剣道は男性だけでなく、女性も親しむことができる競技です。例えば「全国高等学校体育連盟(高体連)」に登録している剣道部とサッカー部について、それぞれ例話3年度の登録者数は以下の通りとなっています。

  • 剣道部:男子22,108人(63.4%)、女子12,753人(36.6%)
  • サッカー部:男子149,637人(93.3%)、女子10,714人(6.7%)

このように、剣道部は女子部員が全体の36.6%を占めています。一方、サッカー部は女子部員の割合が6.7%。これらの数値を比較すると、剣道は男女の隔てなく親しまれていることがお分かりいただけるはずです。

以前のコラムで剣道の現役寿命が長いことについて触れましたが、これは男性に限った話ではありません。2022年5月に行われた剣道七段審査会(全日本剣道連盟から剣道七段であることの認定を受けるための審査会)で、合格した最高齢の女性は75歳でした。このことから、剣道は性別に関わらず、一生涯親しめる武道であると言えるでしょう。

子どもの習い事としての剣道の魅力

目次

筋力や体力差に関係なく勝負できる

そして、剣道の稽古は男女を区別しません。ほとんどの場合、稽古は男女一緒に行われます。その理由は、剣道の現役寿命が長いことと関係しています。剣道は年齢を重ねても、稽古を続けることで上達できる武道です。年齢を重ねても上達できるということは、剣道における本質的な勝負がパワーやスピードに依存しないことをあらわしていると言えるでしょう。剣道では、年配者が稽古で若者を圧倒している場面を見ることも珍しくありません。

筋力や体力が物をいう競技の場合、年配者が若者を圧倒するのは非常に難しいはずです。しかし、剣道では極々普通のこと。つまり、男女間で筋力や体力に差があったとしても、剣道ではその差を超越して対等な勝負を成立させることができるのです。

剣道では「相手を引き出して打ちなさい」と指導されることがあります。この指導を平たく言い換えると、相手が自分を攻撃せずにはいられない場面を意図的に作り出し、相手が自分に攻撃してくるように誘いをかける戦略とご理解ください。誘いをかけたことで相手が自分に攻撃を仕掛けようと決断し、相手が行動に移ろうとするその兆しを狙いなさいという内容の指導です。

この戦略においては、筋力や体力によるパワーやスピードよりも、相手を誘い出すための勇気が必要と言えます。なぜなら、相手が攻撃してくるように促すわけですから、それは同時に相手からの攻撃をまともに受けてしまうリスクを背負うことと同義だからです。このリスクを背負う勇気を持てたならば、剣道では筋力や体力によるパワーやスピードを凌駕できると私は考えています。勇気を持つことに性別は関係ありません。これこそが、剣道において女性が男性を負かすことができる要因であり、剣道の大きな魅力の1つだと私は考えています。

剣道における男女の違い

とは言っても、すべてが男女同じというわけではありません。剣道のルールでは、女性と男性とで使用する竹刀(しない)の重さが次のように異なります。

 

中学生

高校生

大学・一般

男性

440g以上

480g以上

510g以上

女性

400g以上

420g以上

440g以上

このように、女性が使用する竹刀の重さを男性よりも軽めに設定することで、より性差なく剣道の魅力を味わえるような配慮がなされているのです。

女性が剣道に親しめる環境が整ったのは、比較的最近のことだと言われています。もともと剣道は、刀での斬り合いが源流です。刀は男性のみに持つことが許されていたという歴史的背景から、戦前まで剣道は男性が行うものでした。女性が行う武術・武芸というと、主に薙刀(なぎなた)や弓道が一般的だったそうです。そして、女性が剣道に親しむようになったのは戦後以降。戦後の流れは、剣道にとっても大きな変化を生んだ出来事だったと言えます。

女性が剣道に取り組みやすい環境づくり

女性が剣道に親しめる環境は、今後より一層整備されていくでしょう。全日本剣道連盟では各都道府県単位で女子委員会を設けるよう推し進めていて、女性が剣道に親しむ環境を組織的にバックアップする体制を築こうとしています。結婚や出産・育児により女性が剣道を継続することが難しくなる場面を想定し、試合会場での託児ルーム設置や保育士の確保なども検討され始めているそうです。そうした事情から剣道を中断せざるを得なかった女性剣士にとっては、朗報と言って良いのではないでしょうか。

また、剣道具(剣道の防具)や剣道着・袴(剣道を行うときの服装)などにも、女性が剣道に親しみやすくなるような流れが生まれてきています。これまで剣道具や剣道着・袴は、基本的に男女同じ仕様の物を着用してきました。しかし、最近はより女性の体型に馴染むようにデザインされた剣道具や剣道着・袴も販売されています。男性と女性とでは骨格が異なるため、女性の体型に合わせたカッティングの剣道具や剣道着・袴は、女性にとってより動きやすくなったり、立ち姿を美しく見せたりする効果を期待できるのかもしれません。

剣道の段位における最高位は八段です。現時点で、八段への昇段を叶えた女性剣士は存在しません。剣道界初の偉業を成し遂げる可能性は、すべての女性剣士が持っていると言えるでしょう。女性剣道がどのように発展していくのか、男性剣士である私も楽しみに思います。

By 三森 定行 (みもり さだゆき)

剣道LABO®︎代表・剣道ファシリテーター。自身の剣道経験と映像編集技術を駆使し、社会人剣道家の上達をマンツーマンでサポートしている。東京・神奈川・千葉・埼玉にクライアント多数。全日本剣道連盟 錬士七段。1976年生まれ。

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