皆さんは、 「ゾーン」「フロー」という言葉をご存じでしょうか。スポーツの場面以外でも広く知られてきた言葉ですが、知らないという方も多いかもしれません。簡単に言うと、フローは「没頭している状態」、ゾーンはフローの状態から一時的に発生する「極限の集中状態」のことを示します。とは言っても難しく感じるかもしれませんので、「没頭して集中しちゃっている状態」と覚えてください。最近読んでいる『トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法』という本に、ゾーンやフローについて書かれている部分がありました。

フローの状態にあると、無駄な思考は頭に入ってこない。 流れに乗って、最高の力を出しているだけだ。目の前のことだけに集中し、それ以外のことはまったく考えない。 フローとは、「ある活動に完全に没頭し、ただその活動のためだけに動いている状態」だ。 (中略) 自意識は全て消え、完全に集中した状態になる。フローの状態に入ると直感と本能がすべてを支配し、正しい動きが自然に発生して集中力が極限まで高まる。 (中略) ただ直感に従って動く。 筋肉に蓄えられた記憶によって、体が自然に動く。 ゾーンに入ると、何も考えなくても体が自然に反応する。 直感が思考を乗っ取り、正しい行動が自然に発生する。
――『トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法』(かんき出版|著:パトリック・マキューン |訳:桜田 直美)より一部引用

メンタルトレーニングやスポーツ心理学などでは、プレー中に可能な限りゾーンやフローの状態になれるよう目指します。しかし、ふと疑問に思ったことがありました。

目次

インプットが(少)ない状態でゾーンやフローに入ったらどうなる?

冒頭でご紹介した書籍での内容を整理すると、以下のようなことが述べられています。

  • フローの状態にあると無駄な思考は頭に入ってこない
  • フローの状態に入ると直感と本能がすべてを支配する
  • ゾーンに入ると何も考えなくても体が自然に反応する
  • 直感が思考を乗っ取り正しい行動が自然に発生する

ゾーンやフローの考察に入る前に、「直感」について考えてみましょう。プロ棋士である羽生善治さんは直感について、ご自身の著書『直観力』(PHP研究所)で「論理的な思考が昇華したもの」「蓄積された経験をもとに生み出されるもの」と表現しています。そうであれば、経験や知識、思考が少ない状態で直感にすべてを任せるのは、個人的にかなり不安が残ります。アクションゲームに例えるなら、「相手が正面に来たらパンチボタンを押す」という知識と経験だけでは、仮にゾーンに入ってそのゲームをプレーできたとしても、実際のプレーレベルはたかが知れているでしょう。パンチの他にキックやジャンプも使える対戦相手なら、相手が「考えながら」プレーしていたとしても負けてしまうはずです。

つまり、「ゾーンに入っている知識や経験の浅い選手」より、「知識や経験が豊富で考えながらプレーしている選手」の方が強い。 そして、後者の選手同士が相手に勝つために、良いプレーをしようとして(無意識的に良いプレーができる)ゾーンやフローに入ろうと努力する。このことを、若かったり経験が浅かったりする選手は、履き違えているように感じることがあります。

技術レベルが低い状態でゾーンやフローに入ったらどうなる?

何か動作する際、その動きがたとえ間違っていたとしても、脳が動きを蓄積して筋肉が覚えてしまいます。その状態でフローに入れば、「自然と間違った動きを体がしてしまう」ということになるでしょう。ということは、やはりゾーンやフローに入るために努力するのは、ある程度のレベルになってからで十分なのではないでしょうか。それまでは正しい動きを脳(や身体)に覚えさせたり、試行錯誤やインプットを重ねていくことの方が上達への近道だと思います。

結果が出ないとき、あるいは思うようにプレーできないとき、メンタルにフォーカスしてしまう選手を多く見かけます。しかし、一度自分を俯瞰してみてください。まだまだやれること、やらなければいけないことがあることが分かるのではないでしょうか。

By 庄山 大輔 (しょうやま だいすけ)

2019年にアジア人初となるWORLD PADEL TOUR出場を果たし、2021年現在、45歳にして再度世界に挑戦中。全日本パデル選手権二連覇、アジアカップ初代チャンピオン。国内ではコーチ活動も行なっている。モットーは「温故知新」。

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