剣道の魅力を語る上で欠くことのできないテーマ。それは、「剣道の防具」についてです。剣道は、防具を着けて稽古や試合を行います。そのため、剣道の防具は、剣道家にとって無くてはならない道具の一つです。今回は剣道の防具についてご説明しながら、剣道の魅力をお伝えしましょう。

目次

剣道具の4つの部位

まず、剣道の防具の正式名称についてご紹介します。日本の剣道を統括し代表する公益財団法人全日本剣道連盟(略称:全剣連)では、剣道の防具の正式名称を「剣道具(けんどうぐ)」と定めています。このコラム内でも、剣道の防具を「剣道具」として書き進めますのでお含みおきください。

剣道具は4つの部位で構成されています。

  • 面(めん):頭部・肩・喉・顔面を保護
  • 甲手(こて):左右の拳から前腕にかけ手を保護
  • 胴(どう):胸部と腹部を保護
  • 垂(たれ):腰と局部を保護

剣道具のもっとも重要な役割は、体を保護することです。剣道具を身につけることで、竹刀で打たれた衝撃が緩和されるように作られています。衝撃を和らげる物を身に着けず、竹刀で叩かれたらひどく痛いですから。

剣道具の役割

剣道では「打たれて学びなさい」と指導されることがあります。勝ち負け自体よりも、相手と対峙した時の心の有りようが問われるのが剣道です。剣道では、相手に打たれまいと守りを固めて勝負するのではなく、正々堂々と相手と対峙し勝負する姿勢に価値があります。剣道は打たれないようになるために稽古を行うのではなく、打たれるために稽古を繰り返すと言っても過言ではありません。それでも、打たれるのは誰だって怖い。剣道家は打たれる恐怖心を克服するために、剣道具を着けて稽古を行います。剣道具は単なるプロテクターではなく、剣道家にとって克己心を育むための重要な役割を担っているのです。

また、多くの剣道家にとって、剣道具は個性をアピールするためのツールでもあります。剣道具の喉部と胸部には、それぞれ刺繍や蜀紅(しょっこう)と言われる飾りが施されています。刺繍糸の色や蜀紅の文様などで自分の好みを表現し、他の人たちとの差別化を図ることができるのです。

さらに胴の腹部は、使われている材料や製法によって見た目が異なります。胴の腹部は黒無地が一般的ですが、腹部が赤い胴、紺色の胴、茶色の胴などさまざま。中には、腹部に絵や文字がデザインされている胴を着けている剣道家もいます。その他にも、剣道具を製造するメーカーや販売店によって剣道具の細かい部分の仕様が異なっていて、その違いも剣道家にとっては重要なアピールポイントです。有名な職人さんに依頼して作ってもらった剣道具ともなると、そのこと自体がアピールポイントになることもあります。

剣道具が開発されたのは江戸時代中期。戦国武将の甲冑を基に考案されたと言われています。形状や材質が改良されながら、現在の剣道具の形になったそうです。現代の剣道家が剣道具で個性をアピールしようとする感覚は、戦国武将が甲冑のデザインにこだわったその感覚と似ているのかもしれません。

剣道から日本の歴史を学ぶ

全剣連では、『「剣道」の普及のあり方』という見解を公開しています。以下、全剣連のホームページから抜粋しました。

全剣連は、このような日本独特の文化・武道である剣道をさらに普及させていきたいと考えていますが、一方、剣道の普及とは、単に剣道人口を増加させたり、試合を数多く開催することではありません。正しい普及とは、日常の稽古や試合という競技の剣道を通じて、武士の精神を多くの人々に伝えることです。単なる競技として広めることではないのです。

このような観点から、剣道を学ぶ世界中の皆さんにお伝えしたいことが一つあります。それは、剣道の厳しい稽古を通じて、剣の技を学ぶだけではなく、武士の生活態度やそれを裏付ける武士の精神(心構え)も学んで頂きたいということです。

つまり、武道としての剣道を理解し、その修練をして頂きたいということです。竹刀は武士の刀です。剣道着、袴は武士の正装であり、単なる運動着ではありません。この精神を学ばずに剣道をすることは、単なる肉体的運動をしていることになってしまいます。剣道の奥深さ、文化性を理解して頂きたいと思います。

われわれは、皆様のご理解を得ながら、このような正しい剣道の普及に努めていきたいと考えています。

全剣連ホームページ内『「剣道」の普及のあり方』より抜粋)

剣道は、日本の歴史や文化を学ぶことができる武道です。剣道具も単なるプロテクターではない、日本の歴史の一部ということがご理解いただけると思います。皆さん、剣道に興味が湧いてきませんか?

私が本格的に剣道を始めたのは中学生の頃。当時、剣道具は非常に高価なものでした。中学校で剣道部に入部すると、自動的に自分の剣道具を買い揃えることになります。「こんなに高価なものを買うのだから、もし剣道をやめたくなっても、簡単にやめたいなんて言えなくなるな」と、中学生ながらに覚悟を決めたことを覚えています。

しかし、最近の剣道具は、以前よりも買い求めやすい価格の選択肢が増えました。メーカーや販売店が材料や製造工程をアレンジすることで、比較的安価な剣道具も多く提供されています。以前と比べて剣道を始めるハードルはかなり下がっていますので、今が剣道を始める好機かもしれませんよ。

By 三森 定行 (みもり さだゆき)

剣道LABO®︎代表・剣道ファシリテーター。自身の剣道経験と映像編集技術を駆使し、社会人剣道家の上達をマンツーマンでサポートしている。東京・神奈川・千葉・埼玉にクライアント多数。全日本剣道連盟 錬士七段。1976年生まれ。

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