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なぜ「HIIT」の流行に陰りが見えてきたのか

2010年代頃から、HIITHigh Intensity Interval Training)という言葉がフィットネスやスポーツ界を席巻した。これは強度の高い短時間の運動を、セット間に休憩あるいは軽い運動を挟みながら繰り返すインターバル形式のトレーニング方法のことである。

HIITは短時間で効率よく脂肪を燃焼できるのでダイエットに最適であり、アスリートの有酸素運動能力と無酸素運動能力を同時に向上させる。そんな謳い文句を見聞きした人は多いだろう。実際に数多くのジムや団体が、プログラムにHIITを採用していることを宣伝してきた。世界最大のフィットネス団体と呼ばれるクロスフィットは、その代表例と言えるだろう。ところがここ数年、HIITの効果に懐疑的な意見や研究が目立つようになった。

LIITHILITHIIPA。続々生まれるHIITの派生バージョン

例えばHIITより、ジョギングなどの伝統的な有酸素運動の方が継続しやすいため、長期的なダイエットに向いているという説(*1)が有力視されるようになっている。

*1. The Effects of High Intensity Interval Training vs Steady State Training on Aerobic and Anaerobic Capacity.

また、強度の高い運動をすることによる怪我の危険性や、関節への負担を危惧する専門家も多い。そうしたことから、HIITに似ているが、少し形を変えたコンセプトのトレーニング方法が続々と提唱されている。その主なものは以下の通りだ。

・LIITLow Intensity Interval Training

強度の低い運動をインターバル形式で行うこと。初心者や高齢者、あるいは故障からのリハビリテーションに向いている。

HILITHigh Intensity Low Impact Training

強度は高いが、関節や靱帯への負担が軽い運動インターバル形式で行うこと。ジャンプや重い重量を避け、固定自転車やロウイングなどの継続的動作を行い、主に心肺機能を高めることを目的とする。

HIIPAHigh Intensity Incidental Physical Activity

買い物や通勤などの日常的動作を意識して負荷を高めることで、系統的な運動を行うことと同程度の健康効果を得ることが可能という考え方(*2)。

*2. Short and sporadic bouts in the 2018 US physical activity guidelines: is high-intensity incidental physical activity the new HIIT?

歴史的研究「タバタ」から生じたHIITの誤解

こうした派生バージョンが生まれる背景には、HIITに効果があることは分かっていても、いざ継続して行うには身体的にも心理的にもハードルが高いことが挙げられる。しかし、本来のHIITとは「きつい」ことが前提であり、しかもその「きつい」というレベルは一般人が想像するものよりずっと高い。そもそも、なぜHIITが世界的に注目を浴びるようになったのか。そのキッカケは「タバタ・メソッド」で有名な田畑泉教授が1996年に発表した論文(*3)だろう。

*3. Effects of moderate-intensity endurance and high-intensity intermittent training on anaerobic capacity and ˙VO2max.

この研究で紹介された「タバタ」は、スポーツ界に大きな衝撃を与えた。強度が高い運動を20秒間行い、強度が低い運動を10秒間。それを1ラウンドとして8ラウンド繰り返す。合計の所要時間がたった350秒のインターバル・トレーニングで、心肺能力が飛躍的に向上することが証明されたからだ。しかも、別々に鍛えることがそれまでの常識だった有酸素運動能力と無酸素運動能力を、同時に向上させることも明らかにされた。

「タバタ」は有名になり、そのために誤解や混乱も多く生じた。タバタは本来なら、決して万人に向いたトレーニング方法ではない。そもそも、この論文はスピードスケートの日本代表チームを研究対象にしたものである。この研究で彼らが行った20秒間の「高強度」運動は、VO2max(最大酸素摂取量)の 170%とされている。これはたとえ短時間であっても、一般人がこなせるレベルの強度ではない。日常的に激しいトレーニングを積んでいるアスリートでない限り、そこまで自分を「追い込む」ことはできないのだ。つまりタバタとは、すでに鍛え上げられているエリート・アスリートが、さらに高いレベルを目指すために効果があることを証明されたプロトコルなのである。

トレーニングとエクササイズの違い

HIITを一般向けに「翻訳」するために、さまざまな工夫がなされた。「タバタ」の時間形式(20秒+10秒、8ラウンド)のみを用いて、軽い負荷の運動をする方法もその1つだ。このやり方ならタバタを1日に何セットでも行うことができるし、あるいは行ったと称することができる。また、「手軽にできる」や「緩やかな」と言った形容詞がついたHIITプログラムも人気だ。そうしてHIITを取り組みやすくすることによって、実行や継続へのハードルはやや下がる。

ワークアウトをプログラムする側からすると、HIITは使い勝手が非常に良い形式だ。時間や回数を指定するだけで、無限のバージョンが考えられるからだ。ワークアウトを行う側にしても、ヘトヘトになるまで汗をかくことはできるし、楽しいうえに飽きもこない。まさにウィンウィンである。

HIITの効果を疑問視する専門家の多くは、「エクササイズ」と「トレーニング」の違いを指摘する。エクササイズとはその場限りの身体的活動であり、その最中や直後に気持ちよくなることを目的とする。一方で、トレーニングとは長期的な目標に基づいて行う身体的活動であり、目標に到達することを目的とする。HIITとは語義的にはトレーニングであるはずなのだが、ランダムなエクササイズとして行われることが多いようである。

もちろん、エクササイズとトレーニングのどちらを選択するかは個人次第であり、どちらか一方が優れているというわけでもない。さらに言えば、そのどちらであっても運動初心者には効果がある。どのような種類や形式であっても、運動しないよりはする方がはるかに良いからである。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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