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陸上・十種競技でオリンピック記録!ダミアン・ワーナー選手の記録から「キング・オブ・アスリート」の凄さを紐解く【後編】

王者が「キング・オブ・アスリート」と呼ばれる、陸上競技の十種競技。なぜそれほどに称えられるのか、その理由を探るべく、東京2020オリンピックをオリンピック記録で優勝したダミアン・ワーナー選手の記録をもとに紐解いていく。前回は十種競技そのものの紹介を踏まえ、大会1日目の競技である「100m走」「走り幅跳び」「砲丸投げ」「走り高跳び」「400m走」について、色んな比較を用いながら解説した。続いて今回は、2日目の残り5種目について見ていこう。なお、前回と繰り返しになってしまうが、東京2020オリンピックにおけるワーナー選手の記録は以下の通りだった。

総合

9018点(オリンピック記録、歴代4位)

100m走

10秒12(1066点)※種目別1位

走り幅跳び

8m24cm(1123点)※種目別1位

砲丸投げ

14m80cm(777点)

走り高跳び

2m02cm(822点)

400m走

47秒48(934点)

110mハードル

13秒46(1045点)※種目別1位

円盤投げ

48m67cm(843点)

棒高跳び

4m90cm(880点)

やり投げ

63m44cm(790点)

1500m走

4分31秒08(738点)

十種競技は間を空けずに2日連続で行われる。1日目を終えての疲れは、さすがに一晩で完全に取れるものではない。その状態で選手達は残りの5種目へと挑むのだ。

110mハードル|13秒46

110mの間に高さ106.7cmのハードルが10台設置される110mハードル。著者が競技していた頃は、そもそも106.7cmという高さのハードルを“飛ぶ”こと自体が大きな難関だった。スプリントに加えて高いハードリング技術が求められる競技だが、ワーナー選手は全体でトップの記録を残している。

東京五輪の男子110mハードル決勝、8位の記録は13秒38だった。これに対してワーナー選手は、競技2日目にして僅か0.08秒差となっている。この時点で、110mハードル単独でも十分に世界で戦えるレベルであることが分かるだろう。日本選手権では参加標準記録は13秒60だし、実際に2021年の日本選手権の記録と比べると、ワーナー選手の13秒46は7位に入る。あるいは関東学生陸上競技対校選手権大会(関東インカレ)なら、男子1部A標準の14秒60を1秒以上も上回るのだ。

円盤投げ|48m67cm

砲丸投げと同様、やはり投擲種目では少し全体的に記録の水準が下がってくる。例えば東京五輪の男子円盤投げで優勝したダニエル・スタール選手(スウェーデン)は68m90cmと、ワーナー選手の記録とは20m以上の差があった。しかし、ワーナー選手の出した48m67cmは3位の記録であり、決して侮れるものではない。例えば、関東インカレで男子1部A標準は44m00cmでこれを軽くクリアしている。あるいは2020年全国高等学校リモート陸上競技選手権大会なら、3位に入るほどの記録だ。

なお、円盤は重量が2kgで大きさが直径約22cmある。回転による遠心力から投げ出すが、より遠くへ飛ばすには投射時の速度や角度も重要。さらに足元には直径2.5mのサークルがあり、ここから出るとファールで記録なしとなる。高い技術が必要な種目であり、初めてこの競技に取り組むと、まず「前へ投げる」ことの難しさに直面するだろう。

棒高跳び|4m90cm

ワーナー選手は4m90cmで9位の記録。トップはマイセル・ウイボ選手(エストニア)の5m50cmだった。ワーナー選手の記録は、2020年全国高等学校リモート陸上競技選手権大会なら6位に入る。また、関東インカレなら男子1部B標準が、ちょうどこれと同じ4m90cmだ。ではこの高さ、実際にはどの程度のものなのか。数字だけだと分かりにくいので、いくつかこれに近しい高さ・長さのものを挙げてみよう。以下を見てみると、これを飛び越えることがいかに凄いことか分かるはずだ。

  • 浅草・雷門の大提灯の高さ:3m90cm
  • 車道上の車両用灯器(信号機)の高さ:4m50cm以上(道路構造令規定)
  • ホンダ ステップワゴンの全長:4m76cm
  • 坂本龍馬像の高さ:5m30cm(台座を除く)

