左:塚本選手、右:徳本選手

トレーニングとトーナメント出場のためスペインに行っていた、徳本選手(日本ランキング1位)と塚本選手(日本ランキング3位)が先月アカデミーに帰ってきました。当然のことながら、プレーやフォームに変化が。コンパクトになっていたり力強くなっていたり、良い意味でプレーに遊びがなくなって帰ってきたなと感じました。今回は、この二人の変化を見て、改めて実感したことについてお伝えします。

目次

邪魔な「赤信号みんなで渡れば怖くない」

彼女たちのように素敵な変化は、いつ見ても嬉しく感じるのと同時に(歳のせいか最近はより嬉しい)、やはり「百聞は一見に如かず」はあるなと感じます。まったく同じアドバイスでも、「誰が言ったのか」によって受け手側の取り方(やアドバイスへの向き合い方)が変わるのは、指導者業界では言わずもがなでしょう。最近はこれに加え、「どこ(の国)で聞いたか」もあるなと実体験も含め感じています。正確には「どのような環境でそのアドバイスを聞いたか」ということなのですが、どんなに良いアドバイスでも「そのアドバイスを実践している人」が周りに一人もいない(もしくは少数の)場合、聞いた人の頭の中に「本当にこのアドバイス取り入れていいのだろうか」という考えが浮かんでいるように思います。個人的には半信半疑ながら、「周りのみんながやっているから私もやる」という、 バンドワゴン効果や同調効果などと呼ばれるものが足を引っ張っいてるなと感じることが少なくありません。昭和世代であれば、「赤信号みんなで渡れば怖くない」というところですね。

突然ですが、以下のうちどれが一番「素直に」吸収できるのでしょう。

  1. 海外で現地のコーチのアドバイスを聞く
  2. 海外で日本人コーチのアドバイスを聞く
  3. 日本で海外から来たコーチのアドバイスを聞く
  4. 日本で日本人コーチのアドバイスを聞く

私自身、2以外は経験しており、言うまでもなく正解だと思うのは1です。3も悪くありませんが、先ほどの行動心理的な要素が足を引っ張る気がしています(他にも色々ありますが)。

スペインなどですでに“競技としてのパデル”を見聞きしている選手たちはそうでもないのですが、国内でのみ練習している人たちにとって、彼・彼女らのアドバイスは飲み込むのに時間がかかっている感じがするのです。

「誰」と「どこ」

「ディフェンス時はもっと壁(レボテ)を使いなさい」

これは、日本のパデル愛好家が一度は絶対にもらうアドバイスでしょう。レボテとは、相手のボールが壁に当たった後、相手コートに返球するパデル独自のショットのこと。これを自分と同レベルの“愛好家”に言われるのと“指導者”に言われるのとでは、受け取り方が違うことでしょう。もし私に透視能力があったなら、「お前が言うな!」というツッコミが腹から上がってきて、喉でギリギリ止まってるような面従腹背な状態の人を何人も見れたかも…なんて、密かに思ってます。私はここを目指しており、ようするに「誰が言うか」ということ。「庄山コーチが言うならもっと意識して壁を使ってみよう」なんて思ってもらえるような指導者になりたいと考えています。

私自身が先ほどのアドバイスを初めて受けたのは、幸いなことにスペイン(海外のコーチ)からでした。後で振り返ってみると、パデルを続ける上でこれは本当に幸運なことだったと捉えています。しかし、スペインでパデルを習い始めた当初は、もちろんレボテなどできるはずもありません。初レボテは綺麗な空振り。現地のコーチや選手たちからは、「あいつ、わざわざスペインまでテニスや卓球でもしにきたのか」のような陰口を言われていました。そういうときは身振り手振り、あるいは表情でなんとなく何を言っているか分かってしまうものです。

このときの私は、パデルを始めた多くの元テニスプレーヤーと同じ「分かっているけど身体が反応してしまう」状態。スペイン語で、この言葉だけはちゃんと伝わるよう覚えようかと、一時期は真剣に悩みました。この「身体が反応してしまう」状態に悩んでいる人には、『その瞬間にかける』(著:室伏重信/原生林出版) という書籍をおすすめします。私も、そんな葛藤の日々を経て、なんとか人並みに壁を使えるようになりました。

この「人並みに壁を使えるようになるまでの時間」ですが、私はパデルを始めると同時にスペインへ行けたことが大きく、国内だけで練習していたとしたら、恐らくもっと時間がかかっていたのではないかと思っています。 

頑張らなくても良い環境を作る

ちょっと立ち止まって、「なぜスペインに行くと上達するのか」を考えてみてください。スペインやアルゼンチンには上達するための環境が整っており、これが一番の理由だと思います。

「周り(の人たち)も同じようなことを当たり前のようにやっているので、自分でも気づかないうちにそれを覚え、それができることに(周りの人たちもできるため)自分では気づかない」

先ほどもお伝えしましたが、今回スペインに行った徳本選手と塚本選手を見てもこのように感じます。良い指導者だけでも、良い選手だけでもダメ。他の要素は今回省きますが、この両方が同時に必要です。

  • 良い指導者がいる。
  • 周りに強い選手がいる。
  • その強い選手が、指導者のアドバイスを忠実に実行しようとしている。
  • そのアドバイスを取り入れた選手で、これまでプロになっている選手が(複数人)いる。

これはアルゼンチンに行ったとき強く感じたことですが、お世話になったアカデミーでは、私がいたプロ予備軍とプロ(レベル)のクラスに分かれていました。ジムで一緒にトレーニングすることもあったのですが、プロのコートでの練習を見る機会がなかったので、一度自分の練習を休んで彼らの練習を見に行きました。すると、強度や求められていることなどに多少の違いはあるものの、基本的に私が普段行っていた練習メニューとほぼ同じ。つまり、プロ予備軍の若い選手たちが「今教わっていることをきちんと体得していけば、プロになれる可能性が高い」と考えるのも、なんら不思議ではありません。

私は常々、強くなるには「闇雲に努力するのではなく、正しい努力をする」と言ってきました。しかし、最近は「良い環境に身を置き、そこで正しい努力する」のがよりベターだと感じています。少し言い方を変えると、歯を食いしばってど根性タイプの努力をしなくても、「(周りのみんなについていこうとしてたら)いつの間にか強くなってた」といった感覚を持ってもらえるのが良いのかなと考え始めているのです。こんな環境を、いつか国内でも作りたい。そのために現在、同志や賛同者を絶賛募集中です。

By 庄山 大輔 (しょうやま だいすけ)

2019年にアジア人初となるWORLD PADEL TOUR出場を果たし、2021年現在、45歳にして再度世界に挑戦中。全日本パデル選手権二連覇、アジアカップ初代チャンピオン。国内ではコーチ活動も行なっている。モットーは「温故知新」。

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