疲労回復を促す日本独自の文化でもある銭湯は、アスリートや運動愛好家と相性の良い健康施設と言えるだろう。寿湯オーナー・長沼氏は、次のように話してくれた。

「うちの銭湯にも、よくアスリートやお相撲さんがいらっしゃいます。でも、まだ銭湯に入ったことのない人もたくさんいると思います。そんな人たちにも、ぜひ入りに来て欲しい。一度入れば、銭湯の良さがわかると思うんです。足を伸ばしてお風呂に入ることが、こんなに気持ちいいのだ…と。癒される空間での、人とのコミュニケーションや裸の付き合いも銭湯の魅力です。」

心身を強くするほか、疲労回復やリラックス効果の目的にもおすすめの銭湯。長沼氏のように熱意あるオーナーたちが切り盛りする、地域ならではのオリジナリティが楽しめるのも銭湯の大きな魅力といえそうだ。

・参考資料:『銭湯養生訓』神藤啓司(株式会社草隆社刊)

東上野「寿湯」

[著者プロフィール]

たかはし 藍(たかはし あい)
元初代シュートボクシング日本女子フライ級王者。出版社で漫画や実用書、健康書などさまざまな編集経験を持つ。スポーツ関連の記事執筆やアスリートに適した食事・ライフスタイルの指導、講演、一般向けの格闘技レッスン等の活動も行う。逆境を乗り越えようとする者の姿にめっぽう弱い。
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