棒高跳びについては、少し競技についても解説しておこう。棒高跳びに用いられるポールは、素材や長さ、太さなどに規定がない。身長や筋力、あるいは目標とする高さなどに応じて選手ごとに準備され、多くの選手は高さに応じて数本のポールを使い分ける。素材はグラスファイバーやカーボンファイバー等が一般的だろう。やや簡略的に競技動作を説明すると、助走による力が踏切でポールに伝わり、さらに体重も加わってポールがしなる。するとポールは真っすぐに戻ろうと反発するので、これを活かして身体を上へ。倒立姿勢となってバーを越えるのだが、この「しならせる」「反発力を活かす」のが大変だ。ポールをしならせるには上半身の筋力も欠かせないし、1本のポール上でバランスを保つのも難しい。さらに反発を正しい方向へ向け、バーを越えるための動作を行うのも高い技術が求められる。筆者が競技していたときは、十種の中でこの棒高跳びがもっとも難しく感じていた。

やり投げ|63m44cm

ワーナー選手の記録は7位と、やり投げは苦手種目に含まれるのかもしれない。砲丸投げや円盤投げとは異なり、助走からの投擲が求められるやり投げ。やりは長さ2.6~2.7m、重量805~825g。投げ方だけでなく助走にも技術が求められ、そもそも素人なら「真っすぐ飛ばす」ことすら非常に難しい。

東京五輪・十種競技で、やり投げのトップはカレル・ティルガ選手(エストニア)の73m36mだった。ワーナー選手とは約10mの差があるのだが、それでも関東インカレの男子1部B標準である61m00㎝を超えてくる。なお、同A標準は65m00cmだ。2021年の日本選手権なら、U20男子やり投げで8位入賞となる記録である。

1500m走|4分31秒08

4分31秒08というタイムだけを見ると、それほど速いわけではない。また、ワーナー選手は種目5位だったが、1位のスティーブン・バスティエン選手(アメリカ)は4分26秒95と、それほど大きな差とは言えないだろう。しかし考えて欲しいのは、これが9種目を終えて疲労困憊で迎える最終種目ということだ。1500mを4分31秒ということは、1kmあたり約3分で走っているということ。例えば市民ランナーなら、1kmもついていけない人が多いはずだ。筆者も恐らく同タイムで走り切ることはできるものの、万全の状態でもゴール後は倒れ込んで息切れ状態になる。

十種競技は、まさに全身すべての能力を総動員する競技と言える。1500mを走る段階では、すでに全身が悲鳴をあげ始めている選手だっているだろう。しかし逆転劇も起こる競技であり、最後だからこそ選手達は全力を振り絞る。全身が重く、思うように身体が動いてくれない中での1500mは、実際より長く感じるかもしれない。しかも唯一の中距離種目のため、1500mを得意とする選手は少ないはずだ。そのうえで4分31秒08というタイムは十分に素晴らしく、また驚異的なものと言えるのではないだろうか。

小学生から競技されている混成種目に注目!

東京2020オリンピックで優勝したダミアン・ワーナー選手の記録を取り上げながら、陸上・十種競技の王者が「キング・オブ・アスリート」と呼ばれる理由を紐解いてきた。2回に分けて解説したが、その凄さがお分かりいただけたのではないだろうか。十種競技は単体での種目と比べると、あまり注目される機会はないかもしれない。しかし選手たちは、非常に高いレベルで競っている。十種競技に興味が湧いた方は、まずNHK「東京2020オリンピック」サイトで動画を見てみてほしい。

なお、混成種目は男女とも、そして種目数は少ないが小学生から競技されている。陸上競技の大会を観戦する機会があれば、ぜひ注目してみてはいかがだろうか。

<参考>
2020年全国高等学校リモート陸上競技選手権大会
第105回日本陸上競技選手権大会
NHK 東京2020オリンピック|男子十種競技
第105回日本陸上競技選手権大会 参加資格

※記録等は2021年8月10日時点の情報です

[著者プロフィール]

三河 賢文(みかわ まさふみ)
New Road編集長。“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
